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「うぇええ!?ちょ、袴田なにやってんだァ!?」



 折り悪く、ぞろぞろ現れた木下達に日向と一緒にいるところを目撃されてしまった。


 あ――。

 マズイと思って、屈めた腰を即座に戻してももう遅い。

 俺を見つけた木下、西村、田中の顔が、これ以上ないくらいにニヤけていく。


「あ、や、ちが、こいつは――」


 弁解の余地などない。

 締りのない顔で三人が俺達を取り囲む。


「なに焦ってんだよおい!散々探して見つけたと思ったらまさかこんなところで……しかも、ええ!?この子あの日向ちゃんじゃん!!やっぱりマサは日向ちゃんにホの字だったんじゃねーかッ!!」

「ちげぇ!盛り上がるな西村!」

「だってこの間も日向ちゃんのことメッチャ注目してたじゃんかよォ!しかもその慌てよう、自分で墓穴掘ってんぞー!!」

「いい訳したって流石に無駄だぞ袴田」

「あ!?」


 腕組みをしながら呆れ顔の田中に続いて、木下が衝撃的な発言をする。


「うんうん、今ばっちりチューしようとしてるとこ見ちゃったしね」

「ハァ!?チュウだあ!?」


 自分の口でその単語を言って耳が赤くなった。

 いやいや違う違う。100%それは違う。


「誤解だバカ!見間違い!」

「隠すな隠すな。そりゃ見られて恥ずかしいだろうけど」


 腹を抱えて冷やかす三人に俺は順番にキックしていく。

 例えそう見えたとしても、そんなことしようなんて考えは全くない。誓ってない。

 つか、そもそもなんで俺が日向に……。

 有り得ない、有り得なさすぎる!


「可哀想に、こんな性格ひねくれた奴に目つけられちゃって」


 日向に同情の眼差しを送るんじゃねえ、田中。

 そしてそこは普通に笑うんじゃなくてフォローをしろ日向。


「一人だけ抜け駆けしてんじゃねーよこら!このリア充!!ずりーぞこの変態!!」

「お前にだけは言われたくねぇ!この脳ミソ下半身が!」

「ねぇねぇ日向ちゃん、いつからこのアホと?つかぶっちゃけどこまでイッた?」


 相変わらず下ネタしか口にしない西村の股間を取りあえず軽く蹴りあげて。これ以上この場を炎上させるわけにはいかないと、非常に面倒くさかったが、それでも真意をもって俺は馬鹿三人に説明した。


 俺と日向が一緒にいたのには特に深い意味はないのだと、そして、俺と日向の間にも特に深い関係もないのだと。


 バカ騒ぎするのはいいが、何も知らない、何の関係もないのにあれやこれや身に覚えのないことを言われたりするのは、流石の日向も嫌な気持ちになるだろうし。


 隣にいる奴はずっと笑顔を絶やさなかったが、俺はこれでも先輩だし、この場を無責任に放っておくわけにはいかない。


 途中キレ気味になったが、なんとか三人を落ち着かせて、まともに喋れるテンションまで戻した。


 まあ最終的に一番もの分かりのいい木下が俺の話を信じ、まず騒いだことを日向に謝罪し、綺麗に纏めてくれたのだが。


「ねえ、ほんとにマサとデキてないのー?」

「デキてないですよー?」


 なんて、それから何度もしつこく迫られても、日向は同じ言葉を返す。俺も俺でなわけねーよと顔を強張らせるも、木下以外はなかなか納得しない様子。


「じゃあなんでお前らつるんでんの」

「ほんとはそういう関係なんだろ?どーせ」


 男女が二人でいる、イコールそういう関係って勝手に決め付けるなっつの。


「まぁまぁ、マサもそんなに怒らないでよ、確かにちょっとびっくりしたけど、でも嘘は言ってないのわかるからさ、そうでしょう?」


 そう言う木下は本当に俺のことを分かってくれてると思う。

 そんな木下に田中と西村も、ほんとにそうなのかぁ、となんだかがっかりしたような顔で俺と日向を見比べる。


 今までのこと全部洗いざらい話したわけじゃないが、一から話したところで俺達の不安定な付き合いはこいつらには到底理解できまい。俺ですらよくわかっていないのだ。ただはっきりしていることは、俺と日向が恋人同士という関係では無いこと、それだけだ。


 まあでも、傍からみたら……そういうふうに見えちゃってるんだな。俺達。

 これから気をつけよう……。って……何をだよ。


「じゃーさッ!!デキてないっていうんだったらこれぐらい良いよな!!」

「はッ?ナニ!?……ちょ!なにすんだよ!!」


 デジカメを片手に持ちながら俺と日向をぐいぐいくっつけ始める西村。


「いいじゃん!記念に写真撮ろうぜ!!日向ちゃんとのツーショット撮ってやるよォ!!」

「ああん!?なに言ってんだてめ!!」

「ほら日向ちゃんもくっついてくっついて!」

「デキてないんだったらいーだろ!記念写真ぐらい!」

「西村おめぇな!って、田中も手伝ってんなよ!!」

「いやー、袴田が女の子と一緒に写る写真なんかこれから先ないと思うとさ、貴重だしよ」

「いいじゃん、マサ、撮ってもらいなよ」

「木下まで……!んなもん撮ってどうすんだよ!」

「どうって、おもひで?」


 大柄な田中にがっちり固定されて逃げるに逃げれない、飛び交う三人の笑い声と俺の叫び声に遂にはなんだなんだと野次馬共が集まってきた。


 なにあれ?


 え、あれ野球部の袴田じゃん?


 あの先輩女子にめっちゃ怖い人じゃん、でもあれ、彼女?……彼女いたの!?


 あの子って日向ちゃんじゃん!え、なに、あの人と付き合ってんの?


 なになに!?なにやってんのあれ?


 外野から勝手な声が聞こえてくる。



「ちげーよ!ジロジロみてんな!」


 野次馬共に吠えれば、今度は悪ノリした日向が俺の右腕にひっついてきた。


「可愛く撮って下さい」


 顔をキリッとさせて、西村に頼む。


「あいよー!」

「あいよー!っじゃねぇ!日向もくっつくなっつの!これじゃあ、本当にカップルみてェだろうが!」

「大丈夫です。私、先輩のこと好きじゃないですから」

「それ満面の笑みで言うことか!?」



 うだうだしてたら、フラッシュが光り、シャッターが押された。


 あからさまに嫌そうな顔をした俺と、これ以上ないくらい良い笑顔の日向。


 なんとも言えないツーショット写真が西村のデジカメに保存された。


 改めて見直すと、なんだこんなことぐらいで、とも思えてしまうが。


 やはり高校時代のこの頃が一番お堅くて面倒臭い時期だったらしく、大勢の視線を無駄に浴びて、外野に好き勝手はやし立てられるのは我慢なら無かったようだ。


 今どうこう言ったところでこれは記憶の再確認、どうにもなりはしないのだが。

 写真を撮ってからすこぶる機嫌が悪くなった俺は、日向となんとか別行動をとろうとするも、木下達三人がえらく日向を気に入って、俺と奴とを無理にでもくっつけようという魂胆なのか。


 日向も一緒に同行させようという話になった。


 俺は周りの目や反応を気にして反対した、日向も先輩の中に割り込むのは、と。意外にも控えめな態度を出してきたが、三人のゴリ押しによって結局ついてくることになってしまった。


 俺はなるべく周りに注目されないようにと、奴らから少し離れるようにして前をずんずん歩いたが。そんなのはまるで無意味で、野球部一お堅い投手と、人気者の優等生がセットでいることにより、生徒達の殆どがその異様な光景を珍しがって俺達一行を凝視していた。


 日向は日向で木下や西村達にやきそばや、アイスを奢ってもらって楽しそうに女の子らしくはしゃいでいた。だけど時折先を歩く俺を追い掛けては声をかけてきた。


 俺は、ほとんど気の無い返事を返していたけど。


 日向は笑顔を貼り付けたまま一生懸命俺の後ろを歩いていた。俺の顔を見ながら。

 なのに俺は、目も合わせていなかった。


 日向はずっと笑っていたけど、今まで普通に話していたくせに別人のように態度を変えた俺に、きっとこの時、嫌な気持ちを抱いたんだろうな……。

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