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 カウンターに置かれたのは、尋常じゃない量の酒瓶、チューハイの缶、ワンカップ。そして、荷造り用のビニール紐。カッターナイフ。1リットルの醤油ボトル……。

 置いたのは、あまり綺麗とは言えない格好の中年男性。

 痩せた体、こけた頬、目の下には濃い隈、ヒッヒッと浅い呼吸を静かにしながら、汗の粒をいくつも肌に浮かべている。背を丸めたその様は、萎れた植物のようで。男性はポケットからよれた紙幣を引っ張り出して、カウンターに落とし。俺をじろりと見上げ、会計を待った。


 店内に異様な空気が流れ、複数の視線が一斉に中年男性に集まる。

 そしてその視線達が次に追うのは、中年男性の正面に立つ俺の方。

 俺だって馬鹿じゃない。

 この目の前の男性が、ただの荷造り用としてこんなものをレジまで持ってきたわけじゃないことぐらい、分かる。


 大量の酒、そして、このビニール紐。カッターナイフ、醤油ボトル。

 採用された時、店長から見せられた「もし買おうとしてたら気をつけて」という、リストの中にあった。

 最悪の組み合わせだ。


 この人――。


 緊張が全身を支配した。

 客達の怪しげな視線が俺に刺さる。

 どうしよう。

 こんなこと初めてだ。今の今までこんなことなかった。

 でも、こんな場所だ、あるんだろうぐらい思っていたら。唐突に起こった。

 しかも、俺の目の前で。


「……」


 俺は動けずにカウンターを見つめる。

 こんなのマニュアルに書いてなかった。どうすればいいんだ。

 このまま会計して、袋に詰めて……。

 それで、普通に送り出していいのか。

 ――いや、良い訳が無い。けど、どうする。じゃあ。

 お客様には売れませんって、言えばいいのか。

 葛藤を繰り返していると。中年男性と目が合った。迷いや不安を宿した瞳だった。

 一体、これ、何に使うんですか。あなたは……。

 瞬きすることを忘れて、数十秒間で様々な言葉が頭の中を駆け巡った。

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