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「いやぁ、うっかり」
「うっかりで済ますな!!」
心の底からそう叫ぶ。悪霊達は空気を読んではくれず、両手を伸ばして次はお前達の番だと言わんばかりに這い寄ってくる。
「もうヤバいって!逃げるぞ……!」
「いいや、逃げん」
「なんでだ!手の打ちようが無いなら今直ぐにでも……!」
「そんな急かすなってあんちゃん、誰が打つ手無しやって?確かに式神は使えなくなっちまったが、奥の手なら……まだ残っとるわ」
逃げ腰になる俺を宥め、奴はまだまだ余裕ありまくりといった表情で笑う。
「今度はなにする気だ」
「なに、見てりゃわかる」
額にこびりついた血を拭い取り、地面に描いた印に垂らし始める八雲。
「あんちゃん、守護霊っての知ってるか」
この一大事に何を言い出すんだ。
「家族、先祖って繋がりのあるもんが護る為に憑くっていうのが一般的なんやけど。条件付けて契約することで自分の守護霊としてものにすることもできるんや、それが人間霊以外でもな」
「どういうことだ」
「俺は
それも驚くぐらいぎょうさんな。と、意味深なことを言い。今度は三度、地に描いた印を踏み鳴らし。
呼び掛ける――。
「さあ来い……!
なんの前触れもなく風が吹き荒れ、木の葉がぶわりと舞い上がる。周りの雰囲気が一変した。張り詰めた空気に思わず身震いをする。
胸がざわついて、何かとんでもないものが来る――と、そう確信できた。
瞬きをしたら、声も失う程の光景が一瞬にして広がった。
先程の勝手に動き出す紅い紙にも驚いたが、それ以上だった。
青白い光、火の玉とでも言えばいいのか。それがぽつぽつと八雲の周りに出現し、あっという間に亡者をも凌駕する
大小様々。ゆらゆら揺れながら、そいつらは生き物のように動き回り。
八雲を囲むようにして、激しく燃え盛る。
常人ならばここまでだろうが。俺にはちゃんと視えた。それが、形も見た目もそれぞれ違う、
八雲の呼び掛けに応え現れ出た、これが守護霊――。
竹中さんの守護霊、鎧兜のヤグラと同じ、いや、数を合わせるならそれ以上か。
この青白い炎の狗達は、そこらにいる奴とは、格が違う。
暗闇を眩く照らすその光は、神々しささえ感じさせ、消える気配は無く、皆牙を剥き出しにして八雲の近くに寄り集まった。
一匹が首を振り上げれば、続けてサイレンみたいな無数の遠吠えが天に打ち上げられる。
「お遊戯の時間や」
亡者達を睨み上げ、その場に留まっていた奴らを八雲の一声が解放した――。
青い炎を纏った軍勢は、一斉に亡者の大群に襲いかかると。殺意にも似た凄まじい勢いでバラバラに散っていこうとする亡者達に喰らいついた。
数秒も経たぬうちに、人間とも呼べない姿に成り果てた者達は、猛追する狗達に蹴散らされ、首元、足の付け根に喰らいつかれた。
亡者はもがき、逃げようと暴れるも敵わず。獲物を捕えた狗達は数メートル程それらを引き摺ると蝋燭の炎を吹き消すかのように亡者諸共暗闇に消えた。
また一頭、そしてまた一頭と。亡者を捕え、引き摺って。消えていく。
狗が消え、亡者が消える。
最後に木にへばりついていた女に襲いかかり、呻き声を上げる女を二頭掛かりで引き摺り。
全ての悪霊がその場から強制退場させられた。
数頭その場に残っていたが、悪霊の気配を感知できなくなったことを確認して、八雲は彼らを何処かに還した。
僅か数分。恐怖の根源を言葉じゃ説明もできない奇妙な技をもって八雲は一掃した。
俺はというと、情けないことにまた腰が抜けてしまって。開いた口を塞ぐことも出来ずにいた。
「ほい、終ったで」
大きく伸びをして、してやったりな顔を見せる八雲。
疲労を表情に混じらせていたが、それでも腰を抜かした俺より余裕ありげに見えた。こいつはどんだけタフなんだ。
「なんだったんだ、今の……、何をしたんだ」
「全体攻撃魔法」
「ふざけてんのか」
「わかりやすく例えてやったんや、まー、ネンピ悪すぎるから、一発が限度やけどもな」
「あの霊達は……どうなったんだ」
「ああ、ちと手荒だが、狛犬共にあの世まで引き摺らせた」
「あれで成仏したのか」
「形的にはな、本来なら一人一人納得させて送るのが一番ええんやろけど、こういう場所じゃそうもいかなくてな。対話もできひんし、強制的に送ってやらなけりゃ一歩も動けん奴らやさかい、でも、ま……。あっちの世界にいきゃ、本当の自分を思い出して、また歩き出せるはずや……、今頃は痛み苦しみからも解放されて少しは楽になっとるやろ。色んなこと忘れて、此処にずっとおるんは、辛いからな」
自分も、残したもんも。きっとな。
複雑そうな表情を浮かべて、そう付け足す八雲。
「ほな体も取り戻したし、今回の仕事の仕上げといきますか」
既に限界のはずの体を動かして、八雲は大破した黒いバンの元へ歩み寄る。
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