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「袴田くんはああいう人達苦手なのね」

「そりゃあなるべく関わりたくないっすよ、……面倒だし……」

「でもあたしには袴田くんもチョイ悪ヤンキー系に見えるけど?あの子達とそんなに見た目変わらなくない?」

「いやいやいやいや!!」


 確かにブリーチして耳にピアスもしてるけども!


「見た目だけっすから!自分で言うのもあれだけど俺これでもかなりのチキンですから!」


 鼻にピアスする度胸もねぇよ!


「そう、高校時代とかヤンチャしてそうな感じしてたんだけどねぇ」

「かなり健全な高校球児でしたよ、黒髪眼鏡だったし……、流石に引退したらコンタクトにして髪染めましたけど」

「あっら、凄いイメチェン」


 因みにイメチェンの理由は黒髪眼鏡だと、何かと周りに真面目君とかガリ勉君とか身に覚えの無いイメージだけの仇名をつけられて嫌になったからである。


 外見変えても内面は全く変わらず、校内騒がせてた不良は好きじゃなかったし、つるもうとも思わなかったけど。


 ああいう、輪から離れるくせに群れて問題起こす奴らはどうにも好きになれない、近所迷惑な不良軍団も、まつ毛ケバケバでドロドロな人間関係作るの得意な女子も然り。


 本当は怖いってだけなのかもしれないが。


「でも、今日平井さんと入ってたら大変だったろーなぁ」


 絶対平井さん怯えちゃうって。


 しかも平井さんは小柄で……その、……悩殺ボディだしな。


 深夜は俺達が必ず誰かついてるけど、怖い思いとかしてるだろうなぁ……。こんな場所だし。



「あらぁ、あの子なら大丈夫よぉ!」

「え!?」

「結構物怖じしないのよ平井さんは」

「でも女の子だし、内心やっぱ……」

「少なくとも袴田くんよりはタフだから」

「まじすか」

「まじよ」


 俺よりタフって……、じゃあ俺どんだけヘタレに見られてるんだよ。


 あ、そういや……。


「青山さん、来る途中あれ……見ました」

「あれ?」

「猫ですよ……猫の」


 平井さんの話をしていたら思い出した。


 青山さんに見たかと聞いてみたら、青山さんは眉間に皺を寄せて俺の頭を軽く叩いた。


「ちょっとぉお!思い出させないでよぉお!」


 あ、やっぱり見たんだ。

 そして予想通りの反応に俺は内心ほくそ笑んでしまった。


「たまに動物の死骸転がってることはあるけど、流石に心臓止まりかけたわよ!」

「俺もですよ、トンネル抜けたら直ぐだったし」

「竹中くんが見たら卒倒ね」

「あー、はは、昨日は竹中さん大変でしたよ」


 そんなこんなで話を続けていたらすっかり時間が経ってしまって、俺と青山さんはいつも通り商品の追加と整理、発注作業、清掃と、深夜帯でやる項目をこなしていった。


 が。


「あいつら、まだいやがる……」


 ヤンキー共はいまだに外でお祭り騒ぎだ。


 ずっと外でバイク乗り回されるのも迷惑だが、店の前で居座られるのはもっと迷惑だ。


 お陰であれから客は一人も来ていない。


 外からは絶えず笑い声が響いて、店にまで普通に聞こえてくる。


 酒がだいぶ入っているのか、手を叩いたり奇声を発している奴もいる。


 俺は呆れ顔で奴らを見ていたが。青山さんに諭される。


「やめときなさい、気にしないのが吉よ」

「だけどあいつら、絶対あれゴミ放置するパターンですよ」

「仕方ないわよ、場所が場所だし、ああいう連中もたまにいるわ」

「……」


 なんか腑に落ちなかったが、俺も出来れば関わりたくなかったので凝視するのをやめた。


 と、思っていたのだが。


 不幸にもまだゴミ捨てが残っていたので、俺はそれから内心嫌々店内のゴミを纏めて、安全地帯の店から、危険地帯の外へと踏み出した。


 八月の蒸し暑い夜風に煽られた瞬間、鼓膜を刺激する下品な笑い声によろけそうになる。



「おっ、店員出てきた」

「なんだよ、苦情いれにきたんかァア?」


 とか言っている声が聞こえたけど、完全無視で足早に店の裏側に回った。


 ああ、俺がもう少し喧嘩が強かったら迷わず抗議してるだろうよ。


 全く……。

 若いっていーよなー。


 何してても楽しいんだろ、人に迷惑かけててもそれに気づかないってある意味幸せなんだろうな。


 って、目の前で言えたらどんなにスカッとするんだろうか。


 無理だけどな。


 イライラを募らせながら重いゴミ袋を抱えて裏側へ。


 やっぱりあの馬鹿笑い聴いてると腹立ってくる。あの、社会の厳しさを一ミリたりとも知らないような笑い顔とか、そんなことやってるぐらいだったら働けくそったれ!


 そんな腹の底で着々と育っていく火種は、店の裏のゴミ捨て場の前まで来たら一気に冷めた。

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