オレオはどこへいった?
響きハレ
オレオはどこへいった?
オレオの販売が終了する、という報道があったのは2016年の2月だった。理由は販売会社と、製品のブランドを所有している会社との間の契約の終了だという話だった。しかしそれは表向きの話だ。オレオが消えたのは、そんな理由じゃない。
俺はオレオを製造する企業で、開発部に勤めていた。おいしいオレオを製造するために、世界中の小麦粉を取り寄せ、室温と湿度の管理された空間で様々なタイプのオレオを製造する、それが開発部の仕事だった。
密室での作業も多い。疲れていた俺は、ある日戯れにオレオに話しかけていたんだ。
「おいしいオレオになってくれよ。みんなのおやつタイムの幸福のためにさ……」
そしたら、「がんばるよ」って聞こえたんだ。
俺は最初、聞き間違いだって思ったね。だけどそれからすぐに「みんなにたくさん食べてほしいな」って続いたんだ。俺は確かにこの耳で聞いた。それでこう思ったんだ、働き過ぎだって。俺はその日、定時であがるとまっすぐ家に帰ってすぐに眠ったよ。
翌朝目が覚めたときには体は元気だった。けどやっぱり気がかりだった。会社に到着して、オレオ開発の業務を再開すると、「おはよう」って聞こえてきた。耳をすますとやっぱり目の前のオレオから聞こえてくるんだ。とうとう俺は精神がまいっちまったんだと思った。そう思ってたときだった。開発室の後輩のM...って奴が、俺をつかまえてこう言うんだ、「先輩、俺、オレオが話しかけてくるのが聞こえるんです」ってね。
俺はM...の肩を掴んで「俺もそうなんだ」って言った。二人で社内を聞きまわったら、オレオの声が聞こえるって奴がけっこういるってことが分かった。それでそいつらも集めて会議を開いたんだ。もちろん、オレオも交えてね。
会議の結果明らかになったのは、オレオには意識があるってことだった。しかも全てのオレオそれぞれに、個別の意識があるっていうことだ。でもずっと昔から意識があったわけじゃない、意識が生じたのはつい最近だ、ってね。もう俺の頭は混乱していたさ。俺たちはみんなで集団妄想を抱いてるんじゃないかって思った。その日は開発の仕事は中止さ。みんな定時前に解散して帰宅した。
けどな、本当におそろしいことに気がついたのはその直後だった。帰り道、道行く人たちの頭にな、花が咲いてるのが見えたんだよ。花だよ、こんなでっかい花がさ。歩くたびに花弁がゆらゆら揺れるんだ。俺は怖くなって自分の頭を揺らしてみた。そしたら感じるんだよ。頭の上に何かが乗ってるってのがさ。触ってみたら、そいつはまぎれもない花だった。鏡で見たときなんか泡を吹きそうだった。
俺は道を歩く兄ちゃんに声をかけてみた。頭に花を咲かせた兄ちゃんにさ。
「頭に咲いてる花が何だか知ってるか」って。
そしたら兄ちゃん、「花? 何言ってるんだ」って言うんだ。
「頭に咲いてるだろう? ほら、これだよ」って兄ちゃんの頭の花を触って示してやったんだ。でも兄ちゃんは何のことだかさっぱりって顔をしていて、しまいにはキレ出す始末さ。俺は謝ってすぐに退散した。どうやらみんな頭の花に気づいていないらしいんだ。
それで俺はすぐに後輩のM...に電話した。
「頭に花が咲いているって、言ったら信じるか?」そう言ったらM...、今にも泣きそうな声で「この花どうしましょう」って言うんだ。やっぱりうちの会社の人間だけが気づいているらしいんだな。
俺はオレオの秘密を知ってるやつらに連絡してすぐに会社に集まるように言った。そしてもう一度オレオを交えて会議さ。
「この頭の花を知ってるか?」ってオレオに聞いてみたらば、オレオのヤツ、「やれやれ、気づいてしまいましたか」ってんだ。やっぱりオレオと関係があった。
しかしオレオのヤツ、その花がいったい何の花なのか、なかなか口を割ろうとしない。頭に来たから、オレオを分解してやるぞって脅したらとうとう本当のところを言ったんだ。
「その頭の花は、オレオを食べた人に寄生する花だ。その花でオレオは真の繁殖をする」ってね。
それで「人体に害はあるのか」って聞いたら「思考能力をいくらか低下させる」って言うんだ。これはマズイって会議でなった。オレオをこのまま生産し続ければどんなことになってしまうか。
会議は紛糾したさ。まだ誰も気づいていないのだからこのままオレオを製造するべきだとか、人道的にそんなことはできないとか。まあ落ち着いたのは、現状気づかれていないだけで、これから気づかれないともかぎらないってところだったな。まあ単純なところだけど。それですぐに製造中止が決定した。
オレオはそれを仕方ないっていう感じで承諾していたね。
オレオの製造が中止されて店頭から消えるにつれて、みんなの頭から花が消えて行った。開発室にいたオレオが言うにはね、「地球での繁殖はもう困難だ、われわれは新天地を目指して宇宙へ行く」ってんだ。それを聞いた夜、何となく夜空を見上げると、ひとすじの明るい光が西の空に消えていくのが見えたよ。あれはオレオだったのかな。
オレオが消えた本当の顛末はこうだ。
しかし、オレオはいったいどこへいっちまったのかな?
オレオはどこへいった? 響きハレ @hibikihare
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます