epilogue



               ♢


 正直、今回の彼女の選択は予想外だった。それもそうだろう。自分を犠牲にしてまで誰かを生かすなど普通はしない。命を賭して子を産む母親ならいざ知らず、だ。

 私は、彼女と契約を交わしてからずっと空を眺めている。空は虹色。契約を交わした時に発生するマナの動き。ゆっくりと時は移ろい、虹も流れる。

 申し遅れたが私は土地神である。いつだったか興味本意で、私の力の一部をこの地域に住む子どもの誰かに分け与えたことがある。力を持った子はどうなるのだろう、と。友達になってくれるだろうか、と。


 それが、中原真白だった。彼女はとても純粋で、いつも真直ぐに前を向いて、全てを受け入れる。そんな子だった。しかし、その性格と家庭環境が相まって彼女は自殺を選んだ。

 それはそれで仕方のない結果か。

 彼女には悪い事をした。そう思っていた。

 でも実際は彼女の友人が犠牲になった。カミサマってのは自由奔放で人の生き死になんてどうでもいいように思われているかもしれないが、私は一応この土地の事が好きだし、自然も大好き。人間だって好きなのだ。大人ならまだしも、子どもが死ぬのは見ていて辛くはある。だから、本来は人間に加担すべきでないところ加担してしまったのだ。自分のせいでもあるし。


『人を想う気持ちってのは、存外難しいものだな』


 私は彼女の事を考える。真白は今頃、現世で最後の1日を過ごしているだろう。自分の力を受け継いだ、言うなれば自分の子とさえ思える真白。

 どうにかしてやる事はできないだろうか。

 ふといい考えが浮かんだ。


『あの契約は真白ではなく私への罰だな』


 これできっと彼女と彼は報われるだろう。少しばかりの制約はつく。もしかしたら、その制約は二人への呪いになるかもしれない。しかし、あの二人ならなんとか乗り切れるはずだ。自己満足で押し付けがましいものではあるが、先ほどの契約を破棄し、一方的に契約を交わした。それが好い事なのか悪い事なのか、誰も決める事はできない。これは私が勝手に決めた事で、今回の全ての責任を負うための私への罰なのだ。

 私の力を、彼女と彼で半分ずつ。そして、私が消えよう。二人は一蓮托生。これからは二人がこの土地の神様で、この土地で生きてもらおう。少しばかり厳しい制約だが二人を存続させるためだ。


『それでは、よろしく頼んだ』


 私は土地神で、母親の気持ちはわからないが命を賭してまで守りたいものがある、という彼女の気持ちは少しわかったような気がした。


             ♢   

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