「今日の晩御飯はカレーだぞい。手伝え」

私:

「お兄様――どうして、わたくし達は、おのずからお鍋とお皿を汚すような作業をしているのでしょうか……?」


兄:

「は?」


私:

「えーと、なんといいますか……料理を作ると、必ず後片付けという現象が発生するでしょう?」


兄:

「まぁ、そりゃ……食べ物作ったら、鍋は汚れるわな」


わたし:

「そうなんですよ! お米を炊いただけでも炊飯器を洗わなければいけないし、パンを一枚焼いても、定期的にパンくずを片付けますし!」


兄:

「……当たり前だろ?」


私:

「何故でしょう……一体なぜ、人は後片付けをするために、ご飯を作るのか……」


兄:

「待て。お前言ってることがおかしいぞ」


私:

「お風呂掃除は好きです。ピカピカになった浴槽の中で、のんびり浸かるのは最高です。お洗濯も好きです。干した洗濯物を取り込む時に、ふわっとした布地の感触が楽しいです」


兄:

「……うん、まぁ綺麗好きなのは良い事だな?」


私:

「どうも。しかしですね……料理というのは、後片付けというのは、基本的に非生産的であり、ただの労働なのですよ!!」


兄:

「?? ごはんを美味しく食べるために料理をするんだろう。後片付けっていうのは、もはや別のベクトルの問題だろ? それより手ぇ動かせ。はよ野菜よこせ」


私:

「あぁ……流しの三角コーナーにじゃがいもとニンジンの皮が溜まっていく……刻んだタマネギがまな板を汚し、特売の牛肉と共に、あふれ出す肉汁までもがステンレスの鍋の中身に噴出されていく……」


兄:

「その発想はおかしい。うまみ成分に謝れ」


私:

「いいえっ、なにもおかしくありませんわ! これから、その手にしたカレールーを投入するおつもりでしょう!? 鍋にこびりついたカレールーは側面に付着して後片付けがたいへんでしょう!?」


兄:

「(無視)……さーて、後は混ぜるだけ~」


私:

「無意味っ! 料理の本質とは、後片付けという名の労働を促すだけの作業です! 見返りが存在しないこの行為に、一体なんの意味が――」


兄:

「おいしくなーれー、おいしくなぁれー。あと妹だーまーれー♪」


私:

「ですから突然歌わないでください。お兄様!」


兄:

「誰のせい~や~ねん~♪」



 このあと、カレーはスタッフがおいしく頂きました。

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