「人生を楽に生きたいから、いろいろ考えるのだ」
兄:
「中学生の頃な。俺は身長130cmぐらいしかなかったんだよ」
私:
「アルバムを拝見したことがありますが、小学生男子にしか見えませんでしたわ」
兄:
「うむ。当時初めて制服に袖を通すことになったわけだが、一番小さなサイズでも丈が合わなくてな。まぁそれはともかく、その時にいろいろ考えたわけだ」
私:
「どうして自分はこんなにチビなのかと?」
兄:
「それもあるが、この身長でどうやって今後楽に暮らしていけるか、悠々自適に鼻クソほじってテレビばかり見ている父親より楽になれるか考えたのだ」
私:
「よく分かりますわ、お兄様。この前はソファーの上でゴロゴロしながら、スマホのガチャを回してSSRが出た喜びのあまり、床の上に落ちて悶絶してましたよね。DNAのなせる業ですわ」
兄:
「羨ましかろう。――まぁともあれ、当時ちびっ子だった俺は、スポーツ関係を頑張ったところで人生楽になりそうもないと考えた。さらに勉強も好きでなかった。あと当時は家が割と貧しくてゲームとかも持ってなかった」
私:
「勉強もダメ。スポーツもダメ。ルックスもダメ。実家はお金持ちでもない。マンガの主人公になれそうなキャラクターですわね。幼馴染はいましたか?」
兄:
「残念ながら当時は一人っ子だったし、毎朝窓から起こしにきてくれる幼馴染もいなかった。あと中学はそもそも、必ず運動部に入ることが義務づけられていた」
私:
「それだけ聞くと、人生ハードモードですね。転生しますか?」
兄:
「転生というイメージは当時なかったが、異形の怪物がとつぜん空から現れて、めためたに町をぶっ壊してくんねーか。ついでに特別なパワーに目覚めて俺無双しねーかなとは思ってた。残念ながら何も起きず、おとなしく水泳部やってたわけだが」
私:
「なぜ水泳でしたの?」
兄:
「陸での運動ならば明確に身体の差が生じるが、水中ならばその差が埋まるのではないかと思っていたのだ」
私:
「……」
兄:
「どうした? 感心して声が出ないか?」
私:
「割と大マジメに感心していますわ、お兄様。確か中学の時に全国大会に出場して、結果を出したから高校の推薦をもらえたのですよね?」
兄:
「そうだよ。三種目ぐらいで県内一位だった。高校に入ってからは周りもエリート揃いで勝てなくなったが、当初の目的通り、俺は人生を楽に生きたかったので、周りが〝勝ち負け〟だの〝誰よりも強くなりたい〟と熱血しているなか、実力はないが、相談相手としてはそこそこ優秀な副部長ポジを獲得し、引退後は生徒会に入り、文化祭の予算を組み立てて、教師の顔を窺いながら大学の推薦をもらったよ?」
私:
「大学ではなにをしていらしたのですか?」
兄:
「マンガばっかり読んでたぞ。ついでにマンガ研究部に入ったな。楽そうだったし、実際楽だったし、やっぱりそこでもマンガに情熱をかけてる人間はいたが、俺は適当に締切だけを守って、部長になって、コ○ケとかイベントばっかり顔を出してた」
私:
「水泳は?」
兄:
「え? 水泳はもう人生には関係なくなったろ?」
私:
「……」
兄:
「ふはは。複雑そうな顔をしているな妹よ。まぁこういう話をするとな。だいたい大人からは評判が良く、青春を現在進行中で謳歌している学生からは評判が悪いものだ。だからたまには一生けんめいな貴様の姿を見ると、人生の先達者として、つい口を挟んでしまうわけだよ――君、もっと肩の力を抜いて生きたまえ」
私:
「性格が悪すぎですわ、お兄様」
兄:
「若者がひたむきに頑張る姿は実に美しい。感動した」
私:
「殴りますわよ」
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