消極的運命論

大空ゲンコ

第1話

 将来がつまらなく感じていた。

 僕は未来を予知する術を持っているからだ。


 ある日。僕は大学の授業の始まる時刻5分前に講義室に着くように家を出た。大学までは地下鉄を使い40分、僕はいつものように5分前に授業を受ける準備ができるだろうと。しかし、地下鉄は大学の最寄り駅の2つ前の駅で急に止まった。非常停止ボタンが押されたのだという。

 10分の遅れ。

 結局、講義には間に合わなかった。


 ある日。僕は友人から、同じサークルのA子が僕に気があるらしいという噂を聞いた。A子は周りからの顔の評価が分かれやすかったが、まぁまぁ僕のタイプではあった。付き合えるのならぜひ付き合いたかった。今すぐにでもA子のところに行って告白しようと思ったが、友人が言うに、だいぶ僕の事を気に入っているらしい。そんなわけで、あちらから告白してくるだろうと

 しかし、その数週間後、A子は同じサークルの先輩と腕を組んで楽しげに歩いていた。因みに、先輩の方から告白したらしい。


 同じようなことが何回もあった。そこで僕は一つの推測に辿り着く。


 


 実際、その推測は的を得ていた。数日間の実験の結果、未来はほぼ100%の確率で、僕の予想の逆の結果になっていた。つまり僕は『未来は自分の予想の逆になる』という一種の未来予知術を身に付けたのだ。しかし、僕の性格なのか、物事をポジティブに考える癖のせいで、未来は悪い方へと進んでいった。

 そこからである、僕が将来がつまらなく感じるようになったのは。

 遠い未来を予想すればするほど、僕の未来は決まっていくのだ。

 それも悪い方向に…。


 未来予知術を身に付けてから1週間後のある日、僕は寝過ごした。10分の遅れ、大学までは30分弱だ。急いで身支度を済ませ家を飛び出した。いつもなら『きっと間に合うはず』とポジティブに考えるのだが、その日の僕は違った。伊達に意識して過ごしてはいない。その日は『きっと間に合わない』と思ったのだ。未来予知術によれば、これで大学には遅刻しないですむのだ。

 ……………………………………………。

 間に合わなかった。

 15分の遅刻、未来予知術に気付いてから初めてそれが外れた瞬間だった。


 まぁそんなこともあるかと考えていた僕だったが、午後になって急に胸がつっかえたような不安に襲われた。次第に怖くなった僕は、僕が履修している心理学の教授の部屋に行き、このことを打ち明けて見ることにした。

「教授、いきなりこんな話をして驚かないでください。………。僕はある程度の未来を予知する術を持っているんです。僕が予想した未来とは逆の未来になるっていう。ほぼ100%ですよ?で、今朝は寝過ごしたんで『講義に遅刻する自分』を予想したんですが、本当に遅刻してしまったんです。そんなんだから、未来をポジティブに予想した時だけこの方法が使えるんじゃないかと思って…。」

 教授はいきなりの事で最初は驚いた様子だったが、すぐ考えるように黙り込んだ。

「あ、信じてないんでしょ?無理もないや、じゃあ一つ予想して見せましょう。

 そこの机の端にあるマグカップはこの後何が起きてもでしょう!!」

「……そうか…。」

 教授は顔を上げて僕の方を見て言った。

「では、君の手をマグカップの横に移動させてくれんか……あぁ触れなくていい。」

「はぁ…。」

 僕は言われるがままマグカップの横に手を添えたその瞬間、机が横に大きく揺れた。

 講師の一人が大きい荷物を抱えてよろついている、どうやら机にぶつかったらしい。

「……す、すいません。」

「いや、いいんだ。」

 教授はそんなことどうでもいいかのように、僕の手を見ていた。

「……うむ。」

 ……そこにはマグカップがおさまっていた。

 マグカップは

 教授は数回頷いたあと、僕の目を真っ直ぐ見てこう言った。


「つまり……、こういうことだよ。」



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消極的運命論 大空ゲンコ @oozora1

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