第2話 僕が大人を嫌いなわけ

僕が家に引きこもってる間、家は静かだった。僕の両親は共働きで、かと言って特別お金を持っているわけでもない、普通の家庭、ただの一軒家だ。


何かご飯を食べようか……そう思った僕は二階の部屋から一回のダイニングに降りてテーブルを見るが、当然食事の作り置きなどしているはずもなく……だから僕はカップ麺を取り出してお湯を入れた。


「まだかなぁ、まだかなぁ……」


なにもない静寂の中でひたすらカップ麺ができるのを待つ。僕はこんな時間を望んでいたのかもしれない、なんて………。

ふとそんなことを考えるとは、僕は案外独りが好きなのかもしれないな、とか思ってみたり。


僕は学校を早退したその日、今ごろ何と言われているだろうかと布団の中でビクビクしていたけど、次の日になってみるとあら不思議……荒川君達の事なんてちっとも気にならなくなっていた。人はそこまでドライになれるのか、それとも僕自身が荒川君達を友達と思っていなかったのか……多分後者だろうな。


僕の、そんなくだらない思考の終わりと共に仕掛けておいたタイマーが鳴り出した。


「やっとできたみたいだ……」


そう言って僕はカップ麺を手に取ろうとした。


プルルルッと、突然電話が鳴り響いた。今から食べようと思ったところなのに……少しの苛立ちを感じながら僕が電話画面の名前を見ると、


[学校]


……まただ、と僕は思った。説明をすると、僕が学校を無断で早退をした後、毎日学校から電話がかかってくるのだ……まぁ、当然の事だろうけど。いつもは親がいる時間、つまりは21:00ごろを見計らって電話が来るけど、わざわざ親がいない時間にかけてくるなんて……。


僕は渋々電話を取った。


「はい、もしもし紺野です」


「紺野君?あら、親御さんは居なかったのね……」


確信犯め、なにをぬけぬけと言うのだか。電話をかけてきたのは担任の菊池由美子先生だった。


「紺野君、親御さんからご相談を受けているのよ、学校に行ってほしいってね」


「はぁ、そうですか……」


わかっているんだ、小学校中学校ならまだしも、高校で不登校になるなんて僕も望んじゃいない。


しばらくの静寂、僕と先生の無言ごっこは僕が勝ったみたい、先生が、今度は少し強い口調で話してきた。


「私もこんな事は言いたくないけどね、クラスの子から聞きました……紺野君、ただ友達と喧嘩しただけで休んでるんですってね」


もうあんなやつら友達なんかじゃないっ、そう言いそうになったが、僕は言葉をぐっと飲み込んだ……変なことを言ってまた先生に説教されるのはごめんだ。


「はい、そうです」


「もう、全くこれだから子供は……」


先生はつぶやいたつもりだろうが、しっかりと声は聞こえている。


「紺野君、明日の放課後に訪問室に来て下さい。そこで今後の事について話し合いましょう」


「せ、先生僕は別に休み続けるとは……」


「これはもう決定したことです、明日の放課後に訪問室……いいですね?」


まったく、これだから大人は……いつも自分が正しいと思って子供の話なんて聞いてくれない………僕はそんな大人は嫌いだ。


「はい、わかりました」


ガチャッと、僕の返事を聞いたのを見計らったのか、挨拶もせずに先生は電話を切った。


「なんだったんだよ……」


そう言いながらテーブルを見ると、さっき僕が食べようとしていたカップ麺が目にとまった。近づいて中を見ると麺がうどんになったような、そんな物体が中に詰まっていた。


「うわっ、まずぃ……」


見た目通り、麺は食べられる物ではなかった。


「明日、学校行くのやめようかなぁ………」


誰も口を持たないテーブルに、僕は一言そう言った。




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