僕とあなた
てふてふと書いて蝶々
僕の場合
第1話 僕がカースト最底辺なわけ
「ははは、それあるわー」
「だよなだよな、あれ超面白かったな」
せめて日本語話せよっと僕、紺野まことは心の中で悪態をつく。いつもあれだのそれだの意味のわからないことばかり話していて、そんな会話が僕は嫌いだった。
「おいおい見ろよ、紺野のやつこっち見てるぜ」
「やだぁ〜」
「…そうだよね、やだよね〜」
わははは、とあいつらが笑った。違う、見ているんじゃなくて睨んでるんだっ…と僕はまた心の中で言い返した。不毛な会話で空気を乱し、会話が途切れると獲物を見つけていじりにいく……僕はそんな人間も嫌いだった。
でも、僕はあいつらに何を言われようとも別に悔しくなんかはない……だって僕は除け者にされたのではない、自分からあの籠の外へと飛び立ったのだから。そう心の中でつぶやきながら、僕は少し前の自分を思い出した。
「なぁなぁまことクン〜、お前昨日のNステ見たよな」
「う、うんもちろんだよ…荒川君が教えてくれた通りジョニーズのパーフォーマンスがもう凄くてっ」
このクラスのカーストトップ、さっき僕を馬鹿にしてきた男子が荒川君だ。この時の僕は新しい高校生活に馴染めるのか不安でしょうがなかった、だからとにかく友達を作ろうと必死だったんだ。
僕は、朝学校に登校するとこんな意味もない会話をさせられて時間がどんどん削られていった……そして昼になれば、
「まことクン、ちょっとジュース買ってきてくんない?俺さ、今渇いちゃってさぁ」
「う、うん今買ってくるよ」
こんな感じに上手い具合にパシリにされてて、でも僕は、それでも荒川君達の事を友達だと思っていたんだ。あの光景を見てしまうまでは……
「大変だ、購買が混んでたから…もう昼の時間が終わっちゃうよっ」
僕はいつも通り、荒川君のためにジュースを買っていた。
「はぁはぁ、あと少しで教室だっ」
教室に近づくと、中からはいつも通り話し声が聞こえていた。
「そういえば、まことクン遅いねぇ」
「そうだね〜」
誰だって、誰かが自分の話をしていれば気になってしまうものだろう……僕も気になって、教室には入らず廊下で話を盗み聞きしていた。
「いやぁ、まことクンはよく話がわかってくれて助かるわぁ」
「いや何言ってんだよ荒川クン、それってつまりただのパシリってことっしょ」
「はっ、確かにそうとも言うな」
「そうしか言わないよ荒川〜、てかこれいつのネタぁ〜」
愕然とした…今まで、たとえいじりはしても僕の事を友達だと思ってくれていると勝手に思っていたけど、そんな甘い考えが通用するほど荒川君達は優しくなかった。
僕は無言で教室の扉を開けた、荒川君達はまだ僕の話で盛り上がっていた。
「あ、やべ…荒川クン、まことクンが帰ってきてるぜ」
一人が僕に気づいて、そしたら荒川君が僕の方に歩いてきた。
「まことクン遅かったねぇ」
そう言いながら、荒川君は買ってきたジュースをひょいっと僕から取り上げた。そういえば、僕は荒川君にありがとうって言われた事が一度もなかったかもしれない……。
僕は荒川君に聞いてみたんだ、僕って荒川君の何?って、そしたら
「何いきなり言い出すんだよまことクン、今のチョーウケるわぁ」
「荒川君にとって僕はただの都合の良いパシリなの?」
僕は重ねて聞いた。
「そんなわけないじゃん、俺らトモダチだろ?」
少しニヤニヤしながらも荒川君は僕にそう言った。とぼけてもむ無駄だ、だって僕はさっきの話を聞いてしまっていたんだから。
「ふざけないでよっ、僕はお前のこと友達なんて一度も思ったことないからなっ」
どこが我慢の限界だったのだろう、ついカッとなった僕はそう言って教室を飛び出した、僕の後ろから何か声が聞こえたけど、そんなの気にする暇もなかった。
「ちくしょうっ………」
その日は教室に戻らず、家に帰った。
その日から一週間、僕は学校を休んだ。
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