間章~人災…新たに放たれる囮と、生み出される怪異たち。

間章~人災…新たに放たれる囮と、生み出される怪異たち~其の一

 明けて翌日の日の出頃。


 朝霧が立ち込める海上に、一隻の仙閣が見えた。


 その仙閣へと上空からゆっくりと降下していく、翼を生やし、羽衣で二人の女性を包んだ異形の鏡の姿があった。


 飛行で体温を奪われて寒さに凍えていた二人は、我先へと仙閣へと降り立つと、迎えを待つ間も体温を少しでも上昇させようと身体を擦っていた。


 こうして国土管理室ビルから逃げ去った女道士二人は、太平洋上に配置されていた仙閣へと退避を完了した。


 飛天夜叉の御鏡…この翼と羽衣を持つ魔鏡法具に乗って、二人はそれなりに厳しい空の旅を終えてやってきたのである。


 「姉さんたち、お帰り。無事でよかった」 


 太平洋上で、そんな二人と待ち合わせ迎え入れたのは、前述の女道士二人と似たような恰好の、一人の女道士であった。


 「助かったわ、秋華チウホァ


 「うう…寒い。秋華、暖かい物を頂戴!」


 「二人とも、冬梅ドンメイが中で暖かい飲み物と紹興酒を用意している。そちらに行け」


 「謝謝する…うう…寒い…冬梅…」


 「冬梅…飲み物…ください!」


 鏡から飛び降り秋華に礼を言うと、寒さに震える春玲チュンリン詩夏シーシァは、競うように仙閣内部へと駆け込んでいった。

 

 羽衣に包まれていたとはいえ、それ相応の速度での空の旅の後。春玲チュンリン詩夏シーシァの二人は身体の芯まで冷え切っていた。

 高空では二人で抱き合って体温を維持していたのだが、それにも限界があった。今は、仙閣の内部に冬梅と暖かい飲み物が待っている。

 そう思うことのみが二人の救いであった。


 「無事でなにより。二人とも、これを飲んで」


 「ああ…ありがとう…冬梅」


 「命の…恩人よ」


 ガチガチと震えながら末の妹へと御礼を言うと、冷え切った二人は差し出されたコップを受け取り、温かい飲み物をちびちびと胃の腑へと流し込んでいった。


 春玲チュンリン

 詩夏シーシァ

 秋華チウホァ

 冬梅ドンメイ


 劉黒龍リウ ヘイロン配下の四姉妹の女道士たちである。 


 この様にして、日本列島で様々な工作を実行していた五星道士の春玲、誌夏の二人は、後方支援を担当していた姉妹道士二人と、生きて合流できたのだった。

 

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