第四十首 おおきみを 祀りて捧ぐ ひとがたの 御目麗しき 物を選びて
阿武隈高地二ヶ所での戦いは、それぞれが激しく苦しいものだった。
私、
とはいえ、すでに私が補佐しなければならない二人はピンチに陥っていた。
渓谷の断崖。その人の脚だけでは到底登りきれない場所に造られた洞窟の入り口。そんな狭い戦場では、すでに米川杉森組が半包囲されていた。
待ち伏せされていたのだから、当然と言えば当然だ。
待ち伏せしていたアンモナイト共とキョンシー共は、一体化して鎧の騎士型となっていた。洞窟入り口の狭い足場の大部分を、先住者として占有していた。
そこに後からやってきた形の二人組は、どうしても残りの足場に追いやられてしまうのだ。
私もまた、そんな状況を改善するべく助言しなければならない厳しい状況に、最初から追いやられていた。
相当難儀しそうな、嫌な状況であった。
ハード・モードを超えたルナティック・モードといったところか。
ザッ! ダンッ! シャッ!
そんな状況下、鎧の騎士姿の敵の一体が鋭い踏み込みを見せ、ヤリイカランスでの攻撃を仕掛ける。狙いは杉森のベジタブルな巨体。
狭い場所での刺突攻撃は有効だ。何しろ逃げる場所が限られる。
鎧の騎士は、そんな地形効果を活かした攻撃を仕掛けてきたのだ。
また、他の鎧姿のキョンシー共も、貝殻ハンマーや貝殻シールドの威力を持って、米川へと迫り圧力を与えてくる。
どうやら米川と杉森を分断して倒そうとしているようだ。
これは私の的確な助言がお見方の勝利の鍵に………
[甘いべよ!]
ガシィッ! ブンッ!
[どすこいだべっ!]
………なりそうもない。どうやら杉森に助言は必要ないようだ。なんと、杉森は正気を取り戻すとヤリイカランスを上手に受け止め、得物を放さぬ鎧騎士ごとどすこいと投げ返したのだ。
「よくも騙してくれただなぁ!」
そう吠える杉森は、先程、キョンシーが人質のフリをして奇襲しようとしたことに怒っていた。
捕らわれた人々を助けようとした行為を嘲笑うような真似をされて、純朴な青年の心を気付つけられた杉森は、動揺して絶望した後、怒りを力に変えて立ち直っていた。
その怒りの力が、鎧騎士の攻撃を受け止め、投げ返したのだ。
[おらの心弄びおっで! 絶対に許さん! バラバラにしてやんぞ!]
再び叫ぶベジタブルボール。その腹部にある偽の双眸は怒りで燃えていた。頭部を隠す麦わら帽子の中の、杉森の本物の双眸も、燃え盛っていることだろう。
やるな、ベジタブルボール手足&ファーマー!
私には優秀な配下がいるようだ!
その一方。
ギュンギュンギュンギュンッ! ブンッ!
[そりゃあっ! サーフィングボード・スパイラル!]
ドカッ! ドカドカドカァッ!!! クルクルクルクルッ! パシッ!
トロピカル&サーファーな米川も負けてはいなかった。鎧の騎士数体をサーフィンのボードで一気に薙ぎ払い、戻って来たボードをブーメランのように受け止める。
どうやら、私の助言を必要としない優等生は、杉森だけでなく米川も同様だったようだ。
私は、優秀な配下がいると知り、鼻が高い。
[うおりゃっ! ふんっ!]
バァアア―――ンンン! ドシーンッ!
投げ返されて地を這っていたヤリイカランス持ちに、ジャンピングスタンプを繰り出した杉森。鎧の騎士はベジタブルボールのボディに圧し潰され、ヤリイカランスごと消滅していく。
[ふん、手間掛けさせやがっで。これで最後だな米川ぁ! 奥に行くべ!]
[応! 行くべ!]
大勝利! お見方の大勝利であった! 見事! うむ! 見事であった!
[米川に杉森、見事である! 次もこの調子で頼むぞ!]
大変宜しい。配下を褒めることも総領の務めである。私はこの調子で頼むと二人を鼓舞した。
[了解です、総領さま。この奥の鬼神塚も、ちゃっちゃと始末します]
[何の! 十三人衆の二人としで、この程度当然です]
まんざらでもない反応の二人。このまま言葉通りに首尾よく鬼神塚を破壊して貰いたいものだ。
この時、私はまだ楽観していた。まさか私の先祖に関係するあんな敵が出てくるとは、少しも思ってもいなかったのだ。
[よっしゃ! 奥さ行くべ!]
[了解だべ! 鬼神塚を壊すべ!]
敵側の第一陣を撃破し、意気揚々と洞窟の奥へと突き進む二人。
異変が起きたのは、次の開けた一角へと抜け出た瞬間だった。
ボコボコボコボコボコボコボコボコ! ボコボコボコボコボコボコボコボコ!
ボコボコボコボコボコボコボコボコ! ボコボコボコボコボコボコボコボコ!
[なんだあっ!]
[うん? こりゃあ、埴輪の列だっぺよ!]
まずは米川杉森の退路を塞ぐように、多数の円筒埴輪が土の下から柵上に突き出してきた。
続いて、四方を囲む柵となる円筒埴輪の列が突き出してくる。
[なんで、我が先祖と因縁がある埴輪が…]
仮本部にいた私は、送られてきた動画を見て困惑していた。
それにこれは………洞窟の中に造られた埴輪のリング?
円筒埴輪を境にして四方を囲まれた足場は、柔らかい砂地であった。柵の中に捕らわれた二人は、まさにそのリングの上にいるのだ。
[⁉ 杉森、上だっ! 避けろ!]
[⁉ おおっ!]
洞窟の上から、砂地へと降りてくる巨大な影! それは!
[なんと! 形象埴輪! 巨大な守人型…いや、武将型か!]
私が叫んだ通り、円筒埴輪が四方の柵となって造られた四角いリングに、武将型の形象埴輪が降り立ったのだった。
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