第四十一首 地のそこに 祀りおさめし 依代の いくさ人らと ちから競わん

 (イラッ)


 洞窟の奥で敵として現れた円筒埴輪と形象埴輪。現在、砂のリング上ではこいつらが米川杉森組と睨み合っている格好だ。


 (イライラッ)


 二人のジャケットから送られてくる画像は、洞窟の奥であっても途切れることなくクリアであった。私がいる仮設司令部にも、そのままの動画を送り続けてくる。 

 (イライライラッ)


 この事態に、私はかなりイラついていた。


 なぜならば、全然関係ない輩に自分のルーツが突然奪われた感覚を覚えたからである。埴輪は現在、我が土師はにしの一門のマスコットキャラクターにもなっている。また、私自身も自分の式神として使用している。


 それ故に、私は土師一門の著作物が不当に使われたと感じているのだ。


 正直、某ウル〇ラな宇宙人の著作権問題のように、大陸の輩が勝手に埴輪を使うんじゃねえよ。兵馬俑でも使っていやがれ!


 私は、声を大にしてそう叫びたい次第であった。


 私がそのように怒りでイラついていた頃。


 リングに仁王立ちする巨大な形象埴輪を見ても、前線の米川や杉森は結構呑気であった。


 [なんか…総領さまが好きそうな敵が出てきただよ。倒しだら土産にすっが?]


 [杉森ょお、やめとげ。なんかおら、怒られる気がすっべよ]


 [そうがあ、まじまじと見つめると、結構愛嬌がある気がすっけどなあ…]


 呆れた!


 お前らなあ。敵のボスっぽい敵が目の前に控えているっていうのに、何を呑気な…いや、ちょっと杉森の考えも解らなくは…いや、鎧の造形がちょっと甘い気が………はっ!

 

 [こちら、てる! 米川杉森、よく聞け!]


 [総領さま、なんでしょうか]


 [へえ、こちら杉森です。オーダーをどうぞ]


 [土産とか気にせずに任務を優先しろ! 他に言うべきことはない! 以上!]


 [了解しました]


 [解りましたぁ]


 [総領さま、土産はいらんらしいなぁ。んだばぁ、俺が行って埴輪さ懲らしめるだよ]


 [そうだぁ。土産にしても返って迷惑だあ。あんにゃあでがいと、置く場所にこまるっぺよ。がんばれよぅ、杉森ぃ]


 [任せてくんろ。畑さ耕すように、ちゃっちゃと始末してくるだ] 


 杉森は米川にそう言い残すと、五メートルはある巨大な形象埴輪に向かい、一歩二歩と砂のリングを進んでいく。

 肉弾戦なら任せろと、鍬を米川の許に置いて進んだ真ん丸ボディがガチンコファイトスタイルで構えを取った。


 ザッ!

 

 その姿を見て形象埴輪も、受けて立つと肉弾戦の構えを取る。巨体の腰に佩いた剣は抜かない。


 ザザッ!


 [フウッ…行くべ! ベジタブルパワー・フルスロットル!]


 敵の間合いに入る直前、一旦止まってフウッと息を吐く杉森。その真ん丸ボディと手足が、むくむくむくむくと巨大化していく。


 真ん丸キャベツのボディがより艶やかに、より青みを増して良く茂る。それに倣って手足もボディの大きさに合わせて巨大化した。


 当初、二メートル程度だった杉森のベジタブル&ファーマーボディは四メートル程の巨大さとなり、形象埴輪と肉弾戦を戦うのに相応しい姿となっていた。


勤勉に 働く者を 支えるは 色とりどりの 大地の恵み 旅行く我を 支えるもまた


 そんな歌を詠むがごとく、野菜に感謝を捧げた杉森がぶちかましを巨大形象埴輪に仕掛ける。

 

 [いざ参るだぁ!]


 [ごおおおおおっ!]


 ズガァアアア―――ンンンン!!!!


 敵もさるもの負けてはいない。砂のリングの上で巨大なキャベツ玉と形象埴輪の体が激しくぶつかり合った。


 ………グググググググ………バッ! ドンッ! ドンッ!


 [どっせいっ!]


 [グオオオオオオッ!]


 つっぱり! ツッパリ! つっぱり! ツッパリ! つっぱり! ツッパリ!


 つっぱり! ツッパリ! つっぱり! ツッパリ! つっぱり! ツッパリ!


 つっぱり! ツッパリ! つっぱり! ツッパリ! つっぱり! ツッパリ!


 ばんっ! パンッ! ばんっ! パンッ! ばんっ! パンッ! ばんっ!


 パンッ! ばんっ! パンッ! ばんっ! パンッ! ばんっ! パンッ!


 ばんっ! パンッ! ばんっ! パンッ!


 ばんっ! ばんばんばんばんばんっ! パンッ! パンパンパンパンパンッ!


 一度組み合っての力比べの後、後方ジャンプ。再びの激突。そこから互いに一歩も譲らぬ張り手合戦!

 キャベツの身体と埴輪の身体を叩き返すべく、互いに激しいラッシュを諦めない! 

 決着の行方はまるで見えなかった!


 しかし!


 [ぬおおおっ! 負けられねぇだ! 米川ぁ! 光をくれぇ!]   


 先に勝負に出たのは杉森であった!


 [心得た! トロピカル糖度11! スターフルーツパワー! 荒ぶれよ俺の糖度! 燃えて輝くほどヒート! 受け取れぇ! 杉森ぃ!]


 南洋に 様々稔る 果実から 力を借りて 戦臨まん 燦燦と 光り輝く 太陽の下


 [受け取っただよ、友情の後方支援! ベジタブルパワー開放だべ! ツインポワロホーン!]


 ザワッ! ザワザワザワザワザワザワザワッ!


 ニョキッ! ニョキニョキニョキニョキキッ!


 何たることか! キャベツ玉の葉が青々と繁る一方、上に乗っている麦わら帽子の左右から、葱の角がニョキニョキと伸びてくるではないか!


 [喰らうだ! ベジタブルギガチャージ!]


 麦わら帽子に生えた葱の角を姿勢を低くして突き出し、キャベツ玉が満を持して突進した!


 ああっ! だがしかし!


 ガシィッ! ガイィッ!


 巨大形象埴輪が、キャベツ玉の二本の葱角をつかんで突進を押し留め、強引にリングへと押し倒そうとする! 

 

 [まだだべっ! 力を貸してくれだ米川に報いるっぺよ!]


 [行げえ! 杉森ぃ!]


 ボワァッ!


 それでも杉森は諦めない。米川の声援に応えるようにキャベツ玉の身体が謎の発光現象を引き起こし、再び前進を試みる!


 ピキッ! ピキピキピキッ! ピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキッ!


 ビキビキィッ!


 何と言う杉森の友情のベジタブル葱パワー!


 キャベツ玉の全身を押し留めようと、葱角を掴む巨大形象埴輪の腕が、指先から根元までひび割れ、崩壊していくではないか!


 ドッガァアア―――ン! ザザザザザザァ!


 ヤッター! 後方に吹き飛ばされる形象埴輪! 


 [杉森に米川、二人とも見事だ!]


 これには仮本部で映像を視聴していた私もニッコリだ。


 草壁水脈からの報告では、どうやら八雲八重垣組もうまくやっているそうだ。米川杉森組もこれで問題は解決………んん?


 二人の偉大な奇跡が形象埴輪の両腕を完全に砕き、これで埴輪となって蘇った古代戦士の残滓を完全に断ち切った………はずなのだが、何か様子が変だぞ?


 …オオオ………オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…

 

 ⁉


 腕を失った形象埴輪に、リングの柵役だった円筒埴輪が集まって来ている………


 まさかこの流れは…キングな単細胞生物とか、その感と同じと…


 …ザワザワザワザワザワザ………ゴワゴワゴワゴワゴワ!


 マズイ!


 [やっぱりか! 腕が再生しただと⁉]


 ダンッ!


 驚きで仮本部の机を勢いよく叩いた私は、勢い余って一人叫んだのだった!

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