第三十七首 地のそこに 埋もれ残りし その姿 歳月こえて 今ひとたびの

 阿武隈高地の別々の場所で、二組のコンビそれぞれの戦いが開始された。


 こちらは水源地帯に向かった八雲八重垣組だ。


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 ドッッ! ザアアアアアアアアアアア…………ゴポポポッ…ゴポッ………


 キャロットドローンから連続で発射されたマイクロミサイルが、湖の堰を爆発で破壊した。溜まって澱んでいた湧き水が、流れを取りもどして堰の残骸を伴い下流へと向かって行く。

 時間の流れに比例して、湖の水位が徐々に下がっていき、泣かす付近の水面から首長竜の頭部らしきものが大気の中へと現れる。


 [ほほう]

 

 私は、姿を見せた生物もどきを見て、感嘆の声を上げた。


 [あれが…フタバスズキリュウか!]


 その姿は、かつて日本の福島いわきで化石が発見され、西暦2006年にようやく新属新種として登録された、エラスモサウルス科のフタバスズキリュウそのものであった。

 如何に鬼神塚建立によって無理矢理に現世に呼び寄せられ、再現された古代生物とはいえ、その姿を実際に見ると、浪漫を感じて見入ってしまう。


 ジャキッ!


 しかし、実際にフタバスズキリュウモドキと戦うことになる和歌と唄にしてみれば、浪漫なんて感じている余裕などなかった。


 ここで負ければ食い殺されるのである。ゲームじゃないのでリスボーンはできない。一回限りの一発勝負であった。


 [いきますの! にゃんコード・ライフォー!]


 ズドンッ! キィィンッ!


 水位が下がることを待ち構えて、対物ライフルの準備を間に合わせた和歌が、早速、狙撃での開幕KILLを狙うが、首長竜の霊威フィールドで弾道を逸らされて明後日の方向へと飛んでいってしまった。


 [硬い! 霊装貫通弾ですのよ⁉]


 私がいる仮設本部にも、黒猫セーラー服姿となった和歌の驚きの声が聞こえてくる。霊装貫通弾を逸らせるとは、私も驚きだ。


 ピュピュッ ピュピュッ ピュピュッ


 そこに、かねてから自分の研究所ラボで戦闘をトレースしていた草壁水脈みおのコール音が入った。何だよ?


 [水脈みおか。何だ?]


 [総領さま、こちらの分析では、スズキリュウのモドキの防壁は気圧断層との二重構造になっているようです。霊威フィールドを霊装貫通弾で突破しても、空気の壁が弾を物理的に逸らしています]


 [気圧断層? 空気の壁? なにそれ?]


 [モドキの周りに冷たい低気圧性の壁が存在していて、周辺の暖かい空気の侵入を阻んでいます。調度それに被せるように霊威フィールドが展開されていて、威力が減じた貫通弾も、空気の壁に当たると逸らされてしまうのです]


 [なるほど! 良く解らん!]


 [とにかく、霊威の壁と空気の壁が二重になっていて、一方を突破しても、もう一方の壁に逸らされてしまうのです]


 [それじゃあ、両方の壁を突破しないとモドキは倒せない?]


 [そうです]


 [よし解った。そういう事らしい。和歌、唄、何とかしろ!]

 

 [水脈さん、総領さま、良く解る説明ありがとうですの!]


 [和歌ちゃん、一度後退します。その後、ユニゾンして連続攻撃しましょう。水脈さん、キャロットドローンを追尾モードで残します。更なる敵の分析を願います。どうぞ]

 

 [和歌、了解。唄ちゃん南西の方角へ逃げるよ。どうぞ]


 [唄、了解。どうぞ]


 指定した方向に、脱兎のごとく逃げ出すセーラー服とブレザー姿の二人。

  

 [こちら水脈、分析は了解です。分析し終わったデータをリアルタイムで送信し続けます。どうぞ]

 

 [こちら土師はにしのてるだ。戦闘の途中にすまんが、草壁水脈、和歌と唄のサポートはお前に一任する。そちらはお前の方が的確に助言できそうだからな。私は米川、杉森組に集中する。頼むぞ!]


 ここで私が和歌と唄組のサポートをギブアップ宣言。


 米川と杉森組の戦いも激しくなってきている。他に適任の者がいるならそちらに投げる。その方が、私も、和歌唄組も、米川杉森組も幸せだろう。水脈には悪いかもしれんが。


 [え…頑張ります]


 [頼んだぞ、水脈!] 

 

 [仕方ありませんの…あっ!]


 [来るよ! 和歌ちゃん、気をつけて!]


 [こちら水脈、周辺の水の流れが変化しています。モドキに周辺に大量の水が集まっています。和歌ちゃんに唄ちゃん気をつけて。これは…]


 どうやらモドキも、長々とこちらが作戦を練ることやサポートの受け渡しを長々と待ってはくれないらしい。逃げ出した和歌と唄に、バックアタックを仕掛ける態勢だ。


 キャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………………


 ゴオオオオオオオ………ズッドオオオオオオオオオオオオンンン………


 一旦、モドキに集まった水が、激流となって和歌と唄の逃げていく方向に放たれた。周辺の枯れ木や小枝や諸々を押し流して、乙女等を追い掛けるように向かってくる。

 それは場所こそ違うが、ある光景に酷似していた。その時を素人ビデオが撮影した光景を、多くの人がめにしている。

 振り向いた和歌と唄が、その光景を見て、貌を歪める。


[⁉ 大震災の津波みたいですの!]


[糞野郎! 嫌な光景の再現しやがって! 絶対にぶっ殺す! 和歌ちゃん跳ぶよ!]


[了解ですの!]


 走る速度を落とした和歌に、後方から追い付いた唄は、相棒の身体をお姫様抱っこに抱き抱えてエスケープジャンプを敢行した。

 それから唄、本性晒さないで。怖いよ。 


 ダンッ!


 唄が、その両足に兎の脚力が付与されていることを最大限に活かし、力強く大地を蹴る。


 そして、空を弧を描いて舞った二人は、大地に力強く根ざし、他の大木の根と根を絡み合わせた、一際巨大な木の梢に降り立つ。


 ゴオオオオオオオオオオオオオ…ダンッ…バキッ……ゴオオオ……………………


 激流の到達に伴い、流されてきた諸々が、和歌と唄が身を寄せた大木にぶち当たるが、堅牢な大木は揺るがなかった。


 […和歌ちゃん、大丈夫? 反撃しますよ]


 [大丈夫ですの。助かりましたの唄ちゃん。ここから反撃開始ですの.特化型ジャケットを纏ったわたくしたちの実力、存分に味合わせてあげますの!]

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