本編 第三局 笠間の地へ 折り媛 夢現の継承
第二十九首 我が住処 災禍の内に 消え失せん あめつちの則 ときに厳しく
戦いの後。
ドォンッ! ゴォオオオオオオオオオオンンン!!!!
国土管理室が存在していた古めかしいビルは、轟音と共にガス爆発を起こし、炎の中に包まれ消えていった。当然、各部屋に設置した燃焼促進座によって火力を高めてある。
そこまでしないと、化け物制御用に建立された鬼神塚及び、使われた死体の浄化はできないのだ。あそこまで酷い状況だと、炎と火に関連する神々の力によって浄化する以外、手段がないのだ。
ここでの後始末を終えた私、四季すみれとその一行は、その激しい火炎に包まれた建物の光景を、炎が発する光に照らされながら見守った。
本当のところは、燃える建物を職場にしていた仲間の様子を見守っていたのであるが。
すなわち、ここで出会い、助けた土御門の御大と菅家の姫君を。
「…他に延焼しないと良いのですけど」
「…ええ、そうね」
「…はいです」
私と、四季の女神で唯一残った佐保ちゃんは、水月ほとりの呟きにそう返答して、土御門の御大と菅家の姫君が静かに祈りを捧げているのを待ち続けた。
ほとり君は、車のハンドルを握って私たち同様に二人を待ち続けていた。彼とは、ビルを燃やす用意をはじめてすぐに合流し、見張り役などしてもらっていた。
この後は、この場にいる全員を乗せての移動手段になってもらう。
連戦の後で心苦しいが、任務に適う者が彼しかいない。
一方、土御門の御大と菅家の姫君といえば―――
―――静かに。
—――ただ静かにビルで亡くなった方々へと祈りを捧げていた。
―――我が住処 災禍の内に 消え失せん
そうして祈りの時間が終わった後、燃えるビルの光景を土御門の翁は寂しそうに一瞥すると、菅原夏月と共に、水月ほとりが回した車の後部座席に乗り込んだ。
私、佐保ちゃん、ほとり君も、燃えるビルに一礼一拝して、ウェアウルフレディZへと乗り込んだ。
ほとり君が運転席。私と佐保ちゃんが助手席。後部座席に御大と夏月ちゃんである。
なお、饕餮との戦いで半壊したスカイライナーは、
さすがにあそこまで損傷が酷いと車道では目立つ。空を飛んでの移動を続けると無関係の者たちには刺激が強すぎる。そういった理由で、ほとり君が大枚叩いて運ちゃんを雇った次第である。
スカイライナーは、私たちよりも速く、次の目的地へと向かっている。
話が逸れた。戻す。
これより土御門の翁を含む私と一行は、
そのための時間は押しており、私たちが悲しみに沈んでいられる時は残り少なかった。できれば早朝までにその地、茨城県笠間市の片田舎へとアクセスし、到着したかった。
それに、国土管理室ビルを廃棄したのには、もう一つ理由がある。
あえて国土管理室ビルを燃やしたことによって、大陸からやってきた道士たちが強硬策に打って出てきたことを、日本各地にいる呪術師たちに大々的にアピールすることが可能だ。
明日の早朝には各メディアによってビル火災は放送され、国土管理室ビルが日本の霊的防衛の拠点であったと識る者たちは、その意味に気付くだろう。
—――国土管理室ビルが襲撃を受けた―――
—――中華を名乗る蛮族の走狗共の攻撃を受けたぞ―――
―――もはや、両陣営の総力戦なくして事態の解決はない―――
—――皆々、油断召されるな―――
我々は、少々平和ボケが過ぎる同輩たちに、そう強く印象付けしなければならないのだ。
これよりの戦いは、外敵に対し日本の呪術師たちが総力を結集しなければならなくなる。
それ故に、私たち一行は東国の
「あの…ほとり様、すみれ様」
「何です? 夏月さん」
夏月ちゃんの呼び掛けに、発進前のほとり君はシフトレバーをパーキングのまま動かさずに応じ、私はただ助手席から振り向いた。
「笠間にいる方々は、どういった謂れを持つ方々なのでしょうか? 私、あまり詳しくはなくて」
「ふむ…元々は菅原家と同様、朝廷の貴族であった土師氏を先祖に持つ方々ですが…」
「…なにしろ歴史が長いから、坂東武者や地元の人々は当然として、
「…もともと朝廷から距離を取っていた上に、さらに距離を取って仏法に帰依して、そちらの呪術を学んだ方々も少なからずいらっしゃいます」
「…私たちが向かうのは、そういった連中の総領ね。思考が坂東武者だから、けっこうお堅いのよ、あいつは」
順番に知っていることを、夏月ちゃんに語って聞かせる私とほとり君。
ちなみに、話の中にあった凶目神とされたという言葉の意味は、裏切者ってこと。
イザナギノミコが目を洗った時に生まれた三神の末裔なのに、朝廷に仇なす荒神、怨霊みたいになりやがって! 朝敵認定して追討してやる!
そう、都合が悪いからって、一方的にやられた連中のことである。
逆切れ格好悪い。
なお、各氏族ともだいたい朝廷を無視して東下りした模様。
って、話が逸れた。戻す。
「あの子の名前は
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