第二十六首 うら若き 乙女の如き 晴れ着にて 花のごとくに 舞うはうるわし
―――パァアアアアアアアアアアアアアアアッ………
依代とひとつとなった僕の周辺に光に満ち満ちていく。
この日、日本列島の東ではまた一人、うら若き乙女が人の枠を跳び越えて八百万の神々の一柱と一体になろうとしていた。
まあ、僕…筒姫によって半ば強引にだけど。ちょっとその辺りの事情については非常時だったから、大目に見て欲しいな。うん。
さて、改めまして。
光の中、重なるうら若き人の乙女…すなわち
光の中、重なる四季の女神の人柱…すなわち夏を司る筒姫が。
今、過去から連綿と続いてきた戦いの運命に導かれて、一つの姿へと変化していく。
憑依合体!
光の中、僕と重なった夏月が裸体となる。身に纏っていたレディーススーツや各種インナー、ヒール、その他、薄い化粧などが一旦消え失せたのだ。
これは、僕、筒姫の霊力のよって分解されたためだ。
そして、無駄な衣服が消え失せたところに、夏月に相応しい礼装が改めて出現し、その装備が各部位を覆っていく…いかなかった。
ええと、僕と一体化した依代に相応しい衣装っと。いやあ、衣装選びの主導権を握っていると、色々と考えてしまうな。
ちょっと迷う僕。
でも、佐保ちゃんや竜田ちゃんが仕立てるような、品の良い衣装にするのはちと苦しいが、僕が司る夏らしい装いを造り出してみせるぞっと。
しかし、あれも良いし、あっちも可愛い。あれは…あの衣装は駄目か。僕は良いと思うのだけれど。
すみれちゃんには、あの衣装は子供っぽいから駄目。コスプレ風俗が好きなロリコン勢にアピールしてどうするの。とにかく嫌…だなんて昔言われちゃったしな…うーん………
………いや、待てよ。いいじゃないか!
ウサ耳と浴衣ドレス、いいよね!
凛々しいすみれちゃんと違って、幸い夏月ちゃんは日本人らしく童顔だし、身体も柔らかだ。あのウサ耳や浴衣ドレスを身に付ければ、申し分なく似合うだろう。
そもそも、憑依合体の相手は夏月ちゃんですみれちゃんじゃない。すみれちゃんの意見に配慮しなければならない理由はないじゃん!
うん! ティンときた!
僕が僕の責任で、夏月ちゃんの個性を壊さない程度に、可愛らしく華やかで夏らしい装いに仕立ててあげれば良いんじゃないかな!
よし! この方針で行こう!
やったね、すむれちゃん。兎耳と浴衣ドレス仲間が増えるよ!
僕、筒姫の霊威フィールドが変化して、神の依代…いや、現世に顕現した女神の新たな肉体を覆っていく。兎耳や浴衣ドレスとして。
良いねえ! 可愛いよ! これは会心の出来だ!
僕によって設えられたそれは、ウサ耳と浴衣ドレスは、じつに女神ににふさわしい装束であった。
そうであると僕が保証するよ。
さあ、霊装の装着完了だ! 夏の女神筒姫の、本領を発揮する見せ場がやって来たのだ!
「…え??? ⁉ !…ッキャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
憑依合体が終了し、自分の身に何が起こったか理解した夏月ちゃんは羞恥心で貌を真っ赤にして叫んだ。羞恥心の限界を越える事態に、叫ばずにはいられなかったようだ。
空中で自分の身体を丸め、両手で胸部を隠すように肩を抱いている。もちろん、豊かな胸とかは隠せていない。
小学生の時分にとっくに卒業した魔法少女ごっこを、とつぜん他者によってやらされた気分なのだろう。
ぞくぞくぞく! ふうっ…
…この乙女の羞恥心の叫び声…いい…八百万の神々よ。筒姫は今、天上の調べを聞いておりますぞ…っと、僕が愉悦する邪神ごっこしていてどうするのよ。
今は敵の増援に、新たな姿になって手に入れた力で対抗しなくっちゃ!
それに、そもそも僕が用意した、ウサ耳も浴衣ドレスも素敵でしょう。
すみれちゃんの巫女姿が紅白を基調としてシンプルだったから、こっちは色が被らないように青と白を基調にして、フリル増し増しにしたっていうのに。
夏の大空を思わせる、涼し気な青と白を基調にした浴衣ドレスは、ウサ耳と相俟ってとっても似合っているっていうのに。
大型化した縦笛とのマッチングも、現代の白拍子みたいで神秘的だもの。
本当、失礼しちゃうなあ………マズイ。話が逸れた。
修正修正っと!
(夏月ちゃん、恥ずかしがってないで、敵と戦わなくっちゃ。今の君の能力なら、屋上の輩を封殺できる。自分を信じて!)
僕は、遅ればせながら正論で夏月ちゃんの説得を試みる。魔法少女モノの物語などで、困惑する主人公を説得するお約束のシーンのようなものだ。
「うー、この年になって魔法少女の真似事をすることになるなんて…筒姫様、恥かし過ぎます…くすん」
(ありゃ。これは冗談抜きにヤバイかも)
僕は、夏月ちゃんの返事にちょっと焦った。夏月ちゃんは泣き顔も可愛いなあ…違う。どうやら夏月ちゃんは羞恥心により物事を解決する順番…すなわち優先事項が解らなくなっているらしい。
この非常時にスカートの下はアンダースコートだというのに、頻りに浴衣ドレスのスカート部分の短さを気にしている。
完全に羞恥心の除去優先になってるし。
なお、僕は何も悪くないと強弁しておく。憑依合体は必要だったんだよ! うん!
(あー、こりゃ、僕が夏月ちゃんを戦いに導かないと駄目なヤツだ。うーん…このくらいの年齢の女の子をコントロールするには…そう! 恋だね!)
僕は、一体化した夏月ちゃんの記憶をちょっと覗き見して、彼女の恋焦がれる瞼の奥の君の情報を取得しようと試みる。
えーと、こいつは違う。こいつもこいつも違う。あれも別。あれは………!
おや、これはこれは。あいつか~
(うん。ああすればいけるいける)
僕は、ある人物を利用した秘策を思いつき、悦に入ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます