第二十三首 終点に 待ち受けるのは 鬼か蛇か 虎口に入りて 虎児を得んとす
ウェアウルフレディZが疾走している車道の先に、別の通路との交差点が見えてきた。
その合流する道路の停止線で2台のバイクは停止し、私たちが前方を通り過ぎるのを待っているようだった。
突如として彼方からやってきた2台のバイク。それらに邪悪な気配は感じられなかった。また、私たちに悪意を持っているようでもない。
再びの私の霊査。
うむ。どうやら彼等が敵愾心を抱いているのは、私たちではなく、私たちを追い掛けてくる怪物たちのようだ。
「すみれちゃん、あの人たちは敵ではないようです」
「そうね。ほとり君が呼んでくれた退魔師が来てくれたみたい。どうやら、追っ手の相手をする気でいるみたい」
「いずれにしても、味方が増えるのは良い事だね。これで僕らは、目的地のビルに突撃するだけ。問題はそちらの敵をどうするかだ」
そういえば、ほとり君が味方を呼んだとメールを送ってきていた。彼らが味方と知って、ほっと胸を撫で下ろす私たち。
どうやら追っ手の問題はあの二人が片付けてくれそうだ。この場合、彼らが怪物たち以上の実力を秘めていると思うしかない。
そう。今私たちの優先順位の一番目は、目的地に到着すること。邪魔をする怪物たちに時間を割いている場合じゃない。
ブィイインッ ブィイインッ
ブゥウウウンッ ブゥンッ
そんな私たちの事情を知ってか知らずか、某作品の1号が登場するオープニングのようにエンジンを吹かして、2台は早く行けと私たちを急かす。
「ここは御言葉に甘えることにしましょう。ZENNKI、お願い」
[了解。本車両はここまま加速して行きます]
ブオンッ!
交差点に入り込まず、合流する車道の停止線で待つバイク乗り二人。その前方をウェアウルフレディZが加速して通過すると、バイク乗りたちは交差点の真ん中へと進み、私たちを追い掛けてくる怪物たちに立ちはだかる。接敵は時間の問題だった。
私たちは、そこまで確認して意識を前方に待つビル方向へと移した。今は、後方の戦いを呑気に見物している場合ではないのだ。
「佐保ちゃん筒ちゃん。準備は良い?」
「はい。佐保たちは生贄付きの鬼神塚と…」
「…生き残っている土御門の人たちを探せば良いんだよね?」
「good」
その言葉通り、この先には怪物たちを召喚した輩と、怪物制御用の生贄付の鬼神塚があると思う。
召喚師と護衛の怪物の始末は私が担当するから、鬼神塚の穢れを少しでも掃う弱体化と、生き残りの人たちを探す役目は、佐保ちゃん筒ちゃんに一任する計画だ。
霊力で繋がっている私たちは、皆まで言わなくともツーカーの間柄なのだ。
実際、小さな身体で自在に飛ぶ能力を持つ佐保ちゃん筒ちゃんには、うってつけの任務である。それ以外にも、佐保ちゃん筒ちゃんにはそれぞれ、春夏の女神らしく、風を操る能力と音響探査能力がある。
特に筒ちゃんは、得意の篠笛の音色での音響探査がある。
私は、ノリだけで意味もなく、四季の女神の四柱同時結びをした訳ではない。後先を考えての四季の女神結びであったのだ。
[目標、あと1キロメートルを切りました。後、30秒程で目的地に到着します]
さあ、討ち入りの瞬間がやって来た。
「それでは皆様方よござんすね?」
「えいえいっ」
「おー」
「それでは、入ります」
そのようにふざける私たちの周辺の熱が急速に低下した。私と憑依合体している宇津保姫の力の影響だ。宇津保姫の力によって、吹雪を巻き起こすために必要な熱量が大気から奪われているのだ。
寒いぜぇ! そして熱いぜぇ! 私の周りは!
奪われた熱量エネルギーは、私自身の運動エネルギーや、吹雪を巻き起こすための力となり、余剰分は大地へと放出されていく。
また、逆に体内の熱量を得物に移して、武器強化や、他者の身体に触れての火傷攻撃などにも使用される。
「突撃と同時に散開! ZENNKI! お願い!」
[了解。ビルの正門を突破します。御武運を]
そう返答するZENNKIとは別に、無言で肯く佐保ちゃん筒ちゃんであった。
フィィイイイイイイイイインッ………キキキキキキキィ!!!!
………ドッガァァァァアアアンンンンッ!!!!
前方探査装置のスキャニングで、建物の配置を読み取ったウェアウルフレディZが加速。防御用の霊威フィールド最大出力。急停止とカーブを織り交ぜて、車体側面から門に突撃、突破する。
バタンッ!
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
続いて私は、サイドドアを開くと同時に、両腕を前方に据え千早の袖から猛烈な吹雪を放出した。
今まさに、私に跳び掛からんと待ち受けていたキョンシー数体が凍り付く。その内一体は空中で凍り付き、落下して粉々となる。
私の連続攻撃は止まらない。横合いから飛び掛かってきたキョンシーに向って私は右足を振り上げた。右足は振り上げただけであったが、一緒に振り上げられた緋袴から、数十枚の手裏剣が剥離し撃ち出された。大地に放熱される熱量もおまけに。
竜田姫と宇津田姫の能力のコラボレーション、灼熱の椛手裏剣である。
ズザッ! シュザザザッ!
哀れ。灼熱の手裏剣に八つ裂きにされたキョンシーの胴体と四肢が、敷地内へとバラバラに吹き飛ぶ。
私は、さらに左脚を振り上げ、残るキョンシーたちに追加攻撃の牽制を実行する。
その隙に、ウェアウルフレディZから飛び出す佐保ちゃん筒ちゃん。
「ふわわわっ、ビル自体が鬼神塚にされています。内部に死体が大量に運び込まれて…これは、佐保だけでは掃い切れません…やりますけど」
早速、春風の大祓詞の儀の準備に勤しむ佐保ちゃん。しかし、ビル内部の穢れの酷さに早くもげんなりしているようだ…やる気は失っていないようだが。
「酷いね…僕はビルの内部で生き残っている人を探すよ。すみれちゃん!」
その一方、筒ちゃんといえば佐保ちゃんに同情しつつも、己がやるべきことを見失ってはいないようだ。
「了解!」
私は、残りのキョンシー共を牽制しつつ、もう一度足を蹴り上げて、緋袴の椛手裏剣を撃ち出す。今度はビルのガラス窓に向ってもだ。
ガッシャァァァン。
その椛手裏剣の一つが、上手にビルのガラス窓に直撃して穴を開けた。
「好機!」
その機を逃さず、巧みに飛んで建物への進入を果たし、内部へと消えていく筒ちゃん。
私と言えば、一人、強い霊威を感じるビルの屋上へと視線を移す。
巨大な霊威は三つ。二つは道士たちだろう。それにプラスして操られた大型のキョンシー!
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
標的、見つけたり!
私は、両方の千早の袖から滅多矢鱈に激しい吹雪を放ってみせた。吹雪により、周辺どころか屋上の上もが視界不良となる。
タンッ………シュタッ!
数秒後。目潰しで安全を確保した私の姿が、その屋上へと降り立っていたのは、別にお可笑しなことではない。
飛行能力はデフォルト。ちゃんと能力範囲内を駆使しての移動であった。
「さあ…クライマックスよ」
予想外の事態にキョドる二人の道士と、巨大キョンシーのその前で、私は大見栄を切ってみせるのであった。さあ、お前ら…自分の罪を数えろ的に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます