第二十二首 和を持って 尊しとなす 土地に生き 轡を並べぬ 訳はあらざり
敵の正体…三面を持つ怪物二体の姿に、私はちょっとだけ安心した。だって私は…自分より強い相手に会いに行く…なんてバトルマニアじゃないのだから。
それに、これから戦う相手が三面六臂の鬼神ではないと解れば、そりゃあ大半の者は安心するというものだ。
術法の入り混じった連続攻撃に我が身がさらされるのは、誰だって真っ平御免である。
ごそごそごそごそ。
そんな時。
私のかなり豊かになっていた胸部の内側が蠢いた。そして。
「ぷはぁですの」
「ふう…」
白衣の合わせ目から、
それは、四季の人型に結ばれた残り二柱の女神、佐保姫と筒姫であった。私と憑依合体しなかった二柱の女神は、この様にコンパクトな姿で現世へと顕現していたのだ。
正直、四季の女神たちの謂れは、当初に置いては平安の世に創作された存在であり、弱々しいものであった。
しかし、数々の和歌、短歌に謳われ、人々に長年親しまれたことで、自然崇拝や様々な要素と習合することとなり、こうして正真正銘の女神の姿を得るまでに至っていたのだった。
「すみれちゃん、とってととっても胸をドキドキさせていたのです。私たち、吃驚仰天して、こうして出てきちゃったです」
「出てきたよー」
「佐保ちゃん、筒ちゃん…って、来る!」
私と四季の女神たちがそうこうしている間にも、車の後方の右側、左側に陣取る怪物はスピードアップして、ウェアウルフレディZに取り付こうとして接近していた。
私は、一旦、佐保ちゃん筒ちゃんとの対話は棚上げとして、怪物迎撃に出ようとした。
こいつら…宇津田姫の氷結の吹雪をお見舞いしてくれようぞ。
[敵のスキャニング完了。適切な対処方法の決定、承認までに、時間を稼ぎます]
え?
そこに、ウェアウルフレディZに搭載されていたZENNKIシステムから突然の通達があった。
そういえば我が方のお味方は、人型だけではなく、自動走行する車もいたのである。まだここのには、私たちを守ってくれる存在がいたのだった。
「ZENNKI、助かる!」
まずは、Zに宿るZENNKIに任せてみるのも一興か。どうやってあの怪物二体に対抗するのか?
そう私が考えているうちに、Zは早々に迎撃準備を整える。
[エアロパーツ変形。後方に臭気ガス発生装置を作動させます。同乗者はサイドガラス等を確実に閉め、被害を受けないように心掛けてください。10秒後、シュールストレミングガスの発生を行います]
「」「」「」
一瞬、頭が真っ白になる私たち。
音声ガイダンスと共に、車背面部がガタンと変形する振動が私たちに伝わってきた。
「ひえ…」
「ちょっ、怖いです怖いです!」
「予想外が過ぎるよ!」
konnnaこんな手段があったとは。これは…かつてない程に臭そう。
悲鳴混じりの声を上げて、私、佐保ちゃん、筒ちゃんは瞼を見開いてリアガラスの向こう側へと視線を送る。
すると、車の後方の、もう手が届きそうな距離に二体の怪物が見えた。
時間稼ぎ…のはずだよね。シュールストレミングの匂いはオーバーキルな気がするのだが………そういえば、敵は三面の怪物。単純計算で臭気ガスの威力は三倍な気がする。
うまくいけば、これだけで倒せそうな気がしてきた。
そう考え、戦慄しつつ後方で何が始まるのか見守る私と四季の女神二柱。
パキッ! プシャッ!
空気が後方に抜けるエアロパーツに仕掛けられていた缶詰が、無慈悲に封を開けられる!
そして然る後、設置されていた缶がパージされた。
「グケェエエエッ!」 「ギャォオオオッ!」 「ギュィイイイッ!」
「グガアッ!」 「ギュエエッ!」 「クォケーッ!」
強烈な臭気を嗅いでしまった三面を持つ二体の怪物は、どの顔の鼻を押さえれば良いのかも解らずに、悶絶したまま車道を逸れて側道の茂みや街路樹へと突っ込んだ。だって、腕は二本しかないじゃん。
ポカーン。
その光景に、間抜け面を晒して見入ってしまう私たち。その合間にも自動運転のウェアウルフレディZは走り続け、側道に突入して悶絶し続ける怪物の姿は次第に後方へと遠ざかっていった。
残りのもう一体の空飛ぶ怪物も、これにはどう対処してよいのか解らないらしく、山面の怪物二体の上空を旋回していた。
…ああ、もう。
怖いわー。シュールストレミング怖いわー。意図的にその缶詰を製造する人間も怖いわー。
事態の経緯を受けて、私がそんなことを考えていると、胸元の佐保ちゃんが声を上げ始めた。
「ねえねえ、すみれちゃん。これはもう佐保たちの勝利ですよね。あの怪物たちは放っておいて、早く国土管理室のビルを目指すです。GOなのです」
「佐保…それってフラグ」
私の胸元で無邪気に喜ぶ佐保ちゃんに対し、冷静な筒ちゃんがツッコむ。正直、そのフラグは私も感じた。
事実、それはフラグだった。
もう、かなりの距離を引き離し、怪物二体の姿は小さく見えるのみであったが、鼻腔の機能を一時的にシャットダウンしたのか、二体はのそりと立ち上がり、追い上げの体勢を取り始めた。
空飛ぶ三面の鳥と連携して、もう一度我々に襲い掛かってくるようだ。
「さすがにあれだけじゃ倒せないか。都合の良い妄想だったわ」
「でも、倒すには無理でも、時間稼ぎには十分だったのです」
「まあ、嫌がらせとしては十分過ぎたはずだよ。見世物としてもね」
私たちは、そう感想を言い合い、気を引き締める。敵も馬鹿ではない。次は対策をしてくるだろう。もう臭気攻撃は実用的ではあるまい。佐保ちゃんと筒ちゃんも厳しい表情となる。
やはり私が、竜田姫と宇津田姫のダブルな力を使いこなし、奴等を迎撃しなければならないようだ。
さあ。ソロプレイの時間だ。貴様等、私の経験値となるが良い。
私は、そう覚悟を決めてウェアウルフレディZのサイドガラスを全開にしようと腕を動した。
ブォオオオン………
そのように動きだしたすぐ後のことだ。私はバイクマフラーの排気音が聴こえた気がした。
そちらに霊差すると、別の道路との合流ポイントの向こう側から、新たな気配が感じられた。
何者だ?
ブォオオオッ ブオオオオッ
ブォンブォンブォンブォンッ
敵か味方か。二輪の車体のマフラーから爆音を響かせ、二台のバイクが交差点の向こう側からこちらに近付いてくるのだった。
メモ
ライダー! ラァイダー!
御法童迅ガーディアンソウル
ムーンライトこと瑠璃光脇侍 月天
バイク:スーパームーン・ホッパー
シャイニングこと瑠璃光脇侍 日天
バイク:朧なるブラックサン
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