第十一首 疾く速く 天下の大路 走り抜け 百鬼夜行を 蹴散らし征かん
月夜天狗のうた♬
作詞 私
作曲 あなたの心の中で
夜風に 耳を傾け 助けの声 聞き取る
ZUNと 御魂震える 護国の
疾風!
月の光を 浴びて 見参!
裂空!
月夜切り裂き 怨敵 退散!
天 空 清浄
陰 気 即滅
今宵も 光集め 式を
撃てば
始動 するぞ
ウェアウルフレディ(ゼェェット!)
飛ばせぇ 飛ぉばせぇ
スカイィー ライナァー
環状経由で 東名高速
跳ばせ(陸を) 飛ばせ(空を) 月夜天狗
行きまぁ~す!
横浜 過ぎ去り
賢き処へ
疾風 裂空 月夜天狗
やりまぁ~す!
私の即興でのテーマな歌!を聞き終えて、水月ほとりはゴハァっと何か吐き出した。そりゃ、突然に自分を題材にして創作されたテーマソングを聞かされたら、誰だって気分が悪くなるだろう。
ほとりは蒼い貌になりながらも、それを我慢して素早く片手でウェットティッシュを取り出す。
ハンドル周りをサッと拭くためだ。自分のミスは素早くケアする気質なのだろう。その動作は中々に見事であった。
これ等は、ほとり君の愛車、ウェアウルフレディZ内部のことである。
「あのすみれさん…やめてくれませんか。勝手に僕のテーマソングを創作して歌うのは。それも本人の前で」
つうっとこめかみ辺りから汗を流し、ほとり君が私に懇願してきた。ハンドルを拭き掃除しながら
「ヤダ。ちょっとした意趣返しよ。月夜天狗さん。二番行っとく?」
「やめてください。死んで…それは大げさですけど、ちょっとした拷問ですよね、それ」
「…そんなことより、国土管理室に連絡取れたん?」
「露骨に無視された…先程から呼び出しをしていますが、通話は繋がりません。」
素気無く私はほとり君の懇願を無視し、別の問題を質問した。そちらの問題も芳しくなかった。24時間体制の国土管理室は、基本的に繋がらない理由はない。
「…そちらも当方に迎撃の用意あり…しなくちゃならないようだね、水月くん」
「こうも状況が動いているとは…そのことは申し訳ないです」
「まあ仕方ない。うまい酒も飲めたし、そのことはチャラにしよう。でも、後で請求するものは請求するからね」
「それだけで済むなら御の字です」
「じゃあ、話はここまで。急ごう」
「はい」
私は、テーマソングのことを露骨に誤魔化しつつ、彼が私を奇妙な厄介事に巻き込んだことを許した。
ヒステリー彼女じゃあるまいし、彼氏にマウントを取るように、ほとり君にいつまでも文句を言っていても仕方がない。
妙なことになっているのは、それをやった連中が悪いのであって、ほとり君が悪いのではないのだから。
それに、そもそも私たちは恋人同士じゃないし。
たまたま…じゃないけれど、相乗りになっただけですし。
そんな私たちを乗せ、国土管理室本部がある霞ヶ関へと向かい、高速道路を疾走する二台のスポーツカー。
一台はウェアウルフレディZ。そして、その背後には自動運転モードのスカイライナーが続く。
2020年の五輪の際に整備された横浜環状線から、東名高速道路へとアクセスする青葉インターチェンジ・ジャンクション。
そこで高速に乗って出口の世田谷区まで。そこから千代田区の霞ヶ関へと向かうルートを、私たちは走破する予定だ。
なにしろ高級車二台による豪華な旅路だ。
それに気付いた周囲を走行する車の運転手、同乗者からの、若干の羨望と奇異の目を受け入れた私は、ただただ、この旅路に何事もないことを望んでいた。無理とは何となく理解していたが…
…やっぱりこの感覚は、良くないことのフラグかしらね。
そう思った私は、はあっと溜息は吐いた。
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