第十首 ちはやぶる 神のませます 東路を 下りて往かん 我と供輩

 「ありがとうございましたぁ~」


 カラン♪ コロン♬ カラン♪ 


 女将役の店員のルーチンワークな声と、ウインドチャイムの見送りを後に、私と水月は、ほろ酔い加減といった態で小粋な居酒屋から退出した。


 「では」


 「あ、よろしく」


 早速、水月が店の側の駐車場から個人所有の車を始動させて、自動操縦モードで私たちが待つ路肩へと寄せてきた。

 事前に自動操縦装置付きだから酔っ払いも安心だと聞いている。


 とはいえ、公共交通機関を使用して、この地で待ち合わせをした私が、現時点で水月が利用している車両を利用することは初めてだ。

 当然、その姿を初めて見ることとなる。


 さて、どんな車両が現れることか。 


 (…んん? そう言えば…なんか嫌な予感がするな…)


 短くない付き合いだ。私は水月ほとりという男性が、公共交通機関が発展していない、男性だと知っている…だから。


 「あれですよ、すみれさん。あれで私のパートナーたちです♪」


 「ほっ、ほほうっ(焦)」 

 

 (うおっ。やっぱり田舎のあんちゃん臭が強いのが来た)


 現れた二台の車両を認識し、私は辟易した。


 両車とも日山にっさんのスポーツカーの系譜で、素人目でも改造費が億を下らないと解る車両であった。

 正直、2億あるならウェアウルフレディZやスカイライナーの改造に大金をつぎ込まないで、フェラーボルギーニを数台買えば良いと思う………だが、どうせ何を言っても無駄なのだろう。


 これだから、乗用車必須の地方民はあなどれない。都市生活者には思いも寄らないライフスタイルだったりする。 


 朧なる 車すざく路 通り過ぎ かほる乙女の 姿みえざり


 私は一時ひととき、朧車なる怪異が発生して自分をこの場から連れ去ってくれないかしらと思い至ったのだが、人生には我慢することが必須だと考えを改め、ドヤ顔をしている水月に向き合った。


 この笑顔とおいくら万円の高級車のコンボにやられて、田舎の女性たち下着を脱ぎ捨て素肌を晒すのだろう。せっかく見つけた獲物は決して逃さぬと。


 水月の車に乗り込んだら、私もそんな田舎の女性達と同類と世間に見られるのかと考え、私の貌は若干引きつった。  


 「ずっ、ずいぶんと立派な車両ね…これなら国土管理室のある霞ヶ関まで飛ぶように行けるわね」


 とはいえ、ここで引くわけにはいかない。今できる最高の御世辞を言う私…これ以上は無理無理無理です! 


 「そうでしょうとも! 大変な費用が発生しましたが、てるさんが助言してくれたのです! 我が愛車ながら、これ以上のものはないと自負しています!」


 「…でっ、でしょうね(焦)」


 「さあ! 東路を下り、一路霞ヶ関へ! 環状線に乗ってから、東名高速です!」


 「…ええ…」


 テンションMAX状態で、私のために2ドアなウェアウルフレディZの助手席を開き、水月は運転席へと乗り込んだ。


 …あああ。  


 水月の奴、全然! まったく悪びれていない!


 臭ッ! 地方臭ッ!


 私はVIPに憧れる地方の女子じゃないのよ! ちょっと勘弁してよ! 本当にその車で大丈夫なの!


 私の不安に気付けっ! 水月ぉ!


 …正直、キツイ。それよりも…


 (てるぇ~! 土師はにしのぉ~、水月みなずきのほとりにこんな真似をさせたのは己かぁ~! 絶対に許さんぞ~! じわじわと嬲り殺せるものなら殺したい!!)


 私は、乗り込んだウェアウルフレディZの助手席で密かに涙を流した。


 (早まったかしら…私は選択を間違えたの…?)


 ウェアウルフレディZ

 (私はケモノ臭くないもん! フローラルな香りだもん! フレンズの君なら解ってくれるよね!)


 スカイライナー

 (ライナーお前………いや、何でも! 何でもない…)


 …なぜか、そんな幻聴が聴こえた…

 

 

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