第四首 歌詠みて 請い求むるは 花の声 群れ恋しきか 孤高なりしか 

 紫の 花の姿を 結び付け 問うは乙女の 恋のありさま


 私は即興で和歌を一首詠みげ、紫蘭の精を現世に結ぶべく、縁の力を与える四季紙しきがみを懐から取り出した。


 白霞のように真っ白で、中央に金色の五芒星が描かれた封紙。


 真名御名しんみょうおんな和魂結にぎみたまむすびと申すものだ。


 その呪力が込められた封紙を、私は驚異的と言える素早さでさっと折り上げ、羽の生えた可愛らしい人型を形作った。

 そうして、孤独に咲き誇る紫蘭の前に屈んだ私は、そっと両掌の上に置いた人型を近付けると、優しく語り掛けるように言霊を紡ぐ。


 「須佐之男命が末孫、豊葦原澄霊女とよあしはらのすみれめが命ず。紫蘭の精よ、我が問い掛けに応じよ」


 私は、朝廷によって春、夏、秋、冬と分離させられる以前の、四季を司る英雄神から連なる真名を用い、紫蘭へと問い掛けた。


 春草や 何を恋しく 想うのか われ恋ひけり 汝等のこえ


 —――果たして。


 八雲の地にて、日本最初の和歌を詠んだと伝わる荒神の咒力は、末孫たる私にも間違いなく受け継がれている。


 その証を示すかのように、封紙は咒力に反応して人型へと折りたたまれていき、紫蘭の魂を招き入れる。


 紫色の光が淡く辺りを染めた後。


 羽の生えた紫蘭の精が人型に重なって姿を現し、私へと笑い掛けたのだった。

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