第2話 ダメな失敗とイチゴミルクの三角味。

 さて、コレを読み返している俺よ。きっと当時の事を思い出して腹を抱えて笑っているだろうことは想像に難くないが、まぁまずは当時のことを整理しておこう。

 腹をかかえて笑ってなかったらご愁傷様。市民、次の世界は楽しいでしょう。



 飛びかかった俺がどうなったかって話からしよう。言うまでもない、高校時代の体育の数時間の格技授業程度の経験しかない上に、デスクワークでなまった俺が秒殺で逆制圧される事態は言うまでも無い。襲撃失敗!アワレ!というやつだ


「旅人さん、あなたほんとダメな人ですねぇ」

「お前に言われるまでもない、というか旅人ってのは何の事だ」


 制圧され踏みつけられている俺に、ため息一つ奴語ったのは妙に宗教観が混ざったような話だった


「人は、死んだらどうなると思いますか」


 人が死んだらどうなるのか。死ねば土に帰るだけとか、世界の終わりまで待ち続け審判を受ける、とか、裁判を受け生まれ変わるだか極楽にいくだか、地獄にいくだとか。最近のトレンドはトラックでぶっ飛ばされるんだったか?

 まぁ、仏教系としては輪廻をお奨めしたいが、実際は無に帰ると思っていたな。


「近い解釈のものもありますが、まぁ、私の宗派においては生というのは旅なんですよ」


 まぁ、言わんとする所は凡人である俺でも理解は出来なくはない。人という生命は長い駅伝をしているとか、昔はそんな名作Flashもあった。過去から未来へ、長い道を歩いているというやつだ。


「まぁ、旅人さんたちは長すぎる道筋を忘れてしまう事が殆どですが、珍しく交差点で立ち止まってしまったあなたを、たまたま私が交差点にいましたので脇道へご招待するのも良いかと思いましてね」



「それはともかく、俺から下りろ」

「いえいえ、こう、神様商売をしているとなかなか人を椅子にするという機会はないものですから、大変楽しい経験をさせていただいているんですよ」


踏みつけから俺の上にどっかりと腰を据えて、さてそれではなんて良いながら手を一降りするとワンカップ酒を手にくつろぎ始めやがった。


「まぁ、脇道にご招待するのですがね、少々この先は険しい道でして」

「だったら舗装しろよ、この自称神様もどきめ」

「いえいえ、他称神様、いやいや、ここは多少神様と言うのも、んふふふ」


何が面白いのか、一人で大ウケ、俺どん引きである。


「さてさて、とりあえずあなたには『そーぞーまほー』を預けましょう。神様がなにか授けるのは最近流行でね、どこぞの神様なかま達が面白おかしい脇道を作って人を引き込んでいるのを見るに、どうやらそれがお作法ってやつらしい」

「はぁ?」

「まぁ、出発三歩でぴちゅられてはたまらんよな、と言う奴ですよ」


お前ら神様、メタすぎるだろう。と全力で突っ込みを入れたいのに俺はあいつの腰掛けのままだった。



 その後は肉はちゃんと火を通してだとか、生水は飲んではいけませんよだとか、貴方泥酔すると脱いだり踊り出すんだから酒はほどほどにとか、お前は俺のオカンかと突っ込みさせてもらえないのを我慢しつつ、じゃいってらっしゃーいと押し込まれて、気がつけばろくに舗装もされてないどこかの山道。そして空を見上げれば昼から空に月がきれいに見える、だった。



 がたがたごとごとと走る馬車の上で、トライアンドエラーを繰り返してやっと手に入れていた、小さな白いと赤の三角形の包み。赤いイチゴのプリントされた子供時代に優しかった婆ちゃんから貰った飴ちゃん一個だ。

 カサカサと開くと口の中に放り込んだ。懐かしい、イチゴの風味が家族の顔を思い出す。子供の頃は、たしかガリガリって噛んで、いちごミルクにして食べるのも好きだった。もう無くなっちゃった、もう一個頂戴!って婆ちゃんにおねだりしたのを思い出す。今は手に入れた苦労を思い出すとさすがに噛む気も起きなかったのでゆっくりと口の中で楽しむことにする。


 マンガやらアスキーアートなら思い出を空に描き、家族の顔でも浮かんでいるシーンだろうか?

正直、ここまでの出来事がジェットコースター過ぎて、一人の寂しさを感じる時間もなかった。きっと魔法を使えばそれも出来るだろうけど、感傷に浸るつもりで自分のやらかしたことに大爆笑するのが分かってる。


 口の中で溶けきる間際のミルク味にこれも腹は膨れないがまぁ、異世界でこういうのも良いんじゃないか程度には開き直るしかないかと諦めもした。

 ま、いいさ。明日の日記はこの馬車の持ち主のおっさんと、『そーぞーまほー』の話をしよう。

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