combat doll Vol.1

 「高峰教授・・・これはさすがに倫理観を大きく逸脱していると思いますが」

 ある日、私の研究室を訪れた男は当然、私の論文に対して、そんな事を言った。

 不愉快だ。

 科学の発展の前につまらないモラルなどを持ち出すなど、何の意味があると言うのか。大きな発展の前には犠牲は必要だ。尊い犠牲があってこそ、人類は大きく発展する事が出来る。

 あまりに愚かだ。私の研究に対して、妬んでいるいるとしか思えない。

 だが、彼はそれを大学に告発し、私の居場所はこの大学から失われた。元々、疎まれていたのは知っている。誰も私の崇高な考えなどには凡そ理解する事など出来ていない事は解っている。

 怒りしかなかった。

 大学を去る日が決められ、私が受け持つ講義も全て終了した。

 研究室も解散され、部下達はすでに居ない。まぁ、私の部下達と言っても、殆どは私の考えには追い付けず、嫌々、研究を手伝っていただけの能無し共だったが。

 誰も居ない研究室で私は一人、最後の夜を過ごしていた。

 ただ、怒りしかない。

 大学だけじゃない。学会もだ。誰もがつまらない倫理を引き合いに出して、私の研究を貶す。だからと言って、彼らは今もって、理想的な研究結果を残せたと言うのか。彼らの考えで進んでいたら、多分、あと100年は理想に達する事は出来ない。

 バカな奴らだ。

 私は久しぶりの酒を飲みながら泣いた。無力なのは自分も同じだと。

 ガチャリ

 不意に研究室の扉が開いた。

 「誰かね?」

 研究員か学生の誰かが忘れ物でも取りに来たかと思った。

 「あなたがドクター高峰雄二かね?」

 少し外国語訛りがある日本語で話し掛けれた。

 「あなたは?」

 高峰は椅子を回して、振り返る。

 「失礼。私は大華科学の王楊であります」

 「中国人か・・・私をヘッドハンティングしに?」

 「話が早い」

 「本当かね?倫理委員会に掛けられてクビになったばかりだぞ?」

 高峰は驚いた。

 「倫理?科学の発展の前には無意味です。これからは我々があなたの研究を最大限、サポートします」

 「最大限だと・・・本当か?」

 高峰は不信な瞳で目の前の男を見る。

 「本当ですよ。資金も場所も・・・研究材料も」

 「なるほど・・・そうか・・・ならば・・・」

 高峰は不敵に笑ってから徐に彼にある事を願った。


 雨が降る晩だった。

 とある戸建て住宅では一人の娘と両親がバースディケーキを囲んでいた。

 食卓にはそれなりに御馳走が置かれ、誕生日パーティである事がすぐに解る。

 パーティの主役は今日で16歳になる女子高生の少女。

 これから誕生日が始まるであろう時、玄関のインターフォンが鳴る。

 慌てて、母親がインターフォンの端末に向かう。

 「どちら様ですか?」

 端末の画面には宅配便の制服を着た男が映っている。

 「あ、すいません。宅配便です」

 男はそう告げる。母親はすぐに玄関へと向かった。

 何も警戒する事無く、扉を開く。そこには宅配便の男が立っていた。

 一瞬だった。

 母親の首筋を大柄な刃先を持つコンバットナイフが掻き切った。

 喉笛と頸動脈を切断された喉から多量の血が噴き出す。それはナイフを持った宅配便の男を血塗れにした。

 「ババァの血でシャワーだ。気持ち悪い」

 喉を掻き斬られ、痛みと息の出来ない苦しみで床に転がる母親の腹を踏み潰しながら、宅配便の男は土足で玄関に上がる。その彼に続いて、同じように宅配便の制服を着た男達が入ってきた。彼らは床に転がる母親に向けて、消音器付の拳銃を発砲した。

 居間の扉が無造作に開けられる。そこには父親と娘が居る。

 血塗れの宅配便の男は手にした消音器付きの拳銃を発砲する。弾丸は父親の顔面を貫き、胸、腹を抉った。悲鳴を発する事なく、父親は床に転がり、身動きする事も無かった。

 「娘は殺すなとだけ言われている」

 突然の事に床に倒れた父親の姿を凝視している娘に向かう二人の男。

 「じゃあ、お楽しみの時間ってわけだ」

 一人の男が笑った。

 「い、いや」

 娘はその異様な笑みに恐怖した。

 男の手は娘のブラウスを肩口から引き裂く。華奢な少女の身体を弄ぶように二人の男は荒々しく、その場に立たせ、服やスカートを引き裂いた。露わになる白い肌。

 「ははは。日本人の娘にしては器量が良いな」

 「初物か?」

 「だろうな」

 娘は悲鳴を上げようとすると、その口に丸めた布切れが突っ込まれる。

 「騒ぐな。お楽しみの時間なんだからよぉ」

 男はそう言うと、少女をソファへと投げつける。そして、ブラジャーやパンツも剥ぎ取った。全てが露わになる少女、それを隠そうとする手も男達の力には勝てず、全てを男達に曝け出した。

 「ははは。少し、胸が足りないが・・・悪くない」

 男達は下卑た笑いを浮かべながら少女を品評する。

 「飯もあるし・・・暫く・・・楽しめるな」

 「夜は長いからな」

 少女にとって、絶望的な夜の始まりだった。


 高峰は酷く興奮していた。

 新しい研究室。

 新しい助手。

 潤沢な資金。

 そして・・・目の前には素っ裸で眠っている少女。

 薬によって昏睡させられている少女。

 その身体には男達によって蹂躙された痕が生々しく遺っている。

 だが、そんな事は彼にはどうでも良い事だった。

 例え、白く、美しい肢体がそこにあろうと、彼にとってはただの肉塊でしか無い。むしろ、その娘が彼から研究を奪おうとした男の娘であるという事が彼に興奮を与えているに過ぎない。

 「ははは。素晴らしい。これだよこれ。若々しい肉体と脳。まぁ・・・肉体に関してはあまり興味が無いがね。私が必要としているのは脳だけだし・・・」

 高峰は目の前に横たわる少女を前にしてそう呟く。

 「体の方は模倣するだけでよろしいと?」

 助手の女がつまらなそうに言う。

 「あぁ・・・まぁ、一からデザインするより面倒が無いからな。こんな少女でもとりあえず、一般的には美しいとか可愛らしいとかの部類なんだろ?」

 高峰はそう問いかけると助手達は困ったように頷くだけだった。

 そして・・・手術が始まった。

 手術は単純である。彼女の頭から脳を取り外すだけだ。

 高峰が必要としているのは彼の言葉通り、脳だけだ。

 若くて、損傷の無い脳。

 出来る限り、知能指数は高い方が良い。

 彼の希望に叶うのと復讐を同時に満たせる脳の持ち主が少女だった。

 少女が襲われたのはそんな理由だった。

 取り外された脳は一時的に生命維持装置に繋がられる。この時点で肉体を失った脳は全ての知覚を失っているものの、まだ、人として生きている。もし、目覚めて

なら、全ての感覚を失った中で、彼女はどう思うのか。それは誰にも解らぬ事であった。ただ、脳波などのデータから得られるもので読み取るしかない。

 「まぁ・・・仮に目覚めたとしてもそれが夢なのかどうかも理解は出来ないだろうね。一切の知覚が無いのだから」

 高峰は嬉しそうにモニターを眺める。

 彼の研究はここからだった。彼の研究は人間の脳を高度なバイオコンピューターと捉え、その中にプログラミングを植え付ける事で、完全な自立型ロボットを作り上げる事であった。

 現在、人間の身体機能を代替する技術は進み、人型ロボットとしては人間にかなり近いレベルで再現が出来るようになっている。また、素材的、機構的にもそれは人間を遥かに超える能力を発揮する事だって可能であった。しかしながら、その機械の身体を操る為に必要な部分に関しては人間よるリモートコントロールか。自律にするにしてもかなり大規模なコンピューターシステムと接続する事でしか達成が出来ておらず、完全自律型のロボットとしては未だに人間には遠く及ばなかった。

 だが、高峰はこの差を大きく縮め、尚且つ、人間以上の能力を有した人型ロボットの完成を夢見て、発案したのが、人間の脳を利用した研究であった。

 当初は倫理的な部分を考慮して、猿や豚などの脳での研究であったが、その可能性が見えて来る中で、彼は当初の計画にあった人間の脳への可能性を示唆するようになった。無論、この事から学会や彼の所属する大学などは彼に対して、危険を唱えはじめ、同僚であった研究員から強く勧告される事に至ったわけだ。

 「書き換え作業を始めろ」

 そして、実験の最終段階が始まった。少女の脳へのプログラム送信が始まったのだ。これは少女の自我部分などをひっくるめて、全てを書き換えてしまうというものだった。すでに猿や豚などの哺乳類の脳を使った研究では成功している。それよりも更に高度な人間の脳であっても失敗はしない。高峰はそう思っていた。

 この作業には1週間が掛かる。脳に何かを刷り込ませるという作業は通常の電子媒体に比べるとプロセスが大きく違う為に作業時間は大幅に必要とされた。無論、高峰はこのプロセスの解析にも取り掛かっており、将来的には短時間で済ませられるようにしようと考えている。

 

 目が覚めた。

 自分が何者で何か。

 解らない。

 ただ、頭の中を自分じゃない何かが駆け巡り、それらが身体を支配する。

 怖い。

 頭も身体も自分じゃない。

 怖い・・・怖い・・・怖い

 少女は目を覚ました。正確には起動した。

 「起動完了・・・脳波安定・・・まずは身体を起こせ」

 高峰の命令で裸の少女は研究員達が見つめる中で台の上で上半身を起こした。その瞬間、周囲からどよめきが起きる。

 「よし・・・命令をちゃんと理解しているな。動きも悪くない。試作1号。これから様々な試験をこなして貰う。私の研究の集大成として、結果を残せ」

 高峰は笑いながら少女に向かってそう告げた。

 それから、様々な試験が彼女に課せられた。多くは基本的な身体能力の評価や情報処理や知能、自律に関してであった。

 1カ月に及ぶ厳しい試験において、少女は高峰の想像を超える能力値を出した。それに彼は大きな満足を得た。そして、それは彼を支援する者達も同じだった。

 「それでは博士。いよいよ、本格的な運用試験に入れますな」

 高峰にそう声を掛けたのは彼を誘った男だった。

 「そうだな。君達にとってはそれが最も重要な事であったな。正直な話。この能力なら・・・君達の想像を遥かに超える能力を発揮すると思うがね」

 高峰は自信満々に答えた。


 数日後、それまで裸で試験が続けられていた少女に初めて、服が与えられた。

 それはデジタルパターン式の迷彩柄が施された戦闘服だった。少女は初めて与えられた下着と迷彩服を着用した。

 華奢な体躯の少女に迷彩服は似合わないような似合うような不思議な感じだった。研究員達はその滑稽な姿を笑う。

 「出荷の時間だ」

 高峰がそう告げると少女は歩き出した。彼女は軍人達に連れられて、研究施設から外へと連れ出された。

 少女は研究施設から軍事基地へと移送された。

 軍事施設ではそれまでの研究対象という扱いよりは人間的な扱いであった。個室が与えられたが、それは営倉と呼ばれる犯罪者などを隔離する為の部屋だ。トイレとベッドがあるだけの狭い部屋に彼女は閉じ込められ、必要のある時だけ出される。

 「あれがロボット?」

 軍人達は迷彩服を着た少女を物珍しそうに眺める。

 「こいつは我が国の最高軍事機密だ。お前らはこいつのお守りが仕事だ。しっかりと守れ。万が一、失ったり、他国に奪われるような事があれば、全員が重罰だと覚えておけ」

 隊長が険しい表情で告げる。

 それから試作1号と呼ばれる少女との訓練が始まる。

 最初は誰もが不安だった。どう見ても外観は少女である。それが特殊部隊と一緒に行動が出来るとは思えないからだ。

 だが、それはすぐに考えが改められる。

 身体能力、体力も特殊部隊の隊員を遥かに上回っている。否、人間を遥かに上回っていた。その動きに誰もが唖然とした。圧倒的なスピードと力、体力だった。試験の一環として、徒手格闘が行われたが、10人の特殊部隊隊員が彼女に襲い掛かっても5分と経たずに全員を倒した。

 射撃訓練においても狙撃手かと思える程の正確な射撃。華奢な体躯では手にした自動小銃が大きく感じる程なのに。

 特殊部隊の隊員は皆、不思議そうに少女を見るしか無かった。その目はまるで化け物を見ているようだった。

 

 「試験は上々・・・あとは実戦試験だけですな。これらが予定通りならば・・・量産化も視野に入るわけですが・・・」

 高峰はニヤニヤとしながら目の前に座る男と話している。

 「あぁ、教授。素晴らしい研究成果だ。あれなら一騎当千。しかも見た目がただの少女ならば、どこかに潜入させるのも容易だ。しかし・・・コントロールは完璧なのかね?元が人間の脳って事で、まさか、元の人格が戻るなんて事は無いだろうね?私はそれが不安だよ」

 大佐の階級を持つ男は不安そうに呟く。

 「私の研究は完璧だよ。あの脳に人格など残っていない。あるのは私がプログラミングした仮想人格だけだ」

 「そうか。・・・まぁ、あれだけ高精度な機械人形。兵器としては最高だ。人間の脳など・・・この国じゃ余っている人間など腐る程、居るしな」

 大佐は笑いながら立ち上がった。

 

 某国

 そこは長らく内戦が続き、混乱していた。平和維持軍なども派遣され、避難民の流出が相次いでいる。

 その国に降り立ったのは国際ボランティア団体の一行だった。

 オンボロのワゴン車に分乗する男女。

 それは高峰の研究に協力をしている特殊部隊だった。

 「ふん・・・ゴミ溜みたいな国だな」

 男の一人が嫌そうな顔でその国の人々を眺める。集まった黒人達は彼らをボランティアだと信じて、何かを貰おうと集まっている。

 「こいつらどうする?殺すか?」

 相手に言葉が通じないのを良い事に平然とそんな事を放つ。

 「止めておけ。とりあえず援助物資があるだろう?それをくれてやれ。まだ、作戦前だ。俺らの素性がバレるわけにはいかない」

 隊長がそう言うと、皆、嫌そうに物資を黒人達に配布する。だが、それに加わらない者が一人居る。それは少女だった。背中まで垂らした黒髪。

 彼女は無表情に物資を配布する様を眺めているだけだ。

 「おい。お前も仕事に加われ。それとも命令が理解が出来ないか?」

 隊長は無造作に少女の髪を掴み、顔を自分に向かせて、尋ねる。

 「了解しました。物資の配布を行います」

 そう告げると少女は他の物同様に物資の配布を始めた。

 「ちっ、指示をしっかりしないと動きやがらないのか?」

 隊長は毒づきながらもワゴン車へと戻る。

 

 一行は難民キャンプから離れ、この国のとある街へと向かった。そこは武装勢力の支配下に置かれた街で危険だから近付かないように警告された場所だ。

 「さて・・・これから、こいつの実戦試験を行う。お前らの仕事は試験の観察だ。この街の殲滅。それをこいつにはやって貰う」

 隊長の言葉にその場に居た者は唖然とする。幾ら小さい村程度とは言え、規模からすれば300人前後は居てもおかしくはない。それをたった一人で殲滅するなんて事は精鋭である特殊部隊の彼らでも不可能だった。

 「冗談がキツいですね。幾ら、こいつが特殊だとしても・・・戦車や戦闘機じゃないんですよ?」

 隊員の一人が苦笑いを浮かべながら隊長に尋ねる。

 「残念ながら、こいつは本当だ。俺もバカバカしいと思ったが、上は本気でこれを試験として行うようだ。俺らの仕事は試験の観察とこいつが壊れた場合の回収だ。まぁ、我々の武器もしっかりと用意はしてある。この街程度なら・・・何とかなるだろ?」

 隊長の言葉に全員が苦笑いをした。

 

 夜明け間近。街を囲むように散った隊員達。隊長の横には少女の姿があった。

 「試作1号、作戦は全て理解しているな?」

 隊長がそう尋ねると少女は「はい」と無気力に答えた。

 「ちっ、返事ぐらいはっきり言え。それでは時間だ。やれ」

 隊長がそう告げると少女は歩き始めた。

 手には56ー1式自動歩槍。すでに旧式化した自動小銃ではあるが、このような国では極一般的に使われるAKコピーである。中国からも外貨獲得の為に多くが世界に流れている為に、仮にこれがこの国に放置されたとしてもそれがこの国に某国が関与した証拠にはならない。

 少女は夜明け前の月明りの中、草原をゆっくりと歩いた。

 彼女の目は人工であり、様々なセンサーが埋め込まれた複合知覚システムだ。

 僅かな光でもそれを増幅して、夜でも昼間のように見える。

 歩哨が2人

 500メートルも先の暗闇を歩く二人を確認した。彼らの持つライトの灯りと月明りだけでもはっきりと彼らを確認が出来る。

 与えられた命令は殲滅・・・全ての人間の殺害。

 小走りに足音を立てずに接近する。腰からコンバットナイフを抜いた。中国製の安物軍用ナイフ。だが、彼女にはそれで充分だった。

 背後から二人の男に迫る。闇夜に反射しないように黒く塗られた刃が一閃する。

 一人の男の首が斬られる。背後から脊髄が斬られる。普通ならあり得ないやり方だ。骨を断つという方法は容易では無い。大抵は刃が骨に停められ、完全には切断する事が出来ず、相手に致命傷を与えられない可能性や刃が折れる可能性があるからだ。

 だが、首を後ろから切断された彼の首は見事に骨が切れ、支えを失った首は倒れたのだ。

 「なっ」

 隣の男が突如、倒れた事に気付いた男は驚く。だが、それまでだった。彼の喉が斬られ、そのまま、倒れたからだ。

 少女は倒れた二人を一瞥すると、そのまま、街中へと入った。

 「残り時間30分」

 時間を確認した。これは殲滅する事を前提に、敵に発見される可能性、または逃亡される可能性を考えた場合、このタイムリミットで殺害をしてゆき、皆殺しにするべきだと弾き出した時間だった。

 少女は建物へと入る。それは事前に衛星写真から兵士達が寝床にしているだろう建物を予測していたから、速やかに辿り着けた。

 腰のホルスターから小型の自動拳銃を抜く。

 

 PSS

 KGBが開発した拳銃。特殊なカートリッジを用いて、消音に特化した自動拳銃である。

 ロシア語でピスタリェート・ビシュシュームヌィイ・ペー・エース・エースは特殊自動装填拳銃であり、その頭文字がPSSである。開発者の名前からレフチェンコ・ピストルとも呼ばれる。

 用いられる弾薬は7.62mm×42mm口径であるが、特殊な構造のカートリッジを採用している。薬莢内にピストンが設けられ、燃焼ガスが薬莢内に溜まる仕組みで発射時の音を漏らさないようになっている。

 基本的に暗殺・特殊作戦に用いられる為に開発された為、冷戦時はその存在は明らかにされていなかったが、冷戦終了後は様々な専門誌などでスペツナズなどが用いている写真などが掲載されるに至り、その存在自体は極秘では無くなった。

 消音に特化された特殊な拳銃であり、その大きさも小型の自動拳銃並である事から携帯性が高いのが特徴。

 この手の特殊な拳銃は威力の問題もあり、ソ連や中国以外ではあまり開発はされていない。アメリカなどは一般的にサウンドサプレッサー(サイレンサー)を用いる。


 少女は拳銃のスライドを引き、スライド後端にある安全装置のレバーを親指で跳ね上げる。

 銃の威力は普通の拳銃に比べるとやや低い。だが、それでも十分に殺傷力はある。静かに忍び込み、寝ている男達に銃口を向ける。

 バシュ。バシュ。バシュ。

 音が抑え込まれた銃声はまるで空気が漏れるような音で銃弾を放つ。

 ダブルアクションのトリガーを引き、6発を撃ち終える。その時には眉間を一撃で撃ち抜かれた男達は起きる事も無く、死んだ。素早く弾倉を取り換え、続けて殺していく。中には物音に気付いて、起き上がろうとした者も居たが、そいつの眉間も撃ち抜いて、終わった。

 20人を殺すのに5分も掛からない。弾倉に弾を詰め直す。この調子で、相手の戦闘力を確実に削る。たった一人で殲滅をしようと思えば、この方法しかない。

 少女は暗闇をライトも使わずに歩く。静かに。時折、歩哨と遭遇する。だが、冷静に手にしたPSS拳銃で彼らを撃つ。

 60人を殺したところで、開いた扉の中には一人の男が酒を飲んでいた。

 「なっ?」

 男は突然、現れた少女に驚く。だが、それだけだった。彼の眉間も撃ち抜かれた。

 「指揮官」

 少女は男を見下ろし、確認した。情報が少ない為に推定でしかない。ただし、個室が与えられ、銃器を所有する時点で彼が指揮官かまたは高位の士官である事は間違いが無い。

 部屋の中には暗号文などがあった。だが、それの獲得は任務じゃない。

 部屋を後にして、外に出た。

 警報が鳴る。どうやら、死体が敵に発見されたようだ。少女は拳銃をホルスターに戻す。自動小銃を握り、彼女は街中へと出る。

 騒がしくなる街中。

 角から彼女は街行く敵に向かって撃つ。

 逃げ惑う人々。非戦闘員である一般市民に対しても容赦なく発砲する。殺す事に躊躇は無い。目の前に出てきた女の胸板を銃弾で撃ち抜く。それを見た彼女の息子だろう。怯えた目で少女を見上げた。その顔面を撃ち抜いた。後頭部が破砕して、噴き出した物にも興味無く、次の獲物へと狙う。


 街の外へと飛び出した者が射殺される。

 「さすがに一人じゃ殲滅は無理か・・・」

 兵士の1人が笑いながら狙撃をする。

 「数がな。だが、戦闘員は殆んど、殺したみたいだな。ヤバいぜ」

 「あぁ、化け物だからな。見た目は可愛らしいのに」

 「可愛らしいか。確かに・・・」

 陽が登る頃には銃声は止んだ。

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