透明なる猟犬達

 「ねぇ」

 眼鏡を掛けた女子高生が隣に立つ女子高生に声を掛ける。

 「なに?」

 ショートカットで小柄なその子は気怠そうに返事をする。

 「そろそろ時間だけど」

 眼鏡の女子高生は左手の腕時計で時間を示す。

 「良い時計しているね」

 ショートカットの女子高生は興味無さげに言う。

 「支給の腕時計よ。何であんたはしてないのよ?」

 「腕時計って・・・感覚がズレるのよね」

 ショートカットの女子高生は手首を摩りながら答える。

 「どうでも良いけど・・・時間だから」

 「了解・・・ちょっとやって来るから」

 そう言い残して、彼女はとある雑居ビルへと入って行く。

 そこは女子高生が一人で入るには不釣り合いなビルだった。

 小汚い階段。

 小さなスナックやパブ、風俗の店がフロアを占める。

 そんな中を彼女は笑顔で歩いていく。

 「今時、監視カメラも無い建物。こんな場所を根城にするなんてさすが・・・」

 彼女はそんな事を言いながら、とあるフロアに辿り着いた。

 「スナックパイン。ゲスな名前」

 クスリと笑った彼女は躊躇なく、その扉を開く。

 突然、開いた扉に注目する店員と客。

 カウンター席しか無い狭い店内。店員の中年女性と若い女。客はサラリーマン風の中年男性が二人。

 「女子高生?」

 制服姿の少女を見て、若い女が呆気に取られたまま、呟く。

 「はーい。その通り。お姉さん。正解でーす!」

 少女は笑顔でそう答えると扉が閉まる。その瞬間、少女は脇に抱えた鞄から銃を取り出した。

 

 グロッグ18C セミ・フルオート自動拳銃

 グロッグ17のフルオートモデルとして、特殊部隊からの要請を受けて開発されたのがグロッグ18である。グロッグ17のカスタムモデル的な部分が大きく、元来、フルオートは想定されていない拳銃故に、その軽量さが反動を抑える事を困難にして、集弾性能を著しく下げる事になる。その為、銃身をスライドから突出させる形にしてコンペセイター機能を盛り込むと同時に後付けのストックなども用意された。この突出した銃身を再び、スライド内に収め、スライド上部にコンペセイターを設けたのがCである。改良が施された結果、反動軽減などは幾分か向上したが、フルオート自動拳銃としてはいささか集弾性能が低い事には代わりが無かった。

 銃自体の特徴としてはほぼ、グロッグ17と代わりが無く、スライド後端にフル・セミの切替レバーが存在すかどうか程度。実際にどのような用いられ方をされているかは不明だが、携帯性の高いサブマシンガン程度の扱いである可能性は高い。


 グロッグの特異な性能としては弾丸が装填された状態での安全性と引き金を引くだけで撃てる操作性。そして、ジャムの少なさであろう。

 少女の手の中で樹脂製の外観を持つそれは激しく、スライドを幾度も前後させる。空薬莢はまるで連なるように空中を舞い、銃口とスライド上部のコンペセイターの穴は焔を吐くように輝く。

 9ミリパラの弾頭はその場に居た者達へと叩き込まれる。最初に倒れたのは目の前に立って居た若い女性。次にその奥に立って居た中年女性。そして、カウンターに座っていた男性たち。彼らは懐に手を突っ込み、何かを取り出そうとしていた様子だったが、それが間に合う事も無く、一瞬の連射で全てが終わる。

 グリップから大きく飛び出した31発用マガジンが空になる。

 「他に息をしている奴はいるかい?」

 少女は空のマガジンを抜き取り、ジャケットの懐に左手を突っ込む。脇からは再び31発用マガジンが出て来る。それを銃に装着した。

 「おい、終わったら行くぞ。その銃は騒がしくて仕方が無い」

 扉の外から眼鏡の少女が呼び掛ける。

 「ごめんねぇ。こいつ、サイレンサーが装着が出来ないからぁ」

 ショートカットの少女は悪びれる様子も無く謝る。

 「良いから・・・あまり一般人に姿を見られたくない」

 「はいはーい」

 二人はその惨劇を顧みる事無く、去って行った。


 この世にはその存在を無視された子ども達が居る。

 望まれず生まれてきた子ども。

 虐待を受ける子ども。

 戸籍の無い子ども。

 不幸な身の上の子ども達。だが、そんな子ども達を極秘裏に保護する機関があった。彼らは遥か昔から国家に従事している。だが、その存在は極秘裏にされ続けた。歴史を辿れば戦国時代まで遡り、忍者と呼ばれる事もある者達だ。

 彼等には血統を重んじる事は少ない。その多くは捨て子から始まるからだ。いつ野垂死にしてもおかしくない子ども達を拾い、育てる。それが彼らのやり方だ。

 

 組織に名前は無い。組織図を正確に知る者も少ない。

 ただ、あるのは常に政府の犬である事。

 権力者達は彼らを使い、彼らを恐れた。

 スパイであり、スパイを狩る者達。

 この国にまともにスパイを裁ける法律が存在しない。

 故にスパイ天国だと揶揄される事があった。しかしながら、確信部分に触れられたスパイはこの日本には存在しない。何故なら、そんな輩は全て、猟犬と呼ばれた彼らが始末してきたからだ。

 警察内部にも彼らの人材は多く、送り込まれている。警察だけじゃない。検察や裁判所にもだ。故に彼らの行動はどんな非合法な事でお明るみには出ない。無論、過去には幾度か新聞記者など彼らの行動に気付き、世間に公表しようとした者も多く存在する。しかしながら、それらも事前に阻止してきた。彼らはそんな存在なのである。

 

 ショートカットの少女はハンバーガーを片手にファウストフードのイートインコーナーで退屈そうにしていた。

 「弥生、せっかくのハンバーガーなんだから、ちゃんと食べなさい」

 彼女の目の前には眼鏡の女子高生が同じくハンバーガーを食べていた。

 「なんで睦月はセットじゃなく、バニラシェークを頼むんだ?」

 弥生の問い掛けに睦月は無表情で彼女を見る。

 「シェークはあげないわよ」

 「・・・なんで解った?」

 弥生は苦笑いをする。

 「あんたの考えは単純だからよ。後先考えないし」

 睦月はシェークのストローを咥えて、飲もうとするが、まだシェークが堅く、吸えない。

 「単純って何だよ?こう見えてもいつも色々と考えているよ」

 弥生は笑いながら言う。

 「考えているね。なら、進路希望は出したの?」

 「あぁ・・・アレか」

 「もう、提出期限は間近よ。早くしないと勝手に決められてしまうわ」

 「そう言われてもなぁ・・・俺、頭が悪いし・・・・」

 「なら自衛隊ね。陸自で筋肉バカを見せれば良いわ」

 「簡単に言うなよ。それに陸自へ行っても俺たちの仕事は変わらないだろ?」

 「そうね。確かにそう。だけど、海外派遣の時に周囲の消毒係をさせられるわよ」

 「あぁ・・・アレか・・・かなりエグいって聞いたよ」

 弥生は露骨に嫌そうな表情をする。

 「当然じゃない・・・周辺の危険を全て取り除く仕事なんだから」

 「員数外で連れて行かれて、放たれたら、任務が終わるまで戻れない。生存確認はされず、戻って来れなけば、置き去り、万が一にも敵の手に渡れば、自害、または殺害されるって奴だろ?」

 「あんまり、こんな場所でそんな事を言わない。周囲を気遣わないのもあなたの悪い所よ」

 ようやくズルズルと飲めるようになったシェークを飲みながら睦月は告げる。

 「まぁ・・・あと1年で私らも一応、自由になるのか」

 「そうね。任務の時しか、こうして、ハンバーガーも食べられない生活からは解放はされるわね」

 「寮のくそ不味い飯とも早くお別れしたいね」

 「あら、そう?あまり不味いと感じた事はないわね」

 「睦月はあまり味を感じてなさそうだもんな」

 弥生はバカみたいに笑う。

 カタリ

 彼女達の隣の席に一人のサラリーマンが座る。

 「あぁ・・・君達、ちょっと良いかな?」

 彼はにこやかに話し掛ける。二人は怪訝そうに彼を見た。

 「クーポンをあげるよ。僕は使わないから」

 サラリーマンが差し出したクーポン券を睦月が手に取る。それ以後、サラリーマンは普通にハンバーガーを食べ始めた。

 睦月はクーポン券を見た後、弥生と顔を見合わせて、片付けを始める。そして、店から出て、まるで何事も無かったように他愛も無い会話をしながら歩道を歩く。

 それからとあるデパートへと彼女達は入った。そして、そのままトイレに入る。

 「盗聴器、盗撮カメラは無し」

 睦月は特殊な機材にて、個室トイレ内の盗聴器やカメラを確認する。

 「任務の内容は?」

 弥生は学生鞄から拳銃を取り出した。睦月はクーポン券を取り出す。それは一見するとクーポン券だが、そこに記されたQRコードに任務内容が記されている。スマホに仕込んだオリジナルのアプリでそれを読み取る事が出来る。

 「簡単な仕事よ。女子高生を一人、期日までに守り切る事」

 「女子高生?・・・また、よく分からない任務だね?」

 弥生は頭を捻る。だが、任務とは大抵、深く内容を示してはいない。やれと言われた事をやるののが彼女達が幼い頃から躾けられた事だから、そこに疑問の余地など存在しない。

 「警護対象のデータよ。顔と名前をしっかり覚える」

 睦月はスマホに表示された個人情報を弥生に見せる。この情報はすぐに消滅してしまうためだ。

 「小笠原祥子・・・へぇ、お嬢様高校じゃない」

 「それなりの身分の子息なのよ。詮索不要・・・行くわよ」

 小笠原祥子 17歳 都内私立女子高の2年生 黒髪ロングで優等生な感じのする知的な美少女

 それらの情報を詰め込んだ二人はデパートから飛び出し、夕刻迫る街中を駆ける。

 「この時間だと何処に居ると思う?自宅かな?」

 掛けながら弥生が睦月に問い掛ける。

 「さぁ・・・私達に女子高生の行動が解ると思って?」

 睦月は笑いながら答える。

 「じゃあ、どこに向かっているんだよ?」

 「まずは学校よ。生徒会に所属しているから、比較的、遅くまで学校に残っている可能性が高い。だとすれば、襲われるにしても恰好の的って事ね」

 「校内でやられる可能性があるの?」

 「誰が敵か解らない。可能性は全て潰すしかないわね。出来れば、同じ学校の制服を手に入れたいけど・・・とりあえず、発注しておくわ」

 「うちの備品係、急いで仕事をしてくれると良いけどね」

 睦月がスマホを片手に暫く、走っていると、目的の高校へと到着した。部活が終わる頃合いだ。帰宅する生徒達がチラホラと見える。

 「ヒュー。リアル女子高生」

 弥生は嬉しそうに言う。

 「私達も女子高生よ。何食わぬ顔で中に入るわよ」

 睦月達は正門から中へと入る。

 歴史ある女子高だけあり、校舎などは年季が入っている。二人は教師達の視線を躱しながら、校舎へと入り込む。

 「上履き無いね」

 弥生が昇降口を眺める。

 「仕方が無いわ。そこの来客用スリッパを借りるわよ」

 二人はローファーを脱ぎ捨て、緑のスリッパを履いて、リノリウム張りの廊下を駆け抜ける。

 「どこかに内部図って無いのかしら?」

 睦月は周囲を探るがそれらしき物は無い。

 「生徒に聞いたら?」

 弥生が軽く言う。

 「簡単に・・・まぁ、確かにそうね」

 睦月は偶然、歩いていた二人の女子高生に尋ねる。二人はこの学校じゃない制服の二人を見て、少し戸惑っている。

 「ごめんさない。私達、この学校の生徒会に用事があって来たんだけど、迷ってしまって・・・生徒会室はどこかしら?」

 睦月は恥ずかしそうに尋ねる。

 「あぁ・・・それなら西校舎の三階ですよ」

 「ありがとう」

 二人は会釈をして、その場から立ち去る。

 「へへへ。睦月のあの恥ずかしそうな顔」

 弥生は揶揄うように笑う。

 「仕方が無いじゃない。同じ年ごろの人と話すなんて・・・」

 睦月は顔を赤らめて、先を急ぐ。

 生徒会室のあるフロアはとても静かだった。

 「まだ、生徒会室に残っていてくれるかな?」

 弥生は余裕の笑みを浮かべながら廊下を歩く。

 「居なければ、すでに帰宅済みか・・・拉致られたかよ」

 「拉致・・・学校で?」

 「可能性は低いけどね」

 生徒会室の扉を睦月は開く。

 「誰です?」

 そこには一人の女子高生が立って居た。

 「おっ、祥子ちゃんみっけ!」

 睦月の背後から弥生が軽々しく言う。

 「ど、どちら様ですか?」

 祥子は明らかに怪訝そうな感じに二人を見ている。

 「あぁ・・・ごめんなさい。私たちは・・・その・・・あなたを警護に来たわ」

 睦月の言葉に祥子は少し思案した顔をする。

 「なるほど・・・お父様ね・・・でも・・・私と同じぐらいに見えるけど・・・単純に若く見えるだけかしら?」

 祥子は二人をじっくりと見る。

 「そうね。私たちは高卒の女性警察官だから。まだ、19歳になったばかりよ」

 睦月は平然と嘘をつく。

 「なるほど・・・なりたてなら、現役JKでも通用するってわけね。だったら、ここの制服も用意をすればいいのに。そんな・・・見た事も無い制服で・・・」

 「ごめんなさい。女子高生らしい制服がこれしか無かったの。急だったから」

 「そうね。ほんとうに急な話。どこかの国の政権が揺らいでいて、外務政務官の父親に対して脅迫をするなんて、頭がおかしいわね。あの国」

 祥子の言葉で理由はそれとなく掴めたが、むしろ、そんなことなら、この少女が狙われる可能性は限りなく低い。そもそも、彼女をどうにかしたところで、大きな外交問題になるだけで、何一つメリットが無いからだ。あるとすれば、ただの憂さ晴らしぐらいか。

 睦月と弥生が笑みを浮かべて見合わせる。

 楽な任務だ。

 こうした楽な任務は稀にある。普段が命がけな分、こうした楽な任務の時はとても楽しくなってしまう。

 「まぁ、そういうわけで当面、一緒に行動させて貰います。私は睦月、こっちが弥生です。気軽に呼んでください」

 「睦月と弥生・・・季節で合っているなんて珍しいコンビね」

 「よく言われます」

 睦月はほくそ笑む。

 ふたりの名前が合うのは当然だ。彼女達は同期であり、互いに元々、まともに名前の無い子どもだった。機関で新たに名前が付けられた時、入ってきた順に季節を現す言葉が割り振られたに過ぎない。

 「でも、女性警察官って事は拳銃ぐらいは持っているんでしょ?」

 祥子に尋ねられ、睦月は腰のホルスターからグロッグ19自動拳銃を抜く。

 「えぇ・・・撃ち合いは想定していますから」

 その眼光が鈍く光った事に祥子は一瞬、気圧される。

 「まずは自宅に戻りましょう・・・暗くなる前にタクシーで戻れば安心です」

 「そ、そうね」

 睦月はタクシーを呼ぶ為にスマホのアプリでを起動させる。

 「フロアを確認して来る」

 弥生は扉を開き、廊下へと出る。

 「見掛けない制服だな?」

 廊下の先には三人の背広姿の男達が立って居た。

 「あぁ、すいません。用事があって来たんですけど」

 弥生は苦笑いをして答える。

 「用事?・・・もう遅いですから・・・帰りなさい」

 「はぁ・・・では・・・睦月、祥子、帰るわよ」

 「あぁ、小笠原さんは居るんだね?」

 男は微かにニヤリとした。

 カチャリ

 廊下に金属音が響き渡る。男達が懐から取り出した得物。

 サイレンサー付ワルサーPPK中型自動拳銃や大型ナイフ。

 訓練された者の動き。素早く動いたのはナイフを持つ男。だが、拳銃の銃口も素早く弥生へと向けられる。少しでも大声を上げそうなら、撃つ。そうで無くても静かにナイフで切り殺す。

 丸腰の女子高生を殺すなど、簡単な事だ。

 「遅いよ」

 弥生は鞄から取り出したグロッグ18Cを片手で軽々と振り回しながら連射した。暴れる銃。銃弾が乱れ飛ぶ。

 一瞬の出来事だった。

 三人の男の身体を銃弾が貫いていく。

 31発の銃弾は彼らを完全に行動不能にするには十分過ぎる数だった。

 「弥生、五月蠅いわよ。学校では静かにして」

 扉が開かれて、睦月と祥子が出て来る。

 「あなた達・・・本当に警察官?」

 祥子はそこに倒れる男達を見て、驚いたように言う。

 「殺してないわよ。とりあえず、四肢を撃ち抜くぐらいの手加減はしたから」

 弥生は余裕で言う。

 「今、後片付けを頼んだわ。それより・・・祥子さんを家まで送ります。どうやら・・・すでに事態は動いているみたいですし・・・間に合って良かったです」

 睦月は廊下に飛び散った血を躱しながら進む。他の二人も同じように後に続く。

 

 校門の前に停車していたタクシーに三人は乗り込む。

 「運転手さん、こちらの住所をナビに入れて」

 睦月は一枚の紙を運転手に手渡す。運転手はそれを慣れた手つきで入れるとタクシーは出発した。

 「学校の事は警察が極秘裏に始末しますので、ご安心ください」

 睦月は祥子を安心させるように言う。

 「えぇ・・・政治家の娘だから、ある程度は覚悟をしているわ。昔は暴力団みたいな連中の嫌がらせとかもあったしね」

 「暴力団みたいな連中の嫌がらせですか・・・今回は流石にそんなレベルじゃ無い気もするけど・・・」

 拳銃まで武装し、相応に訓練された連中。

 それはその辺のゴロツキじゃない事は間違いが無かった。

 「まぁ、何かあれば、私がやっちゃうから安心しなよ」

 弥生がヘラヘラと笑った。

 「あんたはただのトリガーハッピーよ。あんな天井にまで穴を開けて」

 「連射し過ぎると、銃口が上を向くのよ」

 睦月に言われて、弥生はムスッとする。

 「笑えるわね」

 その様子を見ていた祥子が笑う。

 「あなた・・・珍しいですね」

 睦月は祥子を見て、そう尋ねる。

 「そう?」

 祥子は不思議そうに返事をする。

 「えぇ、普通の人は突然の銃撃戦や血の海を前にすると相当に動揺するもんですよ。あなたはまったく動じていません」

 「動じて・・・何か変わるわけじゃあるまいし」

 祥子はつまらなそうに答える。

 「なるほど・・・まぁ、あの場で泣き叫ばれるよりマシですが」

 睦月は眼鏡の弦に指を当てながら、祥子を横目で見る。

 「それより・・・学校がああで・・・自宅は大丈夫って保証はあるのか?」

 弥生がそう言うと、睦月は軽く笑う。

 「バカね。家には向かわないわ。セーフティハウスよ」

 その言葉に祥子も頷く。

 「当然ね。家もすでに敵の手に落ちているでしょう。待ち伏せされている可能性の方が高いわ」

 「だから・・・私達の代わりがすでに向かっております。全ては消毒が終わってからになりますので、それまでは安全な場所で」

 「えぇ・・・解ってるわ」

 タクシーはそのまま夕闇へと消えて行った。

 


 

 

 

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