第8話昼ご飯

 ホームルームが終わり、教師が出て行くと、僕は教室を飛び出し、一階にある自動販売機向かった。


 藤城高校には珍しいことに、飲み物の自動販売機の他にも、パンの自動販売機も存在する。

 これは、昼にしか開いていない購買で買いそびれた人のための救済措置なんだろう。

 しかし、実際にこの自動販売機を利用しているのは、朝練によって腹を空かした運動部連中か、現在の僕のような、朝食を食べそこねて、腹を空かしている人だ。

 つまり、本来の用途では全くと言っていい程利用されていないわけだ。

 まぁ、そのおかげで僕は飯にありつけるのだから、ありがたい話だ。


 「折角、昼食で先輩の手作り弁当を食べられるなら、今、お腹一杯にするのは勿体無いかぁ」


 昼食は先輩が朝練があるというにも関わらず、手作り弁当を作ってきてくれたのだ。

昼まで時間があるとはいえ、お腹一杯で食べ切れなっかたなどとなりたくないので、百二十円のメロンパン 百円のコッペパンだけ買って、僕は自動販売機を後にした。


 教室に戻り、次の2限目まで少し時間があるので、コッペパンだけ食べることにした。


 結局、昼休みになるまでの間は色々あったせいでメロンパンは食べる機会が無かった、カバンの中に入れた。

 そして、教室を出ると、はや歩きで屋上に向かった。

 三年の教室は二年の教室より上の階にあるので先輩の方は着いてるかもしれない。

 僕は、先輩をあまり待たせたくないという気持ちと、早く先輩の手作り弁当を食べたいという想いが自然と僕の歩みを速めた。


 屋上に着き、扉を開けると、


 「…………あれ?」


 そこにはいるはずの先輩の姿がなかった。


 「先輩?どこですかぁ?」


 辺りを探してみても先輩の姿は見当たらない。


 「来るの速かったかなぁ?」


 先輩の方が上の階にあるとはいえ、授業が終わってすぐに教室を出たうえ、自己新記録なのではないだろうかという速度のはや歩きで来たのだから、先輩より先に着いても仕方ないないことだろう。

 そう思い、僕は座って待つことにした。


 しかし、十分、十五分待てども先輩は来なかった。

 このままでは昼休みが終わってしまう。

 僕は校内に戻ると、先輩の教室に向かうことにした。

 先輩がいる教室二年A組に着くと、僕は扉の端から中を覗く。

 正直、上級生の教室に堂々入っていける度胸と勇気がなかった。

 窓際の前から三番の席、それが先輩の席だ。

 ちなみに、何故僕が先輩の席を知っているかと言うと、先輩の組の知らなかった僕は、教室に着く前に一応桐谷メールでに聞いてみたら、すぐにメールは返ってきて、先輩の所属している組どころが先輩の席の場所まで書かれて、返ってきたからだ。

 これは、教室に戻ったら、桐谷の奴にどうやって調べたのか、聞く必要がありそうだ。

まぁとりあえずそれは置いておくとして、


 「先輩、いないなぁ」


 扉から見た限りだと、先輩の姿はどこにもない。

 仕方ないので、適当に扉付近にいた人に聞くことにした。


 「あの、すみません」

 「ん、どうしたの?」


 僕の声に反応してくれた女子は茶色がかったショートヘアで体はしっかり引き締まっていて、胸を多少ある。凛々しい雰囲気を纏った、スポーツ少女という言葉がぴったりの人だった。


 「白川先輩はいませんか?」

 「しーちゃんなら、さっき保健室に行ったよ」


 しーちゃん?先輩のあだ名だろうか………今度先輩に対して言ってみるとするか。


 「ありがとうございます。助かりまし」

 「どういたしまして、それで私からも一つ聞いていいかな?」

 「良いですけど、なんですか?」

 「君が噂のしーちゃんの彼氏?」

 「そうですけど、それがどうかしましたか?」


 というか、白川先輩に彼氏が出来たという噂は既に二年生にも伝わっているとは、改めて白川先輩の人気と情報社会の凄さを実感してしまう。


 「いやぁ、しーちゃんって今まで、色々な人から告白されて来たけど、どんな人が来ても断ってたからさ。そんなしーちゃんを落とすなんて、一体どんな超人かなぁと思ってね。正直気になっていたんだよ」

 「妄想が過ぎますよ。僕は普通の成績に、普通の運動神経、普通の容姿をした。ごくごく普通の何処にでもいるような一般人ですけど」


 好奇心に満ちた目で聞いてくる名も知らない先輩に対して、正直に自分ことを話した。


 「ふ〜ん、本当に?」

 「本当です」


 まぁ一部省略しているところがあるとはいえ、主観的にも、客観的にも見て、他に特徴など、何もない。

 だから、質問に対する答えとしても完璧のはずだ。


 「ふ〜ん」


 しかし、その先輩は腑に落ちないと言った感じで僕を見てきたが、僕は知らん顔で先輩の視線から目を背けた。


 「まぁ、良いや。例えどんな趣味を持っていようとも私は気にしないよ」

 「そうして下さい」

 「例え君がしーちゃんを調教しようともされようとも私は気にしないよ」

 「いや、それは気にして下さい」

 「例え、君の趣味が歪んでいて、しーちゃんの下僕になろうとも私は何にも口出しはしないよ」

 「いや、だからそれは気にして下さい!それに、僕にはそんな歪んだ趣味はありませんから!」


 この人はなんてことを口走るんだ。ここが教室である事を忘れてるんでは無いだろうか。

 さり気なく周りを見ると、みんな駄弁りながら昼食を食べていて、僕達の会話を気にする生徒は誰もいなかった。


 「ただねぇ、もしも、君がしーちゃんの事を見限ったり裏切ったり、悲しませたりしたら、私は君の事を許さない。どんな手を使ってでも、君を不幸にするから肝に免じておいてね」


 さっきまでの笑みを消してそう言ってきた名も知らない先輩からは、『君を殺してでも後悔させてやる』とでも言わんばかりの迫力があった。

 もしも、僕が白川先輩を悲しませたりしたら、僕はこの人に殺されるだろう。僕はそう思わざる得なかった。


 「そんなことはあり得ないから安心して下さい」


 そう言うと、先輩の顔は元の笑みに戻った。


 「なら良かった、君がしーちゃんを悲せない限りはどんな事をしても良いからね。何だったら、私が練習台になってあげても良いよ」

 「ですから、僕にそんな趣味は」

 「じゃ、しーちゃんによろしくねぇ」

 

 僕の弁解も聞かず、名も知れない先輩は去っていった。


 「ちょ、僕の誤解を解かせて下さい!」


 そう言うも既に時遅し、先輩の姿は見えなくなってた。

 少し放心状態になったがすぐに、気を戻し、当初の目的を思い出した。


 「まぁ、とりあえず保健室に行くとするか」


 あの先輩の話しでは、白川先輩は保健室にいるようなので、僕は保健室に向けて歩みを進めた。


 それにしてもあの先輩は、白川先輩とどんな関係なのだろうか。

 あの時感じた迫力は、ただの友達というだけでは無い気がする………


 「後で先輩に聞くとするか」


 結局、少し考えても結論が出なかったため、僕は考えるのを止め、保健室への歩みを速めた。

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オタクの彼女は完全無欠のヤンデレ彼女?! 鶴宮 諭弦 @sao3104

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