第8夜 3・28 神を見なかった話
3・28 神を見なかった話
八日目。今日は天気がよく変わる。さっきまで大雨だった。いまは月が出ている。昨日よりもっと低い。今日の月は猫の目みたいだ。
九時頃、ベランダへ出た。雷鳴を聞いたからだ。春の夜の雨は、激しい。ベランダには屋根があるから、濡れない。
雨の音を聞くのが好きだ。陳腐だが、でも好きだ。街の一帯を包む雨の音。傘に当たる雨の音。雨が降ると、出かけたくなる。
「稲妻に目とじて神を
カミナリの夜は、稲妻を見たい。それで、さっきもベランダに出ていた。だが空が光れば、とっさに目を瞑る。瞑れば、稲妻は見えない。人は、誰も稲妻を見られない。見えない場所に、神は宿る。神は荒び、神は鳴る。空がまた光る。雨の音が一段響く。それをつん裂いて、轟く、とどろく。空間が轟く。雷鳴。閃光。目とじて、神は、また見えない。
カミナリの鳴る雨は、長く降らない。神は、人の世の上をただ過ぎる。過ぎ去ったあとで、人は神の到来を知る。だから神は、いつも見えない。
昼は、よく晴れていた。コンビニと、郵便局に行った。それが今日一日の仕事だった。道沿いに、そろばん教室がある。全面ガラス張りで、中がよく見える。入り口にはトロフィー。その台の上に、ソーラー式で手が動く、招き猫、ならぬ、ドラえもん。すぐ隣にはキティちゃんの人形。
ドラえもんは、キティちゃんをしこたま殴り倒していた。快晴の日光を受け、猛烈に幸福を招く腕で、キティちゃんを殴打していた。この世に、神はないのかと思った。
明日もドラえもんは、日暮れまでキティちゃんを殴り続けるだろう。(了)
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