第6夜 3・26 無関係な話

3・26 無関係な話

 六日目。昼間はタバコを吸っていた。六階のベランダから、下を見ていた。住宅街。ピザの配達や、ジャージのおっさんや、子供の声が通った。向かいの屋上で、女がシーツを干していた。ふとんを叩く音が聞こえた。みんなおれとは無関係だった。

 よく晴れていた。風は冷たかった。僕は日陰を見ていた。家と家の間の日陰。ごみ箱がおいてあった。黒いのら猫が歩いていた。そいつはふと立ちどまった。

 去年の夏くらいから、のら猫を見かけるようになった。はじめは子猫だった。黒が二ひきと、ぶちが一ぴき。何度かすれ違ったこともあった。いつも三びきでいた。道ばたを歩くと、時おりマンションの植えこみの中に、皿が三つあった。そういう場所が、何か所かあった。

 「ノラ猫に下さい!動物を愛護する気持ちはわかりますが、住民の迷惑も考えましょう」秋口に手書きの看板が立った。年あけには、ぶちを見なくなった。植えこみの皿の数が減っていた。二、三のえさ場は、なくなっていた。時々、成長した二ひきとすれ違った。一ぴきは、左耳が欠けていた。もう一ぴきには首輪がついていた。オレンジ色の首輪は、毎夜若い夫婦のイタ飯やの前で、残飯を食っていた。それから、欠け耳のほうは見なくなった。みんなおれとは無関係だった。

 のら猫は、日陰からふり返った。首輪はしていなかった。六階のベランダから、目があった。僕は日なたに立っていた。猫はすぐ歩き出し、住宅街に消えた。おれとはたぶん無関係だった。

 今日は夜のことを書かずに終わりだ。(了)

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