第4夜 3・24 新世界交響楽
3・24 新世界交響楽
四日目。今日も書けた。月が出ている。月のあかりだけで書いている。夜。いつもの夜。今日もまた夜だ。
新世界交響楽を聴いている。聴くのはいつも第二楽章だ。スマホで流している。隣の家に聞こえないよう、小さな音で聴いている。オーケストラのものでなく、二台ピアノの為の編曲。ピアノの音が、よく澄んでいる。月がよく出ている。
今日はよく書けない。書けないから、マス目のひと文字を、ていねいに書いている。新世界交響楽。音を絞っても、よく聞こえる。無風に手がかじかむ。今日もまた夜だ。
もう、一本吸ってしまった。書けないから、また火をつける。火をつけても、書けない。なぜ書けないのか。読まれることを、意識したからか。なぜ。夜が、よく澄んで冷たいからか。気負う。意識、してはいけない。気負えば、書けなくなる。脚がふるえる。怖い。なぜ、読まれる。こんなつまらないものを、どうして読む。読者は、おれひとりのはずだったのに。ふるえる。読まれる。もう気負っている。また一本吸う。書けない。なぜ書けない。月光がよく澄んでいるからか。新世界交響楽も、終わった。
違う。読まれるからじゃない。書けないのは、夜が静かだからだ。夜。今日のベランダの夜は、静かだ。タバコの燃える音が聞こえる。夜は、静かだ。いや、当り前なのだが、それでも静かだ。夜。夜は夜だから、静かなのだ。
よし、今日の分を、書き終えた。月に雲がかかった。今日もまた夜だ。 (了)
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