宇宙の果てで

@kimichan

宇宙の果てで

 3人乗り宇宙船「CHIーNK」は地球から3万光年離れた宇宙の果てで制御不能に陥っていた。昨日の昼まで、宇宙船には全く不調はみられなかったものの、昨日の夜を境にして宇宙船は完全停止となっていた。

 そして、さらに停止してしまうタイミングが悪かった。宇宙船は地球への帰還軌道を修正する直前で故障したようで今やその軌道からは大きく外れ、もはや地球へ帰還することは不可能な位置まで来てしまったのだ。


 男性3人で構成される艦内チームのキャプテンが地球帰還軌道から大きく外れて航行していることに気づいたのは今日の朝であった。


 3人は絶望の淵へと立たされた。


 もはや、機体を修理したところで地球へは戻れない。しかし、そのことを知りつつも、頭に鈍痛が走るほどの絶望感を少しでも薄めようとキャプテンは艦内の故障箇所を調べるよう、隊員二人に命じ、自らも故障箇所を探し始めた。


 調べ始めてから故障箇所は隊員Bによってあっさりみつかった。


 故障箇所はエンジン。


 故障理由は焦げ付きによるオーバーヒートによる停止。しかし、宇宙船は昨日の昼まで快調に航行していたことはキャプテンによって確認されている。つまり、昨日の昼までエンジンもまた快調に動いていたこととなる。焦げ付いたのは事実だからしょうがないとしても、あまりにも、


「突然すぎる」。


 キャプテンは焦げ付く理由が全く見つからず、エンジン工学を専門にしていた隊員Aも首をひねった。そこで隊員Bは焦げ付き箇所を詳しく調べてみようと提案した。そしてすぐ、エンジンを、構成するファンやヒーター、そしてモーターなどに分解し、各自、手分けして調べることとなった。


 数分後、キャプテンは焦げ付いたモーターを顕微鏡で覗いている時、悲鳴を上げた。

「エ、エイリアンが無数に侵入している! エイリアンがエンジンから侵入しようとし、焼け付いたんだ! いや、これだけ微小なエイリアンだったらもう機内に侵入して――」


 隊員Aは自分の精子をエイリアンとして解説するキャプテンの話を今までにないほど多量の汗をかきながら聞いていた。


 そう、隊員Aは昨晩、「宇宙で一回出してみたい」という願望を果たすべく夜のソロ活動に励んだまでは良かったが、無重力を軽く見、加えて、たまりにたまっていたことも重なってイった時、精子が艦内を信じられない速度で飛行。数メートル先にあるエンジンまで精子が飛び、致命的な焦げ付き故障を引き起こしてしまったのだった。エンジン工学専門の隊員Aはもう地球へは決して戻れないという事態を引き起こしたと悟り、キャプテンと隊員Bには、今後の生活を考えるととても真相を言うことはできないと黙っていたのだった。


 興奮して話を続けるキャプテンに続き、今度は隊員Bが顕微鏡を覗きはじめるや、

 「これ、アレじゃないですか!」

 と叫んだ。


 そして、隊員Bは急に振り返り隊員Aを見て叫んだ。

 「お前、まさか!」


 さらなる急激な汗をかきはじめていた隊員Aを見つめながら、隊員Bは

 「かつてソビエトの宇宙船ソユーズリズリ号に突如、蔓延した宇宙型新種ウイルスに間違いありません。ウイルスとしては特大で体に入るとまず滝のような汗が出る、と・・・」


 「滝のような汗!」


 隊員Aは二人から見つめられた。

 「死ぬのか! そのウイルスに感染すると死ぬのか!?」

 相好をめちゃくちゃに崩し、必死で質問するキャプテンに隊員Bは

 「残念ながら・・・」

 と答えた。


 キャプテン、そして隊員Bの二人から涙に溢れた目で見つめられながら、そして、あふれ出る汗をかきつつ隊員Aは「絶対に死なないんだけどね」と思った。

 そして、「うう、吐き気が」とか言いながら、今後、死ぬまでウイルス感染患者として偽って生活する他ないと悟り、早くも疲労感を覚え始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙の果てで @kimichan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ