第12話「10年前あの時もっと頑張ってればって思う人は、10年後にもそう思うよ」


――10年前あの時もっと頑張ってればって思う人は、10年後にもそう思うよ。


  世間亭しらず




===


2016年4月



私が自分のことを唯一(いいか唯一だぞ!ここ大事!)変わり者と思うことがあるとするなら、それは現役の高校生時代の考え方だと思う。


高校生時代によく大人たちから言われていたのが、こんな言葉。


「俺は高校生の時もっと勉強しておけばよかったって思うぞ。お前も絶対この歳になればそう思うから」

「今を大事にしなきゃ駄目よ。わたしも高校生に戻りたいわ」


言われるまでもない。

そんなこと私はいつだって思ってる。


(ああ、こうやって色々な勉強が出来るのも今だけか)

(授業も部活も好きなだけできるってすごく幸せなことだよね。今しか楽しめないことだよね)

(きっと将来自分も高校生に戻りたいとか思うんだろうな……今高校生だけど)


そんなことを考えながら日々高校生活を送っていた。

やっている時はつまらなくて嫌なものに映るそれは、今しか体験できない貴重なものだ。その場にいる間にそのことに気が付けた私は幸運だ。

勉強は苦手なものもあったけど、そう思うからこそどの教科も嫌いじゃなかった。今だけの楽しみとはりきって授業を受けていた。寝るなんてとんでもない。

いやむしろ、もったいない!!


そういった考えを持つ人は意外に少ないようで、「授業が好き」と言えば今も当時も周りの人にはただただ驚かれるばかりだけれども。



「今を大事にしろ」となにやら悟った口ぶりで語る大人の、果たして何人が『今』を大事にしているものか。

その『今』からの時間も、後戻りは出来ない大事なものだろうに。

ひねくれ者の私はつらつらとそんなことを考える。




さて。

ところで、私は最近すごく幸せだ。

毎日が充実している。

だからこそ、ひねくれ者の本領発揮だ。ある時なんでもない拍子にはたと考えてしまったのだ。


――ああ、この充実した時間も今だけのものだ――


そして大変な事実に気が付いた。

もしも。その時間を共有する人が私だけになったら。

今は忘れたことはなんでもすぐに父親や周りの人に聞いているが、もしもそれが出来なくなったら。

きわめて記憶力が乏しい自分はこの楽しい時間を二度と思い出せなくなるかもしれない……!

思い出にすら残らず永遠に失われてしまうかもしれない……!


記録しよう。


今のことを覚えてるだけ書いていこう。

昔のことを思い出せるだけ書いていこう。




だから、私は、記録を始めた。



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