第7話「坊主なんてくだらねぇもん俺の葬式に呼ぶんじゃねぇ」


――坊主なんてくだらねぇもん俺の葬式に呼ぶんじゃねぇ。


  祖父



===


2016年3月


あとあと驚かせるのもなんなので、まずは祖父に関するこの話から始めようと思います。


父方の祖父は私が高校3年生の時に他界しています。

家が離れていましたし時々遊びに行く程度だったので、私にとってはただの『おじいちゃん』であり、特別変わっているとは思っていませんでした。

その考えを覆され、そして今も強烈に印象に残る出来事が、祖父の葬儀です。



どうも遺言書に葬儀の希望を詳しく記していたようで、「坊主なんてくだらねぇもん呼ぶな」といって棺の両脇には献花台と大好きだった競馬馬・オトメノイノリの写真がズラリ。

参列者も親類も一緒になって棺の向かいに着席し、その間で穏やかに奏でられる4人の奏者による弦楽奏。



ええ。

そうです。弦楽四重奏です。

プロの生演奏です。



たっぷりと聞かされる四重奏は素晴らしいし、会場の見た目はさながら馬が主役みたいだし、送り出しの前には大好きだった雀牌が傍らに添えられるし。


「父ときたら最後までこんな感じで、生前は皆様もなにかと苦労をかけられたかと存じます」という施主の父親の言葉に祖父を知る参列者の方たちからは笑いがこぼれ。


終始明るく和やかに葬儀は進められていったのでした。


そして「墓なんぞに入ってたまるか」という遺言に従い、その後は日本海に散骨と、最後まできっちり余念なし。




いやはや。


全くもって、なんちゅう人だと。




こんな常識はずれな葬式は初めてです。

普通こういうものはもっとしめやかに行われるものじゃないのかと。

こんな葬式があってもいいのかと。


目からウロコが落ちると共に――ああ、皆がこんなに明るく送り出してくれるなんて、なんて良いお別れなんだろう――と、じんわりと感激したものです。

そして願わくば私も最後はこんな風に送り出されたいものだと思うばかりです。



楽しいお葬式でした、なんてあまり大声で言うもんじゃないけれど。

私はこの話をする時必ずこう言うのです。


「とっても楽しい良いお葬式でした!」




〈追記〉

おじいちゃんの変わり者ぶりについての話はまた後日改めて。

(思ったよりべらぼうに量が多くなってしまいました)

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