第1話

まじかる第3学園初等部Ⅰ年Ⅱ組。入学式。驚くべきことに、


 


せんせいは ながい はなしを しなかった ――――!!



 と、ちょっとゲームっぽく始めてみた。(やってみたかっただけだ。本編には一切関係ない。)


 


 椅子の数は、手足の指を使えば数えられるくらい。とても少ない。


(ところで、足の指をどう使えば数えられるんだろう?)



 ステージに誰かが上がり、新入生は皆(約一名を除き)そちらへ意識を向ける。


 ステージに上がったのは・・・・上がったのは・・・・・



「幼女?」



 誰かが呟き、後ろの方に座る保護者と職員が一斉に「ブッ!」と吹き出す。


 小さな新入生たちは、後ろに座る保護者と職員を振り返り、「え?」「なぁに?」と可愛く首を傾げている。



 そう、ステージに上がったのは、瑠璃色の髪に小さな花のピン留めを付けた、高く見積もっても身長100cmくらいの、少女ならぬ幼女。必死になってマイクをがっこんがっこん下げて、やっとマイクを頭の高さぐらいまでに下げる。そして、下にあったらしい台の上に乗って、一言。



幼女よーじょじゃないれすっ!」



 ステージの上の少女ならぬ幼女は、可愛く噛んだ。



正体不明の幼女は、『副学園長』だった。



「えー、しんにゅうせいのみなさん、にゅうがく御目出度う御座います」



・・・・・漢字の付く所が、違う気がする。



 保護者全員がそう思ったが、職員は慣れているのか今度は何も反応しなかった。



「御入学御目出度う御座います!わたしがふくがくえんちょうのシーナ・インディカムです!


がくえんちょうもりじちょうも、でたくないーっていうので、わたしがきた次第です!


えっ・・・あっ、嘘だよ?嘘だからね!?ちょっと、さくらちゃん、睨まないで!


・・・はっ、しつれい致しました!」



 ・・・・手をパタパタさせる副学園長が、可愛い。小動物的な。



「では、僭越ながらわたしがこのがくえんのしょうかいをさせて戴きます。このがくえんが創設されたのは、いまから25ねんほどまえ。まじかるがぁるがせかいに誕生してから5ねんごのことです。はじめのうちは、魔法という不可思議なちからをもつまじかるがぁるたちを隔離するもくてきがつよかったのですが、まじかるがぁるの有用性が認められ、げんざいに至ります。このまじかるがくえんを創設したのは、げんざいもりじちょうであるさくらちゃ・・・ち、ちがいましゅ!御免なしゃいっ、いっつ!」



 ・・舌を噛んだらしい。ついでに、読みづらい。


 うっすらと目に涙を浮かべながら、副学園長は一生懸命話を続ける。



「りじちょうは、サクラ・ブロッサムせんせいといいます。まじかるがぁるのしゃかいてきちいをかくりつさせるために御尽力なされた、素晴らしいおかたで・・えっ!?なんもいってないよ!?睨まないで~~!


 ・・・・ハッ!いえ、なんでもありませんです・・・。りじちょうせんせいは、いまはこのだい3がくえんにたいざいしていますが、いろんなとこにいきます。だから、いなくてあたりまえなのに、なんでいま居る・・・なんでもないよ、さ・・・ふぎゃっ!」



ようじょ副学園長 は たおれた!



 ・・・・ゲームっぽい、再び。(やってみたかっただけだ。本編には一切関係ない。)



 倒れて目を回している副学園長の脚を、一人の女子生徒がずず~っと引っ張っていく。



 副学園長の扱い、あんな雑くていいんだ・・・。







 副学園長と女子生徒と入れ替わりに出てきたのは、ビシッとした感じの綺麗な女性。縛ってない桜色の髪が、歩くたびにふわふわと揺れる。厳しい雰囲気が、桜の髪留めで中和されている。



「私が、サクラ・ブロッサムです。よろしくお願い致します」



 その瞬間、全員の背筋がピンッ・・と張った。新入生だけでなく、職員や保護者も例外ではない。


 使、その姿勢のまま動かない。



「私のことは気軽に『サクラ先生』って呼んでください。まぁ、私は理事長であって先生ではないんですけれどね。副学園長は私が出たくないから代わりに出たみたいなこと言ってましたけど、そんなことは決してありません。あの幼女副学園長が、このぐらいしか出番がないから出させろって・・・(なんなんだ、あのクソガキ・・)」



 不穏な響きが聞こえた気がする。



 理事長は肩に掛かった桜色の髪の毛を掻き上げ、黄色と金色の間のような色の瞳の目尻を下げ、ふと微笑む。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。まじかるがぁるになった皆さんは、これから社会のため、福祉のために自らの力を行使することとなります。それが、まじかるがぁるの義務であり、責任です。自ら望んで得た力ではないけれど、できるだけ周囲の人のために使うようにしてください。


 まじかるがぁるは、このまじかるが学園、第1学園から第3学園までに強制的に入学させられます。ですが、一応毎年入学試験は行わせて頂いています。私も拝見させて頂いたのですが・・・今年の新入生は、特に素晴らしい。そこで新入生代表挨拶には、セーナ・チギライノさんにお願いしようかと思ったのですが・・・断られてしまって。それで、代わりの人に頼もうと思うのですが・・・セーナさん、やはりやって頂けませんか?」



 理事長が、一人の少女に目をやった。職員・保護者・そして新入生たちもそちらを見ようとしたが、首が動かない。



 皆が固まっている中、その少女だけが背筋を伸ばして座っていなかった。


 短いふわふわとした髪の毛を揺らし、偉そうに脚を組みながら、ステージ上を蒼い眼で睨む。



 初等部一年生とは思えない、その目力。堂々とした立ち居振る舞い。


 今固まっている人たちがセーナを見たとしたら、あまりのその迫力に圧倒されていたことだろう。



 実際に、理事長は体育館全域に魔法を掛けていた。


『背筋を伸ばし、そのまま動かなくなる』魔法。


いつ使うんだという感じの魔法だが・・・



 その金髪の少女は普通に声を発し、立ち上がっていた。


 理事長を蒼い瞳で見つめ・・・いや、睨んでいる。


 すごく可愛い少女だというのに、雰囲気が刺々しい。6歳で、あんな眼力が身に付くものだろうか?



「なぜ私がそんな面倒なことをやらされなくてはならないのです?」


「貴方が一番成績が良かったから。実技だけでなく、筆記の方もよ。それに、貴方は今、動けている。それだけの理由。他に何か理由が必要かしら」


「ああ、そうだな・・例えば、なんで成績の良い奴が挨拶をする義務があるのか、とか?


 頭が良い奴が学園の下らないお遊戯に付き合わなければならないというのなら、私は劣等生でいい。それに・・・理事長。あんたの綺麗事を聞いていると頭が痛くなってくる」


 体育館が、シン・・・と静まりかえった。


 いや、元々静まりかえってはいたのだが、まるで体育館の中の空気まで固まってしまったかのようだった。



「チギライノさん・・・あなたは余程優秀な生徒のようですね」



 理事長が発したのは、少女への皮肉と、警告。


『私に逆らうと、どうなるか分かってるか?』と、言外に言っているのだ。


 だが、少女はそんな皮肉などどこ吹く風というように、ニヤリと嗤った。


「それほどでも」



 ずっと貼り付いたままだった理事長の笑顔が、崩れた。


 上げていた口角は少し下がり、笑っていた眼もすっかり厳しいものになっている。



 だが、それは一瞬のことだった。



「まあそんなわけで、新入生代表挨拶には成績において次席を勝ち取ったリコラス・タキュサウラさんにお願いしたいと思います。タキュサウラさん、壇上に上がって下さい」


 皆を固めていた魔法が解け、その反動か全員がすこしクラッ・・としてから、一人の少女はふらりと立ち上がった。


 


 そこからは、なんの問題もなく予定通りに式を終え、新入生の少女たちは体育館から自身らの教室へと移動するのだった。


 金髪の少女、セーナ・チギライノは、理事長の黄金の瞳を軽く睨みながら体育館を後にした。そして、それに気づいているのは睨まれている本人のみだった。



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まじかるがぁると世界の果て ~WORLD END~ @yui_haru

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