戦いの行く末
──時間は無い。
稼げたのは一瞬。能力者相手では、何のアドバンテージにもならない。
足を踏み込む。地面を叩く。
勝機があるとするならば、この一瞬を置いて他には無い──!
「おおおおおおおおッ!」
大河は懐から小型の銃を取り出し、構えた。
「最後の切り札が、その程度とはね!」
ようやく視界が開けたイリーナはその光景を見て、わずかに安堵したように見える。
銃では私は倒せない──そう思っているかのように。
そう──そして、大河はこの瞬間を待っていた。
走りながら狙いを定め、構える。
奴の能力はすでに分かっている。
高次元の風力使い。
拳銃の弾は奴が操った突発的な風によって弾き飛ばされた。
力によって生み出された真空によって、かまいたちのように肌を切り裂いた。
だが──大河が発煙手榴弾を使った時、奴は風を使って煙を吹き飛ばすのが僅かに遅れていた。
自分の能力がバレてしまうために。
その一瞬。
その一瞬で、大河はイリーナに肉薄する。
銃口をイリーナの手が届きそうなところまで伸ばし、静かに引き金を引いた。
当たるはずがない──そう余裕をかましていたイリーナは、直前になってそれが間違えだったことに気づいた。
大河が構えているのは拳銃ではなく、小型の──
バズン、と重い銃声が一度だけ響くと、遅れてドサ、とイリーナの身体が地面に倒れた。
「──やってやったぜ、能力者」
フッ、とまだ消炎が立ち上っていた散弾銃の銃口に息を吹きかけ、大河はひとりごちた。
「そんな⋯⋯ どうやって」
ウッ、と呻きながら、イリーナがゆっくりと身体を起こす。
「風使いの演算には、処理能力に限界がある。銃弾一発なら弾き飛ばせても、至近距離から散弾をぶっ放せば、処理能力の限界を超えちまう。だから弾き飛ばさない」
「だとしたら、私の能力を見抜いていたとでも言うの!? あんな一瞬の戦闘で!?」
信じられない、と言わんばかりに、イリーナは茫然としていた。
大河はニヤリと笑い、答える。
「当たり前だろ。じゃなきゃ無能力者が、能力者相手に生き残れるもんかよ」
「そこまでだ! 如月、イリーナを医務室まで運んでやれ。訓練用も模擬弾とはいえ、まともに当たれば痛いじゃすまんからな」
二人の間に割って入った教官が、イリーナを助けおこし、ん、と大河にイリーナの肩を担ぐように促す。
「完敗ね」
仕方なくイリーナの肩を担いだ大河に、イリーナは一息吐いて呟いた。
ストライク・バレット ヴェールクト @Garm01
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