三回くらい死んだ俺。
サクラリンゴ
無題
ある時俺は、オタクだった。
いたって普通のオタクだった。
日本のどこにだっているオタクだった。
退屈な日常とあくびを噛みしめながら高校へ通い、
中学までやっていたバスケはキツそうだからと諦め、
名目だけの文芸部に入り、
ライトノベルのように無口なメガネっ娘がいるわけでも、残念な隣人たちがいるわけでも、誰かに奉仕している仲間がいるわけでもない、
ただ平凡な、自堕落な、現実をあきらめ二次元に憧れる
ただそれだけの高校生活をおくっていた。
ある日、スマホをいじりながら道を渡っていたら信号無視したトラックが突っ込んできて死んでしまった。
死ぬ瞬間、えも言われぬ恐怖と、あらゆることへの後悔と、転生への希望を抱いた。
ぼんやりと、母さんが泣いているのが見えた。
ある時俺は、盗賊だった。
前世の記憶を引き継いで、ライトノベルで憧れていた職業に就いた。
あの世らしきところで女神に話しかけられたときはワクワクした。
死んだことを喜んだ。
これから始まるであろう異世界転生チートハーレムに胸が躍った。
でも、現実は違った。
俺は戦うのが怖かった。
戦争も痛みもまともに知らないで、育った俺には、無理だった。
俺は闘うのが怖かった。
自分の弱さと戦わず、いつも他の何かに逃げていた。
自分の弱さが嫌だった。
自分の甘さが嫌だった。
盗賊を雇う人などおらず、
暗い路地をふらついて、
ゴミ箱の中を漁っても、
いつしか俺は死んでいた。
またもや俺は、女神に会った。
ある時俺は、魔法使いだった。
魔法を使ってみたかった。
でもやっぱりダメだった。
日本ですらも勉強しない、
俺が使える魔法など、
たいしたことないものばかり。
旅に出たのはいいけれど、
仲間ともどもゴブリンに、
殴って、斬って、蹴られては、
最後にゃ喉笛切り裂かれ、
野原に転がり死んでった。
ある時俺は、俺だった。
何やら日本に戻ってて、
どうやら時間も戻ってた。
俺は、必死に生きてみた。
なんでも必死にやってみた。
後悔しないよう生きてみた。
ラノベみたいにはいかないけれど、
いい奥さんとかわいい子供、
子供は巣立って、妻は死に、
多分もうすぐ俺も逝く。
でも、俺には分かってる、
もう生き返りはしないこと。
三回くらい死んだ俺。 サクラリンゴ @sakuratoringo0408
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます