第10話 決着、そして、新たなる強敵

 俺は光の中で目覚めた。俺はまだ死んでいない……、のか?


 まだ城の中だ。辺りにはギナ、ノルン、そして、目の前にミルフィーが居た。俺もミルフィーも互いに無傷だった。しかし、二人の手の中にある剣は、見事に2本とも刀身が真っ二つに折れていた。ミルフィーは折れた剣を放り投げた。そして、その場にしゃがみ込んだ。

「さすがね……。兄貴の創った剣とは言え、私が最大レベルまで引き上げたバニッシュソードを折っちゃうなんて」

 そして、俺とノルンを交互に見た。

「大したものよ。まさか、こんなに強くなってしまうなんて思わなかった。もういいわ」

 ミルフィーはまるで自分が負けたかのような口ぶりであったが、それは逆であった。俺は自分の武器を失い、ノルンも魔力が尽きた。ミルフィーは自分の剣の一本を失っただけで、まだ余力は十分にあるはずだ。圧倒的にこちらが不利だ。

「だから、もう良いのよ。こんな世界飽きたわ。私の思い通りにいかないなら、もういいわ。私の方が退場する。後はあなた達で好きなように結末決めちゃって良いわよ」

 ミルフィーは手をあげた。手の中の光の球が現れ、俺の方に向かってきた。すると、俺の拳の中で一振りの剣が現れていた。


「それはもう一つのバニッシュソード。それで私を貫きなさい」

「それで、私の存在はこの世界から消えるわ。もちろん、それで神としての私は消える事はないけど、とりあえず、もうこの世界に干渉はしないわ。また、別の世界を創って、そこで、今度こそ私好みのイケメンな主人公を創って、今度こそハッピーエンドにするわ」


 俺はバニッシュソードを構え、ミルフィーの傍まで寄った。俺は剣を振りかぶった。

「じゃあね……」

 ミルフィーは目を瞑った。そして、俺は剣を振り下した。グサッと地面に剣が突き立てられた。剣はミルフィーの身体を貫く事は無かった。

「創造主としての責任を放棄して、何をこの世界から逃げ出そうとしてんだよ?」

「お前の言う通り、この物語の結末は俺達で決めるさ。ただ、それをお前にも見てもらわないと、その結末が良いものか悪いものかよく分からないだろ? だから、お前にもこの物語に参加してもらないといけないんだよ」

 ミルフィーが俺を見上げた。目には涙を浮かべていた。

「だって、あなたはあの娘が好きなんでしょ? だったら、私は何なの? ヒロインじゃない私は何なのよ? ただの町娘になれって言うの?」

「お前もギナも勘違いするなよな。俺はノルンが気になっていただけで、別に好きとか言ったわけじゃない。それに、お前も町娘だろうが、ビューティーファイターだろうが、神様だろうが、好きな役をやればいいじゃないか。お前は何になっても俺達に干渉してきそうだしな」

 俺はノルンとギナの方を見た。ノルンは屈んでいたが、どうやら大丈夫そうであった。

「お前らにもまだ参加してもらうぞ」

「あれ? 俺もまだ参加していいのか?」

 ギナは意外そうにそう言った。

「可愛い妹の物語の結末が見たいんだろ? な、お前も良いだろ、ミルフィー?」

 ミルフィーは黙って顔を背けた。頬を染めており、満更、絶対嫌という風でもなさそうだった。本当はこの物語はギナに最初に見せるつもりだったのかもしれないな、と俺はそう思った。

「決まりだな」

「でも、どうするんだ? この後の展開。どう考えても収拾がつかなくなっているぞ」

「それは……」

 確かにギナの言う通り、物語の展開は収拾がつかなくなっていた。魔王にミルフィーが浚われたところまではまだ良かったが、その魔王をノルンが倒して、助けられたはずのミルフィーと俺達が戦ってしまったのだから。


「まあ、この際、細かい事は置いておこう。俺達が何をしたいか、まずはそれからだ」

 俺はミルフィーを見た。

「さっきも言った通り、私はどうでもいいわ。この後の展開はあなた達で決めればいい」

 次にノルンを見た。

「私はやっぱり良く分からない。自分が何をしたいのか。さっきまでは自分の力を試したいって思ってたけど、何か違う。でも、皆と冒険出来たのは楽しかった。自分の存在に意味が無かったとしても、皆と居れたら、それはきっと楽しいと思う」

 最後にギナを見た。

「俺もか? 俺こそ部外者だから、この物語に対してどうこう言う筋合いは無いけど。まあ、登場人物のギナとしての意見なら、このキャラに相応しく、女の子二人と冒険できたらそれで満足さ」

 それで、3人の意見は聞いた。

「で、お前は?」ギナが俺に問いかけた。

「お前がこの物語の主人公なんだろ? この先の展開はお前が決めればいいさ」

 3人とも頷いた。俺は3人の真剣な眼差しを見て、ずっと溜まっていた自分の思いの淵を打ち明けることにした。


「俺は……、最初は嫌だったよ、主人公なんて。出生も決まって無いし、必ず冒険に出ないといけない。そして、危険な目に合わないといけない。ヒロインが傍に居るってのも正直、鬱陶しかった。打ち明けると、魔王との最初の戦いの後、一人になってから、俺はだらだら一か月を過ごしたんだよ。最高だったよ、あれは」

 ミルフィーの顔が何度か引きつっていたが、俺はそのまま続けた。

「でもな、誰かを護る為にミルフィーと真剣に戦って、この世界の宿命を自身の背に背負うと真剣に思えるようになって、主人公ってのも悪くないなって思うようになったよ」

 3人とも俺の方を見て、少し微笑んだ。

「だから、俺もまだまだ皆と冒険したい」

「ふ。やっぱり、お前ならそう言うと思ったぜ」

 ギナは俺の肩をポンと叩いた。皆も笑顔で俺の方を見ていた……、が。


 グラっと城内が揺れた。

「な、何だ!? まさか、これはお約束のボスを倒した後のダンジョンが崩壊するってやつか? ミルフィー、お前の仕業か!?」

「ちょっと! 人のせいにしないでよっ。あれよ、あれ。あんたのせいよ。あんたが気障っぽく、それを地面に突き刺しちゃったりするから!」

 ミルフィーはバニッシュソードが突き刺さっている地面を指差した。

「あ!」

「あ、じゃない! そりゃそうよ。何でも消しちゃうんだから、このお城も消えちゃうわよ!」

 俺は自らのしでかした事に唖然とした。

「と、とりあえず、脱出するぞ、みんなぁ~!」


 俺達は急いで、城内から脱出した。脱出後は、魔王の城が見事に跡形も無く、消え失せてしまった。バニッシュソードの威力がこんな形で明らかになるとは。

「さてと、気を取り直して……、新たな冒険へ……」

 俺はそう言いかけたが。

「おい、イグマ。お前は肝心な事を忘れているぞ」

 ギナは真剣な面持ちでそう言った。

「な、何だよ……?」

「物語において、重大な存在を忘れている。それは……、敵だよ」

「てき?」

「そう、敵さ。宿敵。それを俺達は既にもう倒してしまっているんだ。これじゃあ、物語を続けようにも続けられない」

「それなら、心配無いわ」

 ミルフィーは指をパチンと鳴らした。すると、空間から異世界に通じてそうな穴が突如現れ、そこから醜悪な姿をした魔物が現れた。

「これで、敵には困らないでしょう? それに……」

 魔物が現れたかと思ったら、急にその凶暴な腕でミルフィーを鷲掴みにした。

「きゃああああ!!」ミルフィーは突如、悲鳴を上げた。

「何で? この魔物、私の支配を受けないなんて……! 信じられない」

「みんな。落ち着いて。私の事はどうでもいいわ。自分でどうにかするわ。だから、絶対に助けに来ちゃ駄目よ。この魔物は私にも制御できない、未知数なんだからね」

 魔物はミルフィーが叫んでいる間、律儀にも微動だに動かなかった。どこが制御できないだ? まるで賢いペットのような振る舞いだ。


「あのなあ。ミルフィー……」

 もうちょっとマシな演出を、と俺が言いかけたところで、突然、爆発が起こり、魔物は木端微塵になってしまった。そこには杖を構えたノルンの姿があった。

「ちょ、ちょっと、ノルン。何するのよ!」

 ミルフィーは助けられたというのに文句を言った。

「ミルフィーさん。こんな魔物じゃあ、ぬる過ぎるよ。私、それよりももっと強大な敵役知ってるよ」

「ノルン?」

 ノルンはミルフィーの元にすたすたと歩いて行った。そして、杖を掲げると、泡のようなものでミルフィーがすっぽり包まれた。

「ちょっと、ノルンちゃん? な、何してるのかしら……?」

 ノルンは冷めた目でミルフィーを見ていた。

「だから、あなたは囚われのヒロインになりたいんでしょ? だったら、お望み通り捕えてあげる」

「まさか……」俺は息を飲んだ。

「そう。ヒロインのミルフィーは、新たなる魔王ノルンの手によって捕えられるの。それで……」ノルンは俺の方を見た。

「主人公イグマは、今度は私を倒しに来る」

「ま、マジかよ、ノルン。だって、お前、俺達と冒険したいって……」

「そうよ。私はあなた達と冒険したい。今度は敵役として、一緒にね!」

 ノルンは不敵な笑みで俺を見ていた。なんて事だ。新たなる強大な魔王がこの世界に生まれてしまった。

「一本取られたな、これは……」

 ギナはどこか嬉しそうにそう言った。たぶん、ギナとしてはこれはこの展開で面白くなりそうだから良いのだろう。

「ギナ。お前の力で……」

「無理。俺、これ以上、妹に嫌われたくないし」

 薄情者め……。


 まあ、しょうがない。これがノルンの選んだ道だ。そうと決まれば、俺も腹を括るしかない。かつての仲間との戦い。今まで以上に厳しい戦いになるだろうけど、俺はどこかわくわくしていた。そうか。物語の主人公ってこういう気持ちなんだな。新たな冒険は目の前に拡がっている。そう。俺達の冒険はまだまだ続くんだ。この世界が存在する限りは……。

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