第9話 死闘

 俺は神殺しの剣を構えた。そして、ミルフィーに向かって行った。

「はぁ。イグマ……。あなたも消す必要があったわね。もう、それじゃあ、本当にこの物語は創り直しね。あなたを創った時は、最高傑作が出来たと思ったわ。だから、あなたには最高の物語を、って思ってたんだけどね……」


 ミルフィーは俺の方にバニッシュソードの切っ先を向けた。

「本当に残念よっ!!」

 二つの刃が交わる音が響いた。


「どこから物語が狂ってしまったのかしらね」

「そんなの、初めからだろっ!」

 俺達は剣を交えながら、言いたい事を言い合った。


「大体何だよ、最初のシーンはやりたい放題やりやがって!」

「だから、あなたに最高の物語を創ってあげたかったの!」

 ミルフィーの剣が寸前のところで俺の肩を掠める。危ない。あの剣が少しでも身体に触れてしまったら、どうなるか分からない。


「物語もダンジョンも魔王も滅茶苦茶じゃないか! ギナの言う通りだよ、とんでもない物語だ!」

「煩い煩い煩い! 私だって、初めての創造よ! 分かるわけないじゃない!」

 ミルフィーの猛攻が一段と増す。俺は防戦一方になって行った。


「大体何よっ! なんで、ノルンの事を好きになっちゃうわけ? やっぱり男はみんな、ロリコンで浮気性とでも言うのっ!?」

「浮気って……、俺は別にお前の彼女でも何でもないっ!! 大体、あんな無茶苦茶やる女を好きになる主人公が何処に居るんだよっ!」

 そこで、ミルフィーの猛攻が止まった。


「もういいわ……。終わりにしましょう」

「アタックエンハンスメント最大。プロテクションエンハンスメント最大。スピードエンハンスメント最大……」

 ミルフィーはぶつぶつと何かを唱えていった。

「これで最後よ。この攻撃はあなたには防ぎきれない」

 ミルフィーはバニッシュソードを構えた。俺は本能的にまずいと思った。絶対的な力。それにはこの世界の者全てが抗うことは出来ない……。


 その時、俺達とは別のところで、ギナが動いていた。ギナはノルンの傍に寄り、絶望して項垂れているノルンの頭に手を添えた。ノルンはギナを見た。

「ノルン。こうやって、お前の頭に手を当ててやった事覚えてるか? 実はお前の山籠りの時もずっと見てたんだぜ? お前の魔力が尽きそうになったら、こうやって良い子良い子してやったんだぜ」

 ノルンは自分の身体に魔力が戻ってくるのを感じていた。


「正直、お前は俺にも信じられないくらい強くなったよ。ミルフィーの言う通り、規格外だ。それが俺にも何に起因しているのかは分からない。ミルフィーはお前の事を毛嫌いしてたが、もしかしたら、お前はミルフィーの影のような存在なのかもしれないな。まあ、今はそんな事どうでもいい。今、お前は次に何をしたいのかはもう分かってるよな?」

 ノルンは何も言わず立ち上がった。ただ、その眼には絶望の色は消え失せ、鋭い視線でミルフィーの方に向いていた。


「イグマっ!」

 ノルンが叫んだ。俺はノルンの方を向いた。いつの間にか、ノルンは杖を俺の方に向けていた。その杖の先からは、さっきノルンが放った女神の極光が俺に目掛けて放たれていた。

「ノルン、何のつもりだよ!? なんで俺に?」

「良いから、その剣をこっちに向けて!」

 俺は言われるがままに剣をノルンの方に向けた。すると、ノルンが放った魔法の光は剣の刀身の周りをぐるぐると回り、剣は緑の光を身に纏った。

「それが私の全て! それで戦って……」

 それだけ言うと、ばたりとノルンは倒れた。

「ノルンっ!」

「心配すんな。ただ魔力を使い果たしただけだ。こっちの事は任せろ」

 俺はギナの言葉を信じて、光を纏った聖剣をミルフィーに向けた。


「言ったでしょう? 神の次元はあなた達とは違うの。そんな努力は全て無意味なの」

「そんなのやってみないと分からないだろ?」

「まさかあれ? 二人の愛の力で全てを乗り切るって言うやつね。はぁ。だから、あんなのは創造主が特別に力を与えているに決まってるでしょう? 私もそんな事やりたかったんだけどね、もうそんな必要も無いしね……。だから、神の奇跡なんてことは絶対に有り得ない!」

「神様の奇跡なんてものは要らない。お前を倒すのには俺達の力だけで十分だ!」


 俺達は剣を構え、ゆっくりと間合いを取った。これが最後の一撃となるだろう。どうなるかは分からなかったが、不思議と気持ちは晴れ晴れしていた。こんな気分になったのは、ミルフィーに創られたこの物語が始まって以来の気持ちだった。こんな気持ちを味わえるのなら、物語の主人公になるのも悪くないかもしれない。俺はそう思った。


 俺とミルフィーは同時に剣を振りかぶった。剣が交差する。そして、光が飛び散った。

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