死の群像 終章
死の群像 終章
――年々自殺者は増加しており、特に最近では若者の自殺率が高まっている傾向にあり、政府はこのことを受けて……
人が死んでいく、たくさん死んでいく。
私もあそこに行きたかった。皆が向かっている、穴ぼこまで辿り着きたかった。
私はもう歩く気力もなくなるほどに疲弊して、それでも皆に追いつきたかった、辿り着きたかった。
ぐいとひとつ、踏み込むだけでいいのだ。
それで文字通り奈落の底へと落ちていける。
それで人も世もこの身からもおさらば出来る。
恥も怒りも後悔も、なかったことに出来る。
ただひとつ、踏み込む、朝ベッドから降りるような、単純な行為だ。
ただそれだけのことなのに、エンジン音がやけに大きく聞こえてしまう車内で、私は嫌な汗ごとハンドルを握りしめながら、息を乱していた。
呼吸の仕方を忘れそうになった私は、大きく息を吸った。
その酸素が、気管を通り、肺に至り、血液へ吸収されていく様を一つ一つ辿るような、ゆっくりとした時間を味わった後、私は、ぐわんと、大きく息を吐いた。
けたたましく鳴り響いた高音は私をシートに叩きつけ、地球が無抵抗の私を押さえつける。
まるで天地もなくなってしまったかのように、窓の外には緑色の星が降る。
これで、全て片が付いた、向こう側に片足突っ込んで、意識はあちらに置いてきた。もう、成すがままに、成すがままに死んでいける。
「そう思ったのに」
そう、思ったのに。私の体はぐいとこちらに引き戻された。
ひどく無理矢理に体を引っ張られ、体中がちぎれそうに鋭く痛い。
一部の例外もなく現実に叩きつけられ、炙られるような鈍痛が、内部から襲ってくる。
何故、何故私は無意識の中でブレーキを踏んでしまったのか。
情けない。恥ずかしい。悔しい。悲しい。不快。
その感情があるからなのか、西日に目を焼かれたからか、それとも痛みのせいか。
この涙は、この頬を伝う涙は何故流れているのだろうか。
わからない、わからないが
「泣いてしまいたいほどに」
死の群像 島田黒介 @shimadakurosuke
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