おそ松さん

 最近、女性を中心に『おそ松さん』が流行っている。

 私自身も、ときたま暇があれば視聴しているが、なるほどギャグをベースにしながら面白い作品が出来上がっているような気がしている。

 確か、1話が放送された直後はパロディがひどいなどといった批判だったり称賛だったりを受けていたはずだ。


 さて、どうしてここまで女性に人気が生まれたのであろう。

 従来の深夜アニメに対する世間一般の認識という物は、たしかにやや時代齟齬を感じなくもないが、大きな男たちが、かわいい女の子やバトル作品に対し、異様な執着を見せ、ときにグッズなどを購入することでその業界を支えている、いわば一般的な世界とは隔絶した物であったように思われる。

 視聴者のメインは(今でも変わりはしないと思うが)男性である。

 私はまだ若いので、古手のアニメには強くないのだが、たとえば『シスタープリンセス』などはさすがに女性をターゲットとして見据えた作品ではないはずだ。おそらく子供でもないだろう。大人の男性をメインにしたアニメが多かった。

 『おそ松さん』という作品はそういった認識に対して、大きな転換を迫る作品ではないだろうか。

 『おそ松さん』関連のニュースや書籍を見る限りだと、主な視聴者は女性になっているように思われる。現に、グッズやファンイベントなどでも女性の姿がほとんどであるように感じられる。

 もちろん男性が見ないというわけではない。私だって時には見ているし、私の周りにも普通に見ている男性は多い。男性でも所謂「推し松」なるキャラクターを持っている人も多いだろう。

 女性向けの作品であるかどうか、と問われればそういうわけではないだろう。1話のレビューを見た限りでは、もともとは他の深夜アニメ作品を知っている人が視聴しているという前提で作られたような気がしている。枠線が青色で描かれているのも、母体となった『おそ松くん』が古めの作品であるから、新しいカッコよさを生み出したかったからと聴いている。

 それではどうしてここまで女性に対して多くの人気を得ることになったのか。たとえば「腐女子」といったグループに対して、媚びを売ったのだろうか。確かにその「腐女子」の間柄では、妄想世界の中でカップリングが自由に行われているだろうし、それを咎める空気もない。これは大事なことだろう。第何話かまでは記憶にないが、それを思わせるようなストーリー展開もあった(個人的には、この手の話は女性に限らず男性にも受け入れやすい環境下に現在はあると思っているが)。

 『おそ松さん』以前のアニメなどで女性に大きな支持があった作品をいくらか上げてみることで比較検討をしてみよう。

 『うたの☆プリンスさまっ』シリーズは女性に大きな人気を誇った作品であったと記憶している。これはもともとメインターゲット層を女性に絞った所謂乙女ゲームが原作となったはずである。登場女性は基本的に主人公のみで、他はイケメンフェイス・イケメンボイスを備えた男性ばかりで、環境としては逆ハーレムと言えるだろう。これらが放送されていた時は多くの女性がこれらのグッズを身に着けていたように思われる(最近はおそ松グッズに駆逐されているようだが)。彼らは常に女性に笑顔を振りまき、女性を虜にする。その容姿自体も男性が見てもイケメンと認識されるような整った顔立ちをしている。

 『スタミュ~高校星歌劇』も人気があった作品だった気がする。こちらもイケメンな男子高校生が多数登場し、またアイドル的な要素を持った作品である。先に挙げた『うたプリ』と同様に作中に歌やダンスが登場し、一般的に男子生徒がキラキラリア充している姿をカッコよく感じれる作品ではないだろうか。私自身がこれを視聴していなかったためあまり詳しい作品概要など分かりはしないのだが、グループとしては『うたプリ』と同じものとして良いと思われる。

 『弱虫ペダル』は漫画を原作として超人気作品である。これは女性だけでなく男性にも人気があった。最近はミュージカルとして実在の俳優らを用いて演技を披露しているようだ。当作品は自転車レースを舞台とした男子の熱いスポーツバトルアニメだと認識している。先に挙げた2作品とは異なり、言葉を換えれば「イケメンがイケメンにシングする」タイプではなく「イケメンがエモーショナルにスポーツする」タイプなのではないだろうか。もちろんOPやEDも人気があったが、歌よりも作品自体が重要視されているような気がする。

 似たようなタイプに『黒子のバスケ』を挙げることもできるだろう。影の薄いクロコと光と称される火神との友情をバスケを通じて描いた作品は、内容も色濃く、また多くの適役仲間役含めてイケメンが登場することから、一時期はニュースにまで取り上げられるなど絶大な人気を誇った。彼らも必死にスポーツであるバスケをプレイし、その中で人間性の成長と、友情の結束などを見せつけてくれる。見たことない人に説明するならば『ロウきゅーぶ』の登場キャラクターが良いカラダした男子高校生になったくらいの感覚でいてくれたらよいと思われる。

 他にも作品を挙げるならば『ハイキュー』、『美男高校地球防衛部LOVE!』、『Free!』、『テニスの王子様』、『薄桜鬼』シリーズ、『黒執事』、『世界一初恋』、『緋色の欠片』などではないだろうか(どれも主観で選んでいるため個人差はあるでしょう。他にお薦めあれば教えてください)。

 さて、以上のような作品の中から一般法則を考えてみる。たとえば抑々ターゲットを女性に絞った乙女ゲームが原作となったアニメは総じて女性の人気が高いようだ。ボーイズラブ要素はそこには必要はなく、単純に女性主人公(自分)と登場人物(イケメン)との物語性を持った絡みがそこには描かれる。他方、スポーツタイプもやはり数が多い。そこにはマネージャーなどといった女性キャラクターはいるものの、やはりメインとなるのは男同士の熱い友情である。熱い友情を表現するためにスポーツを介していると言った表現が正しいだろうか。ここにもボーイズラブ要素は必要ないと思われる。たしかに一部に男性が好きな男性キャラクターといったものは登場するが、これは例外に含めてよいだろう。少なくとも主人公に近しいキャラクターは所謂ノーマルである。

 全体をとおして言えるのはやはり圧倒的男成分である。男性キャラクターが非常に多い。その男性誰もがイケメンなのだ。実際世界にはいないような顔立ちが日本人離れした整った男性キャラクターが男性声優(たとえば宮野真守、杉田智和など)によるイケメンボイス、もしくは女性声優(たとえば桑島法子、堀江由衣など)によるショタボイスに女性たちが魅了されるのだ。声優イベントなどに参加する女性たちも凡そ、これらの作品から声優のすばらしさに気づいたのではないだろうか。先に挙げたアニメ作品以外にも男性キャラクターが多く、しかもイケメンな作品を思い浮かべてみれば『K』シリーズなども女性に人気があったように思われる。たしかに他作品ほどまでの人気にはならなかったようだが、登場人物は女性が他作品に比べて多いものの、イケメンぞろいで、またこのアニメを原作として(アニメ自体はオリジナルアニメである)女性向けゲームが発売されたりもした。上記作品はGoHandsが担当しており、特徴的な色彩効果を用いたアニメーションは一定の評価を得ている。

 さて、それではここで『おそ松さん』に話を戻したい。確かに『おそ松さん』は男性キャラクター成分が豊富である。そもそも6つ子全員が同じ顔をした男の子である。内容としてはスポーツでもないし、歌劇系統でもない。むしろいわゆる「日常系」と呼称されるようなタイプにグルーピングするのが適当だろう(もちろん「日常系」の定義は曖昧であるし、ここでの判定に意義を唱えたい方も多いだろう)。キャラクター自身も「イケメン」かと問われれば、私には「いいえ、イケメンではありません」と答えざるを得ないだろう。まず顎がシュッとしていないのだ、いままで見てきた作品はたいてい顎がシュッとしていたはずであるし、イケメンと定義されるようなアニメキャラクターの多くは顎がシュッとしていたように思われる(もちろん『かぐや姫』の帝や『遊☆戯☆王』の城之内もイケメンに分類される)。

 それではなぜ『おそ松さん』が人気が出ているのか。正直分からないというのが今私自身の結論である。乙女ゲーム出身でもないこの作品の人気の秘密など、一個人の私には分かりようもない。けれども周りに評価を聞くに限り、「かわいい」や「ダメ男好きなんだ」などと言った言葉が散見される。たしかにダメ男に惹かれるしっかりした女性は多いと聞く。その中で『おそ松さん』はそんな彼女らの受け皿となったのだろう。周りには芯が太いしっかりとしたイケメンや、熱い気持ちを持ってはいるけれど、行動ができないイケメンなど、精神面ではプレイヤーとも呼べる女性よりも高位(女性を貶めているわけではありませんが、私の語彙力不足でこのような表現とさせていただいております。申し訳ありません)にある。他方、かれら「○○松」たちは、言わせてもらえればクズである。リアルにいれば個人的には友達すら拒否したくなる面子である。けれども乙女ゲームの中にいるような完璧超人よりも、親しみやすいのは確かなのかもしれない。

 このアニメの人気が一過性なのか長期的なものなのか、まだ分からない。長期的に続くようであれば、やはりその作品にはそれだけの魅力となる原因が隠れているのだろう。それは従来の女性向けアニメとは異なった部分があるに違いない。またそれを取り入れたアニメ作品が売れることによって、その存在は確信に変わるだろう。他方、これが一過性だった場合は、『おそ松くん』という昔の有名なマンガのパロディ作品があまりに予想を超えた作品だったからという、ある意味で親に七光を浴びたような作品だったのかもしれないし、『おそ松さん』が売れた理由を解明しきれない我々の落ち度なのかもしれない。

 以上のように考えてみれば、もしかしたらこの『おそ松さん』に隠される売れる、面白い、人気を生み出す理由が明らかになれば(もちろんこれは製作者側からの理由もあるだろうし、視聴者側からの理由もあるだろう)、『おそ松さん』を契機としてアニメの傾向が変化していく様子を観察できるのかもしれない。


以上、雑記でした。



以下、今回出てきた作品一覧

アニメ

『おそ松さん』

『うたの☆プリンスさまっ』シリーズ

『スタミュ~高校星歌劇』

『弱虫ペダル』

『黒子のバスケ』

『ロウきゅーぶ』

『ハイキュー』

『美男高校地球防衛部LOVE!』

『Free!』

『テニスの王子様』

『薄桜鬼』シリーズ

『黒執事』

『世界一初恋』

『緋色の欠片』

『K』シリーズ

『かぐや姫』

『遊☆戯☆王』

声優

・桑島法子

・杉田智和

・堀江由衣

・宮野真守

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