第4話

 歩いていた。霧の中を手探りで。遠くで誰かが待っているようだったから。噎せ返るような息苦しさに耐えながら、誰かのもとへ、ただひたすら歩いていた。


 桜が舞う。

 狂気が僕を開放した。


 小さな手のひらが僕の手を握る。妹だった。幼い小さな妹。天使のようで、小悪魔のようで、誰からも愛される存在。僕の可愛い妹。

 頭でっかちで足のおぼつかない、バランスの悪い体型の妹は、いつも手をつないでいないとすぐ転んでしまう。だから痛い思いをしなくていいように、泣かなくて済むように、いつも僕がしっかり守ってあげていたんだ。


 待っていたのは、懐かしい母の姿。妹は僕の手を放し、大喜びで駆け寄っていく。母は溢れんばかりの愛情を、妹に注いで抱きしめる。僕は関心のないふりをして、その様子を伺っていた。いつものことだ。そうだ、いつもそうだった。母は僕の方を見ない。


 仕方なかったんだ。母は僕を嫌っていたから。いや、そうじゃない。恐れていたんだ。確かに自分が産んだはずの、この不気味な息子をどうしても理解することが出来なくて。

 

 僕は、僕は、だから

 妹が羨ましくて

 妬ましくて

 天使のように清廉潔白であれば、あるほどに


 あなたが、妹を愛すれば、愛するほどに

 心はさらさらさら、と


 破壊


 だから、仕方なかったんだよ、お母さん。

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