第3話
しゃらしゃらと鎖のように忍び寄る旋律が、ゆっくりと全身をがんじがらめにする。呼吸を静かに静かに仕留めるように。
突風が吹き、目の前に少女が現れた。閉鎖された
少女の瞳は、その視線の先にある、碧暗い池の深さを測るように、とても冷たい。
「あっ」
僕は声にならない悲鳴を上げた。
同時に、淡い黄色のワンピースの裾が、スローモーションのようにゆっくりと揺れながら消えていく。
少女は深い池へと自ら身を投じたのだ。
「いや、違う」
少女の後ろにはもう一人立っていた。もう一人の少女。
あれは誰だ?黄色いワンピースをまとった少女の背中を押して、深い池へと突き落とした、あのもう一人の少女はいったい誰なんだ。
旋律が僕を抱き絞める。振り払えない、どうしようもない現実から、逃れられない。
残酷なもう一人の少女は
そうだ、僕だ。
罪深き僕の真実の姿だ。
今まさに人を殺したはずの罪深い少女は踵を返し、丘を降りて行った。歌うように軽やかな足取りで、僕の存在にはまるで気づかずに。
いったい何があったのだろう。これは僕の記憶の中の出来事なのか?それとも現実に行われた事実なのだろうか?僕は少女が落ちた方へ駆け寄った。少女を呑み込んだ池は静かにやわらかな陽光を反射するばかりだ。本当に、今、ここに少女は落ちたのだろうか?
誰かの意図が僕を翻弄する。僕は大切なことを忘れているのだ。大切な何か…。早く思い出さなくちゃいけない。
ごうと鳴って、また突風が吹いた。僕は完全に隔絶されてしまった。真実だと思っていたこの日常から。
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