のびんとす

高橋祥生

第1話 アリとキリギリス

アリとキリギリスというイソップ童話は冬に備えて夏の間に働くアリと、遊び呆けて冬に餓死するキリギリスの対照であると信じ込んでいたが、少し調べるだけでその他のことがいろいろわかる。キリギリスが元はセミだったとか、結末に2通りあって一つはキリギリスはアリの恵みを受けて歌で返礼するのと、もう一つは恵みを拒否されて途方にくれるものである。子供の頃に読んでおもったのは、備えあれば憂いなしという教訓であり、しみじみとしたものである。自分のためだけにセコセコ生きて他を顧みないアリ、おもいどおりの人生(夏)を過ごして死んでいくキリギリス。考えどころはあるようである。モームの短編集にも「蟻とキリギリス」があって読んでみると楽しい。アリである中年の兄はキリギリスである不埒な弟の面倒を見ながらそれでも健気に人生を生きている。兄がほとほと厭になって暗い顔して今後の人生を憂いているようなので、訳を聞くと弟が年上の女性と結婚し、その女性がすぐに亡くなって膨大な財産を受け継いだというのだ。そして今も気楽に楽しく暮らしているという。兄に憂う理由はないはずなのだが、理不尽な人生模様がそこに読み取れるというものである。

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のびんとす 高橋祥生 @nobin-tos

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