第12話
「結局失敗に終わったわね」
あの雲の上に彼女の姿をした何かがにっこりと満面の笑みで語りかける。
ああ、これは夢か。
「失敗なのか? 確かに辛かったけど好きだと自覚してたわけじゃなくてそれこそ商材が潰れたくらいの認識でこれからも普通に接していけるんだから失敗じゃないと思うけど」
そうだ、失敗じゃない。
「失敗でしょ。だってあんたの願いは彼女が欲しい、だったはずよ。そう考えると失敗以外のなにものでもないじゃない」
そう言われればそうか。
「さて、反省会といきますか。でもあたしが言えるのはどうすれば上手くいったかじゃなくて結果についての考察しか出来ないからそのあたりはあしからず」
いいだろう、聞こうじゃないか。
「結論から言えば別にあんたは何か間違いを犯したわけじゃないわね。待ってたのも設定作りという名目で会ってたのも悪くない。だけどこの結果になった、それだけのことよ」
何を言っているのか分からない。
間違いのない行動をとっていたけどこの結果に終わった、ということはいったいどういうことなのか。
「ま、難しく言えば例えば時間がループしてるとしてこの行動を百回やれば三十回くらいは告る男が現れなかったりタイミングが遅かったりしてあそこの位置があんたに回ってくることがあった、ってこと。簡単に言えば何しても無駄な時は無駄だったということね。今回はそういうケースでしたおしまい」
なんだそれは。
俺は何も悪くないじゃないか。
「その通りよ。だけどそういうものなの。それにさ、あんた諦めたかったんじゃないの?上手くやってもどうにもならなければ諦めるしか無い、そう思ってたんでしょ?」
確かにそうだ。
諦める理由が欲しい、そう自分で言っていた記憶がある。
だけど諦めたいわけじゃない、ただ判断の材料を増やしたかっただけだ。
「ま、チャンスを上げたあたしが言うのも何だけど確かに向いてないわね、恋には。だってここまでお膳立てして間違いがない状態でこれだもん。向いているとは言い難いわよね。ただこれであんたも欲望ってものを知ったでしょ? どうするかはあんた次第よ」
俺次第ね。
お膳立てされてもどうにもならないことがあるくらい向いてないことはよく分かった。
だけど自分でこういうことまで持って行くことが出来るのかというのも甚だ疑問だ。
だけど俺は「恋」もどきとはいえ、あの喜びを知ってしまったのだ。
「時々また小馬鹿にするために夢に出てくるからよろしくね。もちろん当分はこの姿でトラウマ煽るから」
ふざけんなよ、やめろよそういうの。
「嫌よ。それにどこかにあんたの心が反映されてるんだからこの姿なの。だからあたしが変わる時はあんたが変わる時よ。じゃ、そういうことでまたね」
考察の割にはあっさりだったな。
それと毎度自分がいなくなる時には俺も覚醒した状態で現実に戻してくれないだろうか。
それはともかく、確かに俺は幸せを知ってしまった。
それと同時に不幸せも知った。
あとはどうするかは、何度も自分に言い聞かせているのが格好悪いけど自分次第ということなのだろ。
さあ、起きよう。
ますはクリスマスを乗り切らなければなるまい。
さて後日談。
といっても何か特別なことがあったわけじゃない。
ただ彼女とは普通に話したりするし、メールしたりもする。
さすがに彼氏持ちと二人で飲みに、とかもいけないので設定の話が出た時はだいたいメールだ。
だけどそこに関して普通に接していけるのは大進歩だと思う。
それと眼鏡は新たな女の子を狙っているようだが、上手くは行ってないみたいだ。
楽しそうではあるけど。
そして俺自身は最初に言ったように特に何かあるわけではない。
相変わらず異性との関わりはないし、自分で作ることも出来無い。
あんなことは二度と無いのは分かってるけど、それでもやっぱり怖いものは怖いのだ。
だから最近はやっぱり無理かな……と思い始めてる。
大きな経験をしても人はなかなか変われないのだ。
だけど俺は幸せになれた。
恋は実らなかったけど、それに似たものを体験することが出来た。
これからどうしていくのか、自分にも分からない。
ただ今は感情を積み上げていくしかないのだ。
それがどんな結末に終わったとしてもね。
ハッピーライフ @asetonn
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