第11話
それから二週間後の話だ。
あの話があってから、自分の中でどうすればいいのか、どうしたいのかというのを決めかねていた。
つまり何が言いたいかというと恥ずかしくてとこれ以上近づくのが怖くてなかなか連絡出来なかったということだ。
でも、あいつはこれが原因だとは言わなかったけど、それでもやっぱり後悔は残ってる。
ここからはただの失恋の話だ。
いや、自分としては好きという感情を明確に自覚して認識していなかったから恋ではないと思ってる(人はそれを言い訳と言うけれど)。
だけど、恋だとしてもどちらにしても、俺は「上手く」出来なかったのだ。
俺の「恋」もどきは終わったのだ。
あれから二週間、クリスマスも近付き、世間はその話題で持ちきりだった。彼女持ちはもちろんイブは予定ある、と言ってたし眼鏡はあいつはあいつで
「そういう日に盛り上がる元気が出ないんだよ……なるべく見ないように家に籠るんだ……」
とか言い始めるからその日に飲む相手がいなくなってしまった。
そこでふと頭に浮かぶのが彼女のこと。
情けないなぁ、と思いつつも誘ってみれば、と悪魔の声が頭の中に響いていた。
結局その時は誘うことは出来なかったのだけれど、今度もし会うことがあれば、これも運任せだけど誘ってみよう、そう考えていた。
その次の日、久しぶりにショッピングモールに行きたくなった俺は(カップルを見ると辛くなるが、クリスマス時期のあの雰囲気は好きなのだ)わざわざバスに乗って某ショッピングモールまでおでかけした。
それが運の尽き。
いや、どうせ分かることなんだから運の尽きではないのか。
ショッピングモールでひと通り雰囲気を楽しんだらもう午後6時、夕飯の時間だった。
フードコートで適当になんか食うか、と思い適当にマックでハンバーガー類を買って食べていると見てしまったのだ。
楽しそうに手をつないで男と歩く彼女の姿を。
怒りとかそういう感情はなかった。
それはそうだ、俺は何もしてないんだから怒るのも理不尽だし、怒りなど沸くはずがない。
そこにあったのは自分でも驚くほどの冷静な感情だった。
そりゃそうだよなぁ、あんだけ可愛ければなぁ、とか何もしなかったしなぁ、とかあの時ああしてればよかったのかなぁ、そんな感情。
ショックなことは確かだけど、こんなもんだよな、という諦めに似た感情。
そうこうしているうちに彼女たちは僕の視点からは見えなくなってしまった。
さて、後は収束に向かわせるかだけだ。
その夜、俺は彼女の携帯電話に電話をかけた。
あれだけ会ってるのに、意外と電話をするのは初めてだった。
そりゃあ同じアパートに住んでるから必要なかったわけだ。
それなら家まで行けばいいじゃん、と思うかもしれないが顔を合わすのは少々つらい。
四コールで彼女は電話に出た。
「どしたの?こんな夜中に」
ここからは極めて平常心でいかなければいけない。
「おう、こんな遅い時間に悪いな。実は確認したいことあってさ」
気にしてないとかいいつつ気になってたんだなぁ……。
涙声になりそうだ。
「ん?なに?」
「今日さ、イ○ンで男と歩いてただろ。あれ、彼氏?」
心のどこかで違うと言ってくれと思っている自分がいる。
見た時はあんなに冷静な感情でいられたのにいざ状況が確定しようとするとこんなにも弱くなるのか、俺は。
「うん。そういえば言ってなかったね、ごめん。付き合い始めたのが先週でなかなか言う暇がなくてねー」
やっぱりそうだよな。
ここでゴネられないのも結局は弱さなんだろうな……。
「そか、おめでとさん。上手くやれればいいな。どっちから告ったんだ?」
「向こうから。そりゃあ男の子からでしょ」
「そかそか。ま、設定のあたりとか困ったらいつでも相談にのるから。じゃ、おやすみ」
「うん、ありがと。おやすみ」
ため息ひとつ。
これが俺の「恋」もどきの顛末だ。
どうしようもなく滑稽で、あまりに順当な結果。
さて、明日から普通に接していかなければならない。
そのくらいのことは出来るくらいには成長できたつもりだから。
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