第2話僕は、ここで死んだ

 ここは、世界の狭間。

 僕は死んで、ここにいる。

「だよね」

「はい」

 立っているから、地面はあるんだろう。

 真っ暗で、地面と空間が完全に交じり合っている。

 ここで色が有るのは、僕と目の前に立つ、

「はい、女神です」

 だそうだ。

 印象は、女神と天使を足した感じだ。

 流れる金髪。慈愛を称えた整った美貌。肌理(きめ)など見えないどこまでも透通った肌。

 理想的なプロポーションを純白の一枚布――トガで覆い隠してる。

 いかにもな女神様だ。

「で、転生させてくれるって?」

「はい」

「理由を聞かせてくれないか?」

「死を与える能力」

 それか。

「その能力は、強力です。そのまま捨置くのは惜しいとの意思がありました。そこで、お話をしたくお呼びしました」

「そんなの、問答無用で送ればいいだろ?」

「制約があるのです」

 制約ね……

「異世界へは、貴方の能力はそのままです。ただ、そのままでは不安になるでしょう。ですから少しお力を貸します」

「力?」

「はい。『共感』といいます。もっとも貴方が持つ力に比べれば些細なものです」

 共感。クズに共感なんて出来るとは思わないけどな。

「同調することによって、相手のことがわかる能力です」

「うん? それじゃあ、いきなり襲われたら間に合わないじゃないか?」

「同調できるものは、生物だけではありません」

「……なるほど、空気に同調していれば、周囲の動きがわかる。近くにいるものに同調すれば、危険を知ることが出来る。そして……」

 目の前の女神の微笑が、増したように見える。

「同調できるものは、一つではない。だろ?」

「はい。さすがですね」

 僕を試すようなことはしないで欲しい。こんなの常識がある人間なら推測できて当たり前だろ?

「そのスキルは、何時もらえるんだ」

「世界を渡る際に。その世界に適合する為に、貴方の再構成が実施されます」

「その時に合わせてか。なるほどね」

「それでいかがでしょうか?」

「何が目的かとか、他にも色々聞かなきゃ嘘なんだろうけど、まあいいよ。貰ったものが大きいからね」

「『貰ったもの』? “もう一度の生を”でしょうか?」

「いいや、僕の能力についてさ」

「そうですか」

 流石は女神か。

 僕の言葉で今一瞬、目を細めたな。

「では、よろしいですか?」

「ああ……あっと、確認があったよ」

 女神は、僕が続けるだろう言葉をわかっているのだろう。

 静かに両手を広げた。

「僕の持っている能力は、今もあるのかな?」

「はい」

「そう……」

 僕を取り囲むように、足元へ光を発する円が描かれた。

 続いてその光は立ち上り光柱を作ると、僕の身体は不意に浮き上がり始めた。

 ああ、やっぱり。

「僕の能力は、『死を与える』って言ったよね?」

 僕が、何かしたのをわかっているだろうに。

 ゆっくりと昇り始めた僕を、女神は黙って見続けるだけだ。

「今、能力を使ったんだけど、やっぱり女神なのか、効かないね」

「神は“不死性”を持ちますから」

 笑顔で答えるか。まあ、いいけど。

「ところで、僕は考えるんだ。死を与える能力……同じ対象に二度つかったらどうなるんだろうね?」

 こんな美人は激昂するより、こうやって無表情になった方がらしいよね。

「よく不死身とかいうけど、あれって“不死”じゃなくて、自分という存在の中に“死”が無いだけじゃないのかな?」

 いいね、いいよ。そのクズがクズを見下す目つき。

「お前、最高だよ。これはお礼」

 ああ、やっぱり。

 女神様なんだから、もうちょと演出があってもいいと思うんだが。

「地味だな」

 

 ただ、倒れるだけなんてね。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「やっと行きましたか」

 地面に横倒れる女神の傍に、同じ女神が現れた。

「想定通りに、殺しましたね」

 女神でも溜息をつくようだ。

「さて、あちらの世界は彼が滅茶苦茶にしてくれましたから、少なくない時間を巻き戻して、構成し直す必要がありますね」

 めんどくさい。と、随分人間臭い仕草で零す。

「あ、死んだ私は、同化したら意味ないですし、このまま彼がいない分の穴埋めに使いましょうかね」

 女神にとっては妙案だったのだろう。

 鼻歌を奏でているが、正に女神。

 それさえも神聖な賛美歌の如く、神妙に聞き入ってしまいそうなあんばいだった。

「でも、聡い経験主義者は、御し易くて助かりますね。確かに、貴方のスキルは使うことが出来ますけどね」

 人では抗えない、性別を超えた本能を直撃する魅惑の笑みで続けた。

「罰を、罰を与えましょう。罪には罰を。ね」

 熱い吐息が“ほう”と香った。

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