思っただけで死を与えられるようになった
うしひつじ
第1話僕は、こうして死んだ
あれは何時だっただろうか?
確か、学校で何時ものように教室の隅で、何時ものようにクラスの“外面は良いけど内面は真っ黒”な、教師陣や父兄に好評かな数人の男女に囲まれて、何時ものように意味もなく殴られていた時だったと思う。
「このデブ、キモいんだよ。何でハブのお前を、俺達のグループに入れなきゃならないんだよ!」
ああ、そうだ。
そう言えば、修学旅行の行動グループ分けであぶれた僕は、担任がこいつらのグループに押し付けたんだ。
「あんた、当日休みなさいよね。今、こうやっているだけでも、臭くて吐き気がするのに、修学旅行まで一緒とかありえなんですけど」
押し付けてるお前の足の方が臭くてたまらないよ。
上履き越しでって、毎日風呂に入ってなさそうだ。
「ちょっと聞いてるの!」
僕の口から、『ぐ』とも『ぎゃ』とも解らない声が、かってに溢(こぼ)れた。
「おい、それはまずいって。シャレになってねえよ。泡吹いてるぜ。マジでこれ、保健室じゃね?」
「そんなに強く蹴ってないわよ。こんなんで泡をふくとか、こいつが軟弱なのよ。保健室にいったら、私らが悪くなるじゃない。それに――」
僕の身体はどうなっちゃったんだろ? 怖くて確認が出来なかった。
いじめる奴は人間として底辺なんだ。だから、何をされても構う必要はない。構ってやるのももったいない。こいつらはクズのクズだ。
だから、今回も怒ってもやらない。お前らに構うのは勿体無いんだよ。クズ共。
「どうせ、使われることはないわよ。一生ね」
頭が真っ白になった。
この後、この女子がその場で突然死をした。
死因は心筋梗塞との事だった。
が、その実、不明だったらしい。
「お前のせいで、あいつは死んだんだ!」
翌日、校舎裏に連れ込まれた。
あの女子の彼氏達――あのグループの中で付き合っていたらしい――に、つれてこられた。
僕のせい? 僕は何もしてない。それどころか『机の角に股をぶつけて股を怪我した』なんて嘘を強いられてるくらいなのに、何を言っているの?
「死んで償え!」
そいつは、そこで死んだ。
死因は、脳卒中だった。
やっぱり、クズはクズらしい死に方をしてくれると、胸中大絶賛だった。
数日後、その男子のお通夜に、クラス全員で行くことになった。
当然、僕は行く気はなかった。
そうだろ?
でも、結局お焼香の列に並んでいた。
不当に被害を受けていた僕なのに、面倒を良く見てもらっていた僕こそ行くべきだと、担任が強制したからだ。
本当に、よく出来た教師だと思う。
「どうぞ」
僕の番が来た。
右に居並ぶ奴の両親へ、一礼をした。
今まで丁寧にお辞儀を返していたのに、僕には違った。
父親は、僕を見ない。
母親は、息子の仇ここにあり。と言うように、目尻が裂けるほど見開いて来た。
生前に何を言われたのか知らないが、こんな場所でそんな態度はないよな。
「ああ」
不意に納得できた。
こんな両親だから、あんな子供になったわけだ。
クズの親もクズか。ちゃんと躾けろよな。
出来ないなら死ねよ。
目の前で、死体が二つ出来上がった。
この頃から、自分に“殺せる能力”があるんじゃないかと思い始めた。
きっかけは……自分の股へと自然に目がいった。
「やりなさい」
後日、担任が作文を書くよう言いだした。
クラス内のある一家が、突然の不幸に見舞われた――それも一家全員が突然死という不幸だ。その慰めとして皆でとい事だそうだ。
当然、僕は拒否した。
担任は、強制を即答。
その夢見がちな頭が使うガラス球は、さぞかし優秀なフィルターがついているのだろうと思う。
「クズ教師は、クズの後を追えよ。死ね」
初めて意識して死を与えた。
思うだけで、相手を殺せる能力。
大抵は、自分の能力にほだされ、人格が崩壊していくのがセオリーだ。
だけど、僕なら大丈夫だ。
僕は、意識の高い人間だからな。
その後の僕は、この能力をごみ捨て場を荒らす、カラスや野良猫に使うようになっていた。
一番便利だったのは、部屋の蚊を思うだけで殺せたことだった。
ある日、テレビで汚職政治家の献金問題が放送出されていた。
クズが政治をやりたがるわけだ。
本当に全うな人間なら、その責任に躊躇(ちゅうちょ)するか、人としての生活の全てを捨てる覚悟で望むはずだ。
その時の僕は、タンスの角に足の小指をぶつけて非常に不機嫌だった。
そのクズ政治家を、殺してしまった。
僕だって人間だ。完璧じゃない。
その時の感情で、判断や行動は変わるのは当たり前だ。それをせめらる覚えはない。
ただ、この衝動は結果的には良かったみたいだ。
全てが無かった事のように事態は収束し、国会審議は再開された。
ああ、そうか。
やっぱりクズは、死んだほうが良いんだ。
ならついでに、世界も綺麗にしておこう。
「どけよ、クズ」
ある晩、近くコンビに行くと、入り口前に数個のクズが座り込んでいた。
掃除をしてやった。
「さっさと、突入しろよ」
立てこもり事件が発生した。
テレビの向こうでは、犯人が人質を盾にとっているせいで、機動隊が突入できないと報道している。
この人質、鈍臭いな。
お前がいなければ直ぐに解決なんだよ。このクズ。
突入できない原因を排除してやった。
案の定、直ぐに機動隊は突入し犯人は捕まった。
後の取調べで、自分は殺していないと言っていると報道があった。
殺すつもりだったろうに、何を言っているのか?
かんに障ったので、殺した。
最近、近所からバイクのエンジン音が、夜中に安眠妨害レベルでうるさくなるようになった。
バイクのことは良く知らないが、何かいじくっているみたいだ。
迷惑なんだよ。黙れ。
朝八時頃、何でも近所の旦那さんが急死したらしい。外からおばちゃん連中の耳障りな声に意識をたたき起こされた。
うるさいな。どっかいけよ。
しばらくすると、救急車が数台駆けつけてきて、その音で二度寝からさめた。
この頃は、学校に行くのが馬鹿らしくなっていた。
クズに教わることなんて何一つ無い。勉強ならインターネットでも出来る。
ただ、親は僕の考えがご不満らしい。盛ん学校に行くように言ってきた。
だから、行っても無駄だって言っているだろ? 解らないかな? 本当に親なの? 親なら子供の意見を尊重するものでしょ?
ああ、そうか。
この人達は僕の本当の親じゃないんだ。
家の中だと邪魔になるので、外食に連れ出して食事中に殺した。
「ごめんね。明日から学校に行くよ。しばらく外に出ていなかったら、ちょっと予行練習をしたいんだ」
こう言ったら、直ぐに連れて行ってくれた。
僕はちょっとしたお金持ちになった。
この人達の保険金もそうだが、レストランの人からも慰謝料がもらえたからだ。
世間の声は事実を作り上げるって、本当なんだな。
世界の理に感心していたかったのに、邪魔が入った。
親戚と名乗る奴らが「金の管理」やら、「貸していた」とやら、色々言ってきた。
親切面するなよ。うざい。
莫大な遺産が舞い込んできた。クズはいない方がいいと、改めて思った。
でも、お金があっても意味はあまりない。
服には興味が無い。ブランド物なんて低俗な関心は持っていない。
それに、「あ、これいいな」こうやって店頭の物を持ち出しても、何も言われない。
誰も居ないから。
この街には今、誰も居ない。
だから、お金を使わなくても、有る程度のものは手に入った。
なんでも、最近急増している急死は、ウィルス性のものだったとか報道があった性で、隔離区域になっているからだ。
もちろん嘘だ。
嘘の報道をしたクズも、嘘を公然と議会答弁したクズも、終わらせてやった。
「――失敗しました。直ちに避難を……」
なんだって? ミサイルが発射されて、迎撃に失敗したって?
また、なんて嘘をでっち上げたものやら。
「まっ白」
こうして、僕は死んだ。
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