(ii-5)破綻のない構成

 まず、「破綻のない」という表現を一つのリストの中に二つ重ねてしまった不明をお詫びいたします。誠に申し訳ございませんでした。<(_ _)>

 悔しい…… (ビクンビクン




 気を取り直して、『破綻のない構成』とはなんぞや。

 そもそも「構成」って何だと思う人もいるだろう。あくまでも本稿コラムの中での意味付けで言うが、「構成」とは、小説の中で「どんな出来事が、どんな順番で起きる(書く)か」である。

 まず「構成」そのものについて説明してみよう。




 序盤に読者を引き込むために早めに「事件」を起こそう、そこで得た新たな仲間との交流を次に描こう、仲間が馴染んだところで仲間を襲う謎の人物が「事件」を起こす、……


 そんな風な、「出来事の順番」を「構成」と呼んでいる。


 小説、特にラノベを読んでいる人であれば、「既に物語がある程度進んでいる場面を、プロローグとして持ってくる」という技法を見たことがあるのではないだろうか。冒頭いきなり、主人公勇者とラスボス魔王が戦っている場面をチラ見せしておき、本編第一章では、ずっと時間を遡り勇者の最初の旅立ちから始まる、というやつだ。


 部分的に時制を動かして、過去だの未来を持ってくる。そういうのも「構成」である。


「ストーリー」とどう違うか。ちょっと分かりにくいかもしれない。

 とりあえず「構成」では、その内容よりも「小説に対しての意味合い」が重要だ。

 何を書くのか? を決めるのが「構成」で、それに基づいて実際に書いたものが「ストーリー」だと言うことも出来る。


「起承転結」、「序破急」といったものを思い浮かべて欲しい。これらは、「構成」をもっともシンプルな形に研ぎ澄ませたものだ。有名な用語なのでいちいちここで説明はしないから、分からない人は辞書を。


「起承転結」、「序破急」にはそれぞれ、物語に果たす「場面が果たす役割」がある。

 この「場面が果たす役割」こそが「構成」のキモだ。


 先に例に挙げた、プロローグにラストバトルの1シーンを持ってくる配置。これはプロローグに「読者の興味を一瞬で引き寄せるために、最も盛り上がる場面を先に見せる」という「役割」を果たさせたいからこそ、時制を無視してでもそこに配置したわけである。「最初に見たあの面白い場面に、読み進めていけばいつか巡り会える」と読者に思わせたいわけだ。そう思ってもらえれば、先を読み進めてもらえる動機付けになる。



 このような「場面が果たす役割」を考慮し計算して、小説の設計をしていくことが、「構成」なのである。



 もっと違う「役割」もある。

 例えば、異能バトルものの物語で、異能だの魔術だのの細かな説明を抜きにして、ともかく最初にバトルシーンを持ってくることが多いのは、上に述べた例と同じく「惹きにする」意味合いもある。が、その次に「説明するパート」を持ってくると、「バトルで意味が分からず読者にとって疑問のままだった用語や設定を、解説する」という「役割」をパートに与えることが出来る。

「読者の疑問に解答する」という「役割」を持たせることで、「説明」でありながら、より自然に読者に受け入れてもらえる演出にもなるのだ。「説明的だ」と悪く評されるような作品やパートは、「不自然にそこだけ説明する」から、作品の中で悪目立ちするのである。このように構成を工夫して「自然に」見せてやれば、読者はすんなりと説明を受け入れることが出来る。



 物語に沿った「役割」もある。

 誰でも知っている童話『桃太郎』を思い浮かべてもらいたい。あれは「起承転結」がハッキリした物語で、「起」は拾った桃から子供が生まれ、成長して鬼退治に出かけるまで。

「承」は三匹の家来が加入していくところ。「転」は鬼退治の戦い。「結」は財宝を持って帰還、となっている。


 短い童話ならこれで十二分だが、仮にこれを長編化するとしたら、この「構成」だけでは単純過ぎる。犬、猿、雉も、くっついてくるだけで役に立つのかどうか分からない。

 ではどうするか。

「承」パートを細分化し、それぞれの家来の加入後に、彼らが活躍するパートを挿入しよう。そこで、彼らがどのように役に立つのかを読者に見せつけるのだ。

 そう考えて、新たな場面を増やしていく――これも「構成」なのだ。



 長くなってきたが、そろそろ終わりである。我慢されたい。



 面白さを判断する基準として「構成」を考えると、キーになるのは「その場面が果たそうとしている役割」である。

「実際に役立っているか否か」「役立った結果、作品の面白さに貢献しているか否か」「無意味な場面を挿入していないか」といった辺りが、実際に「構成」を評価する基準としている。



 ストーリーライン、筋立て上は意味のないキャラが突然現れて、笑いだけ取って去って行く。その場面を描く意味とは? コメディ・リリーフ? 作者の自己満足で終わっていないか?


 魔王討伐の旅をする勇者ご一行が、途中の街でほっこりエピソードを重ねていく。大丈夫か? そうしている間にも魔王軍が人々を殺戮して回ってるんじゃなかったっけ?


 丁寧に、世界観や異能の説明エピソードを、主人公の日常生活に重ねていく。ええと、もう全体の半分まで来てるんだけど、説明まだ終わらないの?


 これらのようなものを感じると、「構成」面での評価は下げざるを得ない。小説全体の面白さには寄与しないからである。




 良い「構成」では、個々の場面が果たすべき役割と存在意義が、すべて繋がっている。ストーリーの山、動きを作りやすくするための準備場面、キャラの魅力を際立たせるための場面、読者をハラハラドキドキさせる困難の場面、シビアな展開の中でほっと一息付けるささやかな笑いの場面――それらが一繋がりになった時、ストーリーは完璧な「一本の道」となって読者の前に現れる。これ以外に「道」はなかった――と読者に思わせる構成、それが「良い構成」と言えるものだろう。

 ディズニー・ピクサーのCGアニメ映画などは、それが極まっている。一切の無駄なく配置された場面、エピソードの数々……ぜひ参考にされたい。


 読了した時の、「場面」ごとの無駄のなさが、「構成」面での優秀さを物語ると考えて、まず間違いはなかろう。自分としては、そういう「場面」ごとの意味合いを考えながら作品を読むようにしているのである。




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