(二)読み通せない作品~こんな風には書かないでね

 作風やジャンルの好き嫌いはそんなにないので、どんな作品でも読めるタチだと自認している。純粋に「つまらないな……」と思わなければ、カクヨムで読み始めたものはなるべく読み切るつもりでいる。


 唯一「ダメだこれ、勘弁して」となるのが、“文章が悪い作品”である。

 個人的には、物語としてドラマツルギーとして、面白くない作品というのは、まだしも読み切れる。逆に、文章が良ければそういう作品でもけっこう楽しく読めることもある。文章そのものが、物語とはまた違う、ひとつのエンタテインメントとして成立し得るからである。

 だが逆は厳しい。面白いドラマ、物語に、ひどい文章を合わせるといけない。なぜなら、文章は「伝えるツール」であり、これがひどい品質ということは、結局「何も伝わってこない」からである。

 残念ながら、カクヨムでもこれに近い作品に何度か出会ってしまった。


 最初っから奇天烈で電波がゆんゆんしていて、“ソイツに触れることは死を意味するッ”と予感が働いてくれるような作品なら、ページを開いた次の瞬間に閉じてしまえるのでかえってありがたい。

 そこまでひどくなくても、作者アオリだけで文章の破綻が見える作品は手を付けずにすむので、これまたありがたい。


 一見すると普通の日本語でありながら、所々でどうしても読み進められない文章を差し込んでくるのが一番応える。何が応えるって、「ごめん、がんばってここまで読んできたけどもう無理、許して」と心の中で作者に赦しを請わねばならないのが応えるのだ。チキンハート的に。


 それだけ言うと、どんな文章のことか分からないかもしれない。ぼんやりした例を挙げると、「言葉の意味や使い方を間違っているのに堂々と連発してくる」というのがあった。地味にツラい。自分の中の常識で文章を読むと、なんだか意味が通じないのだ。えっと思って戻ってみて、再読再々読で「あ、違う」と気付く。これが続く。ツラい。

 そこまでアクロバティックでなくとも、その語句がするはずのない活用をしていて新たな日本語が創造されてしまっているとか、本来その語句には使えない修飾語を合わせてくるとかもあった。ツラい。このあたり、具体例を挙げると検索で当該作品がヒットしてしまうので、この場で無理矢理に作ってみると、


 静寂たる炎


 わかんねーよ。静寂たるってなんだよ静寂はナリ活用だからそこは「静寂なる」だろしかも炎と合わせんのかよ形容が繋がってねーだろ一瞬たりとも止まることなく動いてる炎がなんで静寂なんだよマッチ棒かよ。

 ……と、こんな風な文が地味にツラい。比喩表現として成り立つような文脈でならともかく、描写でストレートにこういうのをやって来られるともうダメだ。読めない。そっ閉じというヤツである。



 一応、我が身はデビューを(一度は)果たした身ではあるし、その後も出版物に関わる会社に勤めていたりしたので、一般的な人以上に、言葉や文章に敏感なのである。編集者にも、校正の赤入れがかなり少ない方だと言われたことがある。多少の文章的冒険なら、面白がれるヨユーは持っているつもりだが、どうしても越えられないハードルは存在するのである。


 おおむね、そういうツラい文章・文体は、カッコイイ場面で頻出するようだ。見せ場となるシーン。“惹き・引き”になるシーン。昔からそういうものだが、特に書き慣れていない頃には、ついつい盛り上がるところで美文っぽく書いてしまうものだ。そして大概、失敗する。自分自身を振り返ってみても、それに近い時期はあった。

 既存書籍の表現を真似ている面もあると思うが、自身の書く文章がしっかりできあがっていない段階で、そういうアクロバットを真似てしまうと、残念ながら逆効果になるのだ。『型を知って尚そこから飛び出すのなら型破りだが、型を知らずに羽目を外すのは形無しである』ってなものだ。

 読みながら文章の理解が詰まると、そこで物語まで詰まってしまう。せっかくの盛り上がる場面で、物語の勢いを削ぐようなことはすべきではない。



 言葉の意味をまるっきり間違っていれば、普通は校正や校閲で直されるのでね……その点では、そうした行程の存在しないWebサイト文芸だからこその悩みどころ、と言える。


 その文体をやるな、とは言わない。だが、“今まだやるな”とは言いたい。型を破りたいのなら、まずは破るべき型を知っていなければならないからだ。

 キミが書きながら思い浮かべている映像なしに、その文章だけを読んで、キミの頭の中の映像は再現出来るかい?



 そういうことを伝えたい、キミに。←誰よ





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