星屑のように

のわきくるみ

第1話

つまらない職場の忘年会で、酔っ払った帰りの電車。

隣に座りる男女の、くだらないイチャイチャ話を聞きながら、猛烈に彼に会いたくなった。

このまま家に帰らずに、彼のアパートに行こう。思いが突然突き上げた。

彼が在宅してるかどうか分からない、でもそんなことどうでもいいんだ。とにかく行く!

こんなこと素面ではありえない、 だから、お酒っていいよねー。そんなことを考えてるうちは、きっとまだそれほど酔っていないんだ。

駅から彼のアパートまでタクシーを使った。役20分の運賃を気にしないのも、お酒の力。

呼び鈴には応答なし。

そろりと、回したノブは、鍵が掛かってなくて、クルリと反応した。

いいですよね?

だって私、いちおう彼女ですもんね?

酔いに任せて上がりこんで、意外に片付いた部屋を見回す。

ふーん。

彼が朝までかえってこなかったら、それはそれでいいかと、幾分酔いの覚めかけた頭で考えて、炬燵に入ってコロリと横になった。

あれー!来てたん?の声と、程なくしてキス。それで、ぼんやり覚醒した。

どうやら歓迎されたようだ。

だから、お酒っていいよねって思う。素面じゃとてもこんな風に、押しかけたりできないよ。

少し酔いの残った体が、彼の動きに反応して、解けていく。

あーっ、来てよかった。

日々の些末な出来事が、全部遠くに散っていく。

常識ってなんだ?

そんなものに縋って弱くなるより、とことん自分を信じてやれ。たとえ誰かを傷付けたとしても、とことん自分を愛してやれ。

誰に遠慮もいらない。俯向く必要もない。

私は私を信じ、愛していると叫んでやれ。

彼の温もりに酔いが加速していく。

窓から差し込む月の明かりに晒されて、私は私以外の何者でもなくなる。

誰も知らない星屑のように、誰も知らない雨だれのように、誰にも掘り起こされることのない、化石のように。

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星屑のように のわきくるみ @mogsta0921

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