第七話:環(めぐ)る因果(3)

 ……その後は、正気と狂気のせめぎ合う、気の遠くなるような時間旅行だった。


 俺と彼女……キハルは、自分をそれぞれに取り戻し、維持し合いながら、荒神そのもののエネルギーがほかの世界と衝突することだけは食い止めなければならなかった。

 だから、力を合わせ、根気と忍耐力を酷使しながら内側から自分たちを解体していくことにした。各アースへの被害を、最小限に食い止めながら。

 結果、おおきく分けて四つに割ることには成功した。時間だけは、頭がおかしくなるぐらいにはあったからな。


 ひとつは、能力をつかって空間自体を生成。その領域に封印した。

 外部からの侵入アクセスはほぼ不可能だ。


 ひとつは、この世界の太古に吹っ飛ばしたが、どうにも最近争奪戦があったそうだな。その後行方知れずになってる。


 ひとつは……俺ら自身とその肉体をふくめて、この世界の龍脈の奥底に眠らせたつもりだった。

 ひとつは、それからさらに二分して絶えず流動させることにした。


 だが、どっかのバカモノがそれを感知して龍脈をサルベージした。

 野心というにもあまりに幼稚な、面白半分、興味本位というやつでな。


 ……ここまで言えばわかると思うが、これが『鏡塔事件』の発端だ。


 強引な地脈の歪曲によって、周辺には怪異が蔓延し、『吉良会』幹部はその力を手に入れて、世の中をひっくり返すべく暴走した。

 それ以上に、肉体に囚われていた俺を、救うために、あいつらは……俺の旧友たちは。


 本人たちの名誉に誓って言ってやる。

 龍脈を引っ掻き回した犯人と、『吉良会』幹部葉月幽は、別だ。

 ……《どこかの誰か》は、まるで自分が事態を解決したかのように言って、罪をすべて彼女らになすりつけようとしてたみたいだから、あえて修正させてもらった。


 その事件の衝撃で、俺たちは地表に出た。葉月幽によって、力の大半は奪われ、その力があいつが消滅したあと、《どこかの誰か》が奪っていった。


 結論から言えばキハルの意識は死に、彼女は、最後の力で俺の肉体を取り戻して、再構築してくれた。

 その身体が、これだ。

 もはや何の力も残っちゃいないし不安定だが、まぎれもなく、俺の、俺たちの生きた、いや生きている、証だ。


 ……残るひとつは、もう言うまでもないだろう。

 異世界の神話だとか、鏡塔の事件だとかにまったく関係がない。たまたまその渦の近くに居合わせただけの、若干霊感があるだけのふつうの少女、八葉輪の体内だ。



 以上が、俺の知るすべての経緯と真実だ。

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